第73話 工場見学

※年末年始という事もあり。まだ図書館から資料が届いてないので、調査が不十分な状態で書いてます。ゴメーンネ


「私はこの施設からアンデッドの基底データを集める作業をする」


 サビ鉄の教会、工場の中枢から離れ、僕たちは一旦、VTOLまで帰ってきた。

 クガイさんはイルマから持ってきた機材を、中枢につなげる作業をするようだ。


「えっと、手伝わなくて大丈夫ですか?」


「気を悪くしないでほしいんだが、あまり専門外の者に触ってほしくない」

「あっはい。」


 僕らは作業を続けるクガイさんと別れて、この造兵工廠で具体的には何が行われているのか、それをステラさんの解説のもと、見に行くことになった。


「工場見学ってなんかワクワクするでっすね~」


「昔のヒトは、工場を見学すると、そこで作っている物をもらえたらしいけど……、ここだとそういうワケにはいかないよね」


「アンデッドくれたとしても、えらい困るわそんなん」


「さて、ヒトのような生命、その大元おおもとがどうやって生まれたのか?それについて説明することから始めましょうか」


 造兵工廠のコントロールを掌握した僕たちは、管理下にあった全ての防衛用アンデッドを停止させている。


 つまり工廠内部は自由に歩き回れる。

 そして今は例のトマトスープ工場にいた。

 ここは有機物を砕いて、アンデッドの素体へと組み替える工程をしている。


「ここがあなた達の元、グレイマンを作る工程のラインね。ここよりは小規模だけど、実は同じものがイルマの衛兵隊基地にもあります」


「おっかないですね~?」


「よくよく考えれば滅茶苦茶なことをしていますよね。生き物だったものをかき混ぜて、新しい生き物を作るなんて」


「ええ、とんでもないわ。でも大昔の地球では、それが起きたのよ」


 コキコキと機械の体を鳴らして、ステラさんの言葉に続いたのはネリーさんだ。


「生命が自然発生するっちうのは、廃材置き場を襲った突風によって、飛行機ができあがるくらいの奇跡。前にそんな話を聞いたことがあるわ」


「ええ、飛行機は完成しないかもしれないけど、その素材は完成することは1950年代にもう判明していたわ。ようはアミノ酸みたいな有機物ね」


「1953年、ユーリー・ミラーはメタンやアンモニア、水蒸気の存在する、原始地球の大気を模したフラスコの中で、雷代わりの放電を行い、有機物を合成したわ」


「ほえー、それってすっごいんです……?」


「ええ、命の素になる有機物が、ガスやチリから生まれる事をこの実験は示したの」


「ところでフユ君、あなたは生命、『生き物』を定義する、3つの要素について、知っているかしら?」


 あ、これは最初のアガルタに入る前に、オズマさんが言ってたことだな?

 確か‥‥‥。


「えっと、確か外界と膜で隔てられていること、エネルギーを出し入れすること、後は、自身の複製をつくる事だったかと」


「素晴らしい。ではそこの説明は飛ばしましょう。」


「その3つの定義のうちのひとつ、エネルギーの出し入れ。これは何を意味するかというと、これこそが『生命の始まる瞬間』なのよ」


「どういう事でっす?」


「生物の定義をクリアする為には、まずエネルギーが必要だわ」


「なるほど、栄養を取り入れてエネルギーにする機能がまず先にあった。そして必要な機能を膜を作って閉じこめて、その複製を始めた?」


「その通り!細胞に膜が発生したのも、膜の内部でエネルギーの生成、代謝、その他化学反応の濃度を高めるためにしたと考えられるわ」


「そして『生命の始まる瞬間』で行われたのが『酸化還元反応』よ。地球上に存在する生命全てが、これに由来したエネルギーの生成をしているわ」


「ちなみに、私たちもこれを行っています。疑似血漿リンゲル液はこれを効率的に行えるエネルギーの素です。」


「えっ?じゃあ僕たちは、モノじゃなくて生命なんですか?」


「えーっこんがらがってきたでっす!!」


そこはちょっと複雑なのよね。エネルギーの代謝と進化プロセスだけで、生命の定義は満たせるのだけど、私たちは自己を複製する能力を、テクノロジーに頼ってるから……メタヒューマンともいえるし、自動人形オートマトンともいえる」


「実際、NASAは宇宙で生命を探査する際、そう定義していたのよ。私たちアンデッドも、ヒトも、NASAの定義だと、そこにほとんど差はないわ」


「そしてここからがちょっと難しいんだけど……」

「細胞や神経を行き来するタンパク質は、その中に、金属補因子と呼ばれるものを持っているの。鉄と硫黄からなる、ナノスケールの鉱物のカタマリよ」


「えっと、血が赤いのは鉄分が含まれてるからですよね?」


「そう、それよ。私たち体の中でエネルギーを得るために起きている科学反応。その仕組みで必要なのは、正真正銘の金属で、無機物なの」


「僕らが体を動かし、考えるのも、化学反応でしかない。そしてこれには金属が必要で、自然界にある鉱物と同じもの……?」


「そして問題になるのが、命はどうやって鉱物を得たのか?」

「おそらくその鍵となるのが、太古の地球の海底にあった、熱水噴出孔なの」


「ああ、生命は海で誕生したってやつですね?娯楽映像でよく聞く文句です」


「実のところ、人の体の組成は大地よりも海水に似ているわ。地球の表層に多く含まれて存在する、アルミニウムやケイ素を人体ではあまり使ってないの。」


「そしてここは、その環境を再現している場所なのよ。無機物から有機物へ、そして生物に進化するまでを再現しているといってもいいわね」


 生き物だったなにかを破砕する機械と、何かを貯蔵するタンクが並んでいる光景をステラさんは指し示す。


 なんかすごい話になって来たなー。


 僕らの元になったグレイマン。

 それを作るためには、生命がどうやって生まれたのか?

 その偉大な謎を解き明かす必要があったわけだ。


 ん-、ということは?


「ここから有機物が繋がってどうこうなるのって、ものすごい量の組み合わせがありますよね?そこから同じ命を作るって滅茶苦茶大変では?」


「変なのが出来ちゃうかもでっすね?」


「ええ、もちろんハチャメチャに大変よ。過去に同じやり方で地球に生命が発生した。この事実そのものを疑いたくなるくらいにはね?」


「さて、このハチャメチャに多い有機物の組み合わせをどうにかする方法。それには何を使うべきか?答えの書いてあるモノを使うのが一番いいわね?」


「――答えの書いてあるモノ……ですか?」


「ここでやっているのは、遺伝情報を押し付ける能力を持つウイルスが、パーツをひとつひとつを拾いあげていって、組み立てているイメージよ」


「ああ、どっかで聞いたような……」


「あなた達のもつ端末をイメージしてみて。端末はアプリがないと、電気を充電して、それを垂れ流す以外は基本、何もできないでしょう?」


「そうですね」


「ウイルスはプログラム言語でありプログラマーね。彼が必要なものは全て知っている。知識を元に、アプリを製作して、細胞という端末の中に入れていく」


「ウィルスは生産はしない、指示するだけ。でもその指示は基本的な生物の機能をすべて網羅している。明らかに生物ではないにもかかわらずね」


「そうして、メールや通話、機能を取りそろえた端末を作っていくわけ。機能する端末が組み上がっていくと、端末はエンドユーザーの手によって独自に動き出す」


「大昔の地球で起きた偶然を、ここではウイルスの助けで必然にしてるんですね」


「そういう事ね。結局のところ、今ある物を使いまわしているに過ぎない……ここでの生命の誕生は、既存の遺伝子を重複させたり、修正することで実現している」


「でも原始の生きもの、彼らは、遺伝子そのものをつくることから始めなくてはならなかったはず」


「何もないところから生まれる過程には、既にある遺伝子を使い回すこの過程とは、別の原理が働いてしかるべきだわ」


「……完全な始まりは、まだ不明っていうことですか?」


「そう、もしかしたら彼らヒトは、それすら解明していたのかもしれないけどね」

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