第72話 テスト戦闘

『ガガ……検体の実体弾に対する防御レベルを検査します』


 クレーンに取り付けられた黒鉄色のバレルがこちらに向き直った。

 刹那、銃炎がほとばしって、室内を垂れさがるケーブルや、傾き、ゆがんだ鉄骨を照らす。


 発射された無数の銃弾は、白い煙を糸のようにして僕らに向かってはしる。


「盾を展開するで!」

「カバーしまっす!!」


 ネリーさんがどこからともなくシールドを展開して、正面から襲い掛かる銃弾を防ぐ。塞ぎきれない範囲は、ウララが自身の着込んだアーマーでカバーした。


 歩く要塞のウララさんとはいえ、長い時間は耐えられない。

 盾越しに重力子ライフルの狙いを定める。

 ぶっつけ本番だが、そんなことはいってられない。


 レンズ越しにクレーンに狙いを定めて、引き金を引く――

 カシッっと音がしたが、何も起きない。


 クソッ、こんなときに故障か?!

 構えを保持したまま、もう一回引き金を引くか、迷っていた時だった。


 一機のクレーンが唐突に消えた。


 いや、消えたというのは正確じゃない。

 不可視の球体にえぐられた様に、ごっそりとパーツを持っていかれたのだ。


 体積の6割を持っていかれたクレーンは、オイルをまるで血液か何かの様にぼたぼたとしたたらせながら停止した。


「なんぼなんでもアレはないわ」


 こちらに振り返ったネリーさんが、この銃をそう評する。

 まさにその通りだと思う。


「あまりにもこの銃の使い心地が異次元すぎますね」


 射撃が終わった後、重力子ライフルは放熱を開始した。


 つるっとした一体成型に見えた銃身は、全身をバラバラに切り開いて開放して、ゆらゆらと陽炎かげろうを放っている。まるで何かの生き物みたいだ。


「どうやら連発はできないのかな……?」


「あれがポンポンできたらたまらんわ」


 残った3基のクレーンは、小銃による弾幕を中止すると、ポジションを換えながらこちらへ迫って来る。


『検体の実体弾に対する抗堪性こうたんせいを再評価します。37㎜弾を使用します』


「げぇ!なんかヤバいこと言いだしたよ!!」

「それは流石に無理でっす!!!」


 もうだめかと思って、ひょえーとポーズをとる僕とウララ。

 その時、僕らの前へさっと躍り出るものがあった。

 ――ステラさんだ。


 彼女はクレーンに取りつくと、小型砲をざくざくと切り落としていく。

 ああそうか、奴が弾幕を張るのをやめたから、これができるのか。


 ……こいつのテスト、ガバガバすぎない?


『おめでとうごさいます。耐久性、回避反応のレベル、共に高水準にあります』


「この子のいうテストとやら、最後まで付き合ってられないわね」


「クガイさん、あの扉にやったハッキングって、このクレーンにできます?」


「ああ、恐らくは可能だ、こいつは単純なロボットだろう。カバーしてくれ」


 スリングを回して、いつものようにRPKアルパカを構える。


 すると、走るクガイさんをクローで捕らえようとしたクレーンが見えた。

 不味いと思った僕は、ウララと一緒になって、そいつに射撃して牽制する。


 クレーンとクローの間にあった油圧パイプを銃弾で穴だらけにしてやると、鋼鉄の爪はだらんとぶら下がって、床に落ちた。

 クレーンが鋼鉄の塊といっても、動く場所がある限り、そこが弱みになる。


 僕らが時間を稼いでいる間に、クガイさんは外骨格からワイヤーを飛ばして、僕が重力子ライフルで破壊したクレーンに取りついていた。

 ――なにあれすごい。


「パワーケーブルから直接制御系に信号を送れるか試してみよう……ふむ、いけるな。これならハッキングできそうだ、援護してくれ!」


 バチリとスパークを発生させて、クガイさんはクレーンにハッキングを開始した。


 直後、ビクン!と3基のクレーンが痙攣するように動いた後、硬直する。


 やったか?!


『基準を大幅に上回る数値です。アナタタタタチを優良個体トトト認識します』


『――……』


 次に発せられた音声。

 機械音声が、明るい声色の男の子のものになっていた。


『耐久性テストを行いまーす!何度もブチ殺して耐久性を確認しますね!!』


「あのー、クガイさん?」

「申し訳ない。すぐ何とかするので、何とか生き延びてくれ」

「ぎょえーでっす!!」


 その後はちょっと記憶がない。


 壁から噴き出す轟炎、床から突き出す無数の槍に電撃。

 空から降ってくるタライに鋼鉄の爪。


 なぜタライが? 理解が遅れて僕とウララは並んで頭に食らってしまった。


 食らったのはそれくらいだ。後はなんとかして、必死に避けた。

 これまでの半生で、ここほど頑張った瞬間は果たしてあっただろうか?


 全てが終わった時、この化け物アンデッド専用アトラクションの中に残っていたのは、僕らとバラバラになったクレーンたちだった。


 黒コゲ&穴だらけのクレーンは、断末魔のような人工音声を未だに発している。


『プププロセスをサササ再試行。異常を検知、スコアの偽装を検出。ハイキ、ハイキ。壊レロ、壊レ……』


「お前は強敵だったよ……もう二度と相手にしたくない」


「すまなかった。出来得る限りで妨害してみたんだが……」


「タライはクガイさんの仕業だったです?」


「うむ。何であんなものがあったんだろうな?」


「……まあ、ともかく、これで先に進めそうね」


「は、はい、行きましょうか」


 僕らは造兵工廠の中枢へ進んだ。

 そこにあったものは、この工廠の外観には、とても似つかわしくないものだった。


 教会だ。


 娯楽映画や記録映画に出てくる、教会を思わせるものが、そこにはあった。

 でも石積みの壁や木の教壇やイス、華麗なステンドグラスはない。

 その全てを、赤さびた鉄骨が代わりを担っている。


「なんですかこれ?」


 レヴィアタンのアトリエにもちょっと似た感じだ。

 あそこには、ずらりとハイテク製品が並んでいるのに、柱や壁には宗教的な装飾がなされていた。あの雰囲気によく似ている。


「ここに居たネクロマンサーの趣味じゃない?」


「これだけ大規模な施設だ。まあ当然いただろうな」


 教会の奥、説教壇があるはずの場所には、巨大なコンピュータが据え付けられていた。こいつが造兵工廠の中枢だろうか?


「あれがそうなんですかね?」


「間違いなさそうね、制御を乗っ取りましょう。クガイ?」


「ああ、任せてくれ」


 クガイさんが作業をすると、ほどなくして造兵工廠の制御は掌握された。

 なんか、思っていたよりも、あっけないな?


「もう終わりですか?なんか思ったよりあっけないですね」


「あら、これで終わりじゃないわよ?」


「ほぇ?」


「――さて、モノがどうやって生命私たちになるのか?工場見学と行きましょうか?」

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