第71話 造兵工廠、再び

 飛行船でしかない缶詰に比べて、VTOLは何倍ものスピードが出る。

 僕らが少し雑談している間に、目的地に到着してしまった。

 まえにこの造兵工廠へ来た時は、もっと遠くに感じたのだけれど……。


 造兵工廠でひときわ目立つのが、大きなタンクや機械から伸びたパイプが繋がって、まるで大きな心臓のようになっている場所だ。


 僕たちが以前、探索をあきらめた場所。

 防爆ドアの先には様々な金属の反応、そして生物がうごめいている気配がした。


 端的に言うと、ここは命であった何かを砕き、命にリサイクルしてた場所だ。 

 この場所で、一体何が行われていたのか?

 きっとその答えは、あの閉ざされた扉の先にある。

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 砂煙を上げながら着地したVTOLから僕たちは躍り出る。

 すぐに散ると、お互いの死角をカバーしながら、着地地点の安全を確保する。


 以前ここに衛兵隊の人たちと探索に来たときは、造兵工廠が生み出したであろうアンデッドから奇襲を受けた。今回もそうなるかもしれないからだ。


 僕とウララ、クガイさんが銃を構えながら外に出ると、ネリーとステラさんが両手に黒いトランクを持ってVTOLから出てきた。


 ん-?あれは一体なんだろう


「ネリー、着陸地点を確保するわよ」

「ほいほいっと」

 

 2人がトランクを放り投げると、空中でそれがガシャガシャっと変形して、クモ足の砲台になった。何それ怖い。


 衛兵隊、驚異のテクノロジー。

 きっと自動砲台みたいなやつだろう。


「こんな高価なものは、めったに使わないんだけどね」

「状況が状況だけに、出し惜しみナシっちゅーことか」


「すっごい、これ、ちっちゃな歩行戦車みたいな?」

「ちょっとかわいいかもでっす?」


「そう。自立駆動して、見張りになってくれるの。先を急ぎましょう」


 みるとステラさんは、普段の装甲服に加えて、何かオプションパーツみたいなのがついている。宇宙から飛来した狩猟民族が肩に付けて良そうな奴だ。

 ……さすがにプラズマ砲とかじゃないよね?


 ネリーさんに至っては、重機関銃をアサルトライフル風に持てるように改造したもの手にしている。先にチェンソーがついてるし、何と戦うつもりなのだろう。


 何か僕らと本気感が違うな……。

 こう、マルチプレイのゲームで、高レベルのプレイヤーのパーティに紛れ込んでしまったような、そんな感じがひしひしとする。


 でもクガイさんは……ッ!クガイさんならっ……!


 なっ!衛兵隊の標準装備に、外骨格フレームだ、と……?

 なんて高そうな……!


「本来ならもっと色々渡せるはずだったのだ」


 そう言ってクガイさんが僕に重力子ライフルを手渡す。

 いろいろ調整されているようで、ストックやハンドガード、スコープも長距離用に改造されているようだ。わぁ。


「今度から勝手に出歩かないように、ウララ、君がそいつを見張っててくれ」


「はいでっす!」

「アッハイ」


「えーと……」

「自業自得でっすね!」


 うう、心に深い傷がッ!


「細かい所の探索に入る前に、まず中枢を止めましょう。ざっと掃討した後に、周囲の建物を探索してもよいのだけれど、補充されたら面倒なことこのうえないわ」


「ああ、その意見に賛同しよう。まず元を断つべきだ」


 僕たちは真っ直ぐ、造兵工廠の中枢へと向かった。


 周囲から伸びたパイプが集合する、窓ひとつない要塞。

 そいつは前と変わらぬ様子で、異様な威圧感を放ってそこにあった。


 以前に侵入をあきらめた防爆ドアの前には、例によって見張りたちがいる。

 数は4体。きっと造兵工廠の機能によって、補充されたんだろう。


 身体を分厚い装甲で守られ、リボルバー式の大砲を持った、鉄巨人とでもいうべき威風堂々のアンデッド。なかなか厄介そうだが……。


 しかしネリーさんによる重機関銃と僕らの支援のもと、突入したステラさんがあっさりとその鉄巨人たちを解体した。相変わらず規格外である。


 まあこいつら、動くたびに「よっこいしょ」みたいな、大きなタメのあるのが致命的だ。格闘戦の距離に入られた時点で、もはや勝ち目はない。


 さて、問題らしい問題も無く、扉に辿り着いたはいいものの……。


「すごい防壁だな。開きはするが、それなりにかかるぞこれは」


 扉の横にあったパネルをクガイさんがハッキングするが、ロックが固いらしく、なかなか開かない。


 僕はふと、酉武遊園地で手に入れたモノの事を思い出した。

 そう、フィールドラボの引き出しの裏に隠されていた、変造カードキーだ。


 こんなものが本当に役に立つかはわからないが……ものは試しだ。


「クガイさん、これ使えませんか?」


「……ほう? これは面白いものを持ってるな、基底符号化鍵か」


 クガイさんは鍵をさらうと、それを機械に挟んで、作業を続けた。


「なんですそれ?」


「わからないのに持っているのか?まったく……クズ拾いというのは」


「怒られたでっす!」


「まぁまぁ、クガイの代わりに説明すると、それはものすごーい複雑な計算をするときの合言葉を記録している鍵よ」


「そうね……まるで波のような、同時に合ったり無かったりする、詐欺みたいな計算をするときには、その詐欺みたいな動きを記録している写真が必要なの」


「その写真がないと、その写真をまず想像して作らないといけないの。無限に近い、無尽蔵のイメージの中からね」


「ひょえー!すっごい大変です!」


「そう、だからこいつがあるだけでものすごく仕事がはかどる……うん、開くぞ」


「僕はそのカードキーが、カードリーダーを通すだけで、どんな扉も開く、魔法の鍵みたいなのを想像してたんですけど……」


「ハハハ、これにそんな魔法はつかえんよ」


 トホホだなー。


「それ、クガイさんにあげますよ」


「いいのか?わかる奴には、凄まじい貴重品だぞ?」


「じゃあなおさらです。僕が持ってるよりはいいです」


「ありがとう。いつかこの借りを返せるといいんだが……」


「いつまでも待ちますよ、利子はつけないんで」


 警告灯が回りながら、防爆ドアが開いた。

 この奥に何かがいることは解っている。まずはそいつらを何とかして、造兵工廠の稼働を止めないと。


「まずやることを確認するわよ。目的は、ここのコントロールを奪うこと。敵を倒すのが目的ではないわ、戦うのに夢中にならない事ね」


「はいでっす!」


「よし、移動を開始する。総員前へ!」


 僕たちは造兵工廠の中に入るが予想された攻撃はない。

 ……奇妙だ、静かすぎる。


 工場の中まで進んだところで、背後のドアが急に閉められる。

 そしてバン!と音がして、白いスポットライトで僕らの姿が照らし出された。


 僕らを囲むように、4対の巨大なクレーンが降りてきた。

 クレーンにはいくつもの武装がされている。まるで重火器のデパートだ。


「これは一体……?」


「造兵工廠の管理者が動かしている、手指のようなものでしょうね」


「どうやら、来るつもりのようだぞ」


「どんとこいでっす!!」


「まー、あんたらと一緒になった時点で、こうなるやろなって気はしてたわ」


『検体の投入を確認。これより性能検証を開始します』


『法令に従い、検体に対して、倫理プロトコル=アルファを実行します――ガガ……あなた達の犠牲により、我々はより高みへ行けます。有難うございます』


『倫理プロトコル終了、テストを開始します――』

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