第67話 候補地探し

「フユさん、二人だけで廃墟に出たのって、久しぶりじゃないでっすか?」


「あっそう言えばそうだね。なんか懐かしい気がしちゃう」


 僕たちは装備を揃えて、イルマから北の、イルマ川を超えた先へ行っている。

 ウララさんと僕が初めて仕事をしたルートをなぞる感じだ。


 あの時はゴルフ場を目指すために辿った道を、今回はそっちの方へ行かずに、右へ曲がる。


「ゴルフ場を剃れたこっちって、何があるんです?」


「地図を分析する限りだと、左手の山の方に、大きな自動車工場があるんだけど、そっちに送るための、自動車のパーツなんかを作ってたみたいだね」


 僕は下調べした情報をウララさんに伝えることにした。


 この道の先には、ハイテク製品を扱う工場と、それを他所へ運ぶための配送センターが並んでいる。この工場街は、近くの大規模な自動車工場に送るための、自動車部品、モーター、制御基盤なんかを扱っていたらしい。


 だいたいの工場は危険な場所だ。

 当時の作業用アンデッドが残されたままだからだ。


 なぜ作業用なのに危険なのか?

 工作や作業に使う機械がそもそも危険で、それを持って襲ってくるアンデッドが危険というのもあるのだが、当時の情勢不安がアンデッドをいろいろとんでもないことにしていたのだ。


 戦争の危険が迫り、政情不安に陥っていた当時されていた事。

 それは民間のアンデッドの武装化だ。

 泥棒除けにしては過剰すぎるくらいにアンデッドを武装することが行われていた。


 スタンガンや警棒で武装しているのはまだ大人しい方。

 場合によるが、サブマシンガン、ショットガンも平気で出てくる。


 かなり支払いのいい依頼とか、よっぽどのことが無ければ、危険を冒してまで、こういったところまで、工場を漁りに来る連中は居ない。


 そこら辺の民家を漁った方が安全だし、それが金持ちの家だったら、この終末世界でも、価値の高いものが見つかる可能性は高い。


 探索の目標として、「工場は割に合わない」。

 なので北の工場街は、物資が手つかずのまま、残されている可能性が高い。


 で、僕たちにとって、そこんとこの都合がちょっと他の連中と違う。

 キタ区に拠点を作るのなら、そこらの民家には無い資材が必要だからね。


「……それに、工場なんかの作業用アンデッド、彼らは最後のアガルタが思う、『なれ果て』のカテゴリーに入ってるかどうか、それが不明なんだよね。ここを知っておきたいっていうのもある」


「あー、なるほどです、工場の備品として扱われてるアンデッドは、最後のアガルタさんにとっては、どういう存在なんでっすかね?」


「うん、アンデッドは色々だ。だから何があるか、わからないんだよね」


「気を付けていくでっす!!」


 僕は彼女とグッと拳を突き合わせて、決意を新たにして進みはじめた。


 僕たちは廃墟のガレキの間をぬって、影から影へと、さながら亡霊のように音もなく進む。気付けばウララさんも大分練度が上がったな。


 1時間ほど進み、僕たちは背の高い建物が立ち並ぶ街道に侵入した。

 ここの建物は壊れきっていない。ここなら拠点として使える建物が、まだあるかもしれないな。


「よし、ウララさん、再度確認。自動車工場を支えるための工場の城下町、それを探索するための、足掛かりになる場所を探すよ」


「はいでっす!できれば見通しが良く、頑丈な建物がいい。でっすね?」


「うん、なれ果てや悪者なんかに囲まれた時用に、とっさの逃げ道として使える窓があると、なお良いね」


「でっす!」


「気を付けてね。ここはどんな罠があってもおかしくない」


 建物に集中しすぎないよう、地面に目星をつけながら移動する。

 何気ないガレキや、建物の塀や、扉の裏に死の卵は潜んでいるものだからだ。


 それに気づかず、クシャッと割れば、その時点で終わりだ。

 そんな事を言ってたら、ほら、あった。


 塀と塀の間を通り抜けようとした僕は、針金のトラップを発見する。

 針金の先に繋がれているのは鉄パイプ。中には、わお、ショットガンの弾だ。


 足を引っかけると撃発、頭をカチ割るっていう寸法だろう。


「――仕掛け銃だ。この近くに、誰かが隠れ家を持っているのかな?」


「お隣さんになるでっすかね?」


「引っ越しの挨拶を受け取ってくれる人ならいいんだけどね~」


 かかったなアホが!!するための、第2、第3の仕掛けは無さそうだな。

 モノリス刀でほじくって罠を解除する。おお、怖い怖い。


 こういうものを仕掛けているのは、大体が野盗や衛兵隊だ。


 野盗は言わずもがな。

 衛兵隊も、クズ拾いが近くにいるのはあまり好まない。


 拠点はここから離した方がよさそうだな。


 しばらく探索を続けてみたが、琴線に引っかかるものはない。

 ボロボロすぎたり、開放感があり過ぎたり、一長一短だ。


「あっ、フユさん、あの建物なんか、どうでっすか?」


 ウララさんが指示した建物。それは「ドーナツ屋さん」だった。


 看板には何かのチェーン店のロゴと、シルクハットを被って、細い手足の生えたドーナツのキャラクターが描かれている。


 建物は平均的な廃墟のものと比べてかなり状態がいい。ガラスこそ割れているが、サッシはちゃんとしているし、天井や壁は崩壊している様子がない。


 向かいの建物が雨風を塞ぐ形になって、ガラスが割れた後も、激しい風化に晒されなかったのだろう。これはいいかもしれない、が――


「ウララさんー?」


じとーっと見るが、慌てたような様子で銀髪のアホ毛を揺らして彼女は答えた。


「違うでっす、お腹が空いたとかじゃなくってほら!」


「普通のお家とかって、探索の対象になるでっす。食べ物屋さんはもう、大抵のものがダメになってるですから、私たち、あまり入らないでっすね?」


「ああなるほど、その視点で見れば、無価値な方が安全だね。いい視点だと思う」


 僕はえへんと胸を張る彼女に同意した。なるほどなるほど。


 拠点とするにはいいかもしれない。見れば二階は事務所だし、ちゃんと通れそうな大きさの窓もある。


 一階はお店なら収納スペースがあるだろうし、一時的な仕分けの場所としては適していそうだ。よし、このドーナツ屋の中を、よく見てみるとしよう。

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