第64話 守りたいもの

 補給物資を持ち込んだトラックは、地下で出たゴミや何かを積みなおして、地上へと帰っていくはずだった。


 しかし僕らは、その荷台の中にアトリエで手に入れた、「使えそうなもの」を片っ端から載せることにした。彼らとしちゃゴミと一緒にされるのは心外だろうが、僕からして見たら、彼ら「つかえそうなもの」も大概な連中である。


 確かにコリャスゴイ!って使えそうなものもあったんだけどね。


 動体を識別して補足する、スマートスコープ、コレはかなり使えそうだ。


 試しにスコープを覗いてウララさんを見てみる。おお、ちゃんと認識できてる。


 こっちに向かって手を振る彼女。

 スコープはその彼女を味方と認識して緑色の枠で囲んでいる。


 僕はこのスコープに、何も情報を打ち込んだりはしていない。

 いったいどうやってるのやら?敵意を読んでる?まさかね。


 重力子ライフルは、これのオマケと考えておこう……こんな大災害を引き起こすのが確定している兵器、よくよく考えたら地上に出すべきではないと思う。


 やはり気の迷いだ。他がヤバすぎて相対的にマトモに見えてるだけだ。


 ゆっくりと上がっているこのリフトが、地上に着くにはまだ時間がある。

 僕は適当に近くのコンテナに腰かけることにした。


「ふう――」


「よかったでっすね」


「うん?ああ、そうだね……。きっと、何とかなりそうだね」


「はいでっす!!」


 地上に上がるまでの時間、あることを考えていた。


 ふと頭によぎった、「ステラさんに全てを任せてしまえ」この考えと言うのは――


 つまり僕には「戦う目的がない」と考えたことに他ならない。


 とんでもない。何者でもない僕でも、戦う理由はある。


 僕はスコープを通して彼女を見た時、ふと気が付いてしまったのだ。


 もし、「見る」だけだったら、どんな気持ちだっただろうと。


 送り出した彼女たちが傷つくのを想像すると、とてもいやな気持になる。

 その時、その場に自分が居なかったらと思うと、なおさらだ


 だから、やっぱり僕には戦う理由がある。


 何が自分の背中を押しているのか、力をもって足を前に踏み出させているのか?


 それがようやくわかった気がする。

 僕の独りよがりで、押し付けでしかない勝手な考え、そうかもしれない。


 だけど、それでいいじゃないか。

 別に感謝されようとしてやってるわけじゃない。


「ウララさん」


「はいです?」


 口から出して、言おうとした感謝の言葉。

 でもそれが彼女の丸っとした目を見つめた瞬間、どっかにいってしまった。


「――っいや、なんでもないんだ」


「えー!気になるでっす!!」


 ブンブンとゆすられて笑うしかなかった。

 くすくすと笑うステラさん、あきれた様子のクガイさん。

 ああ、これだ、これを守りたいんだきっと僕は。


★★★


「さて、ようやく地上にもどって来れたわね」


「~~~っ!お日様でっすー!」


「造兵工廠まで行く足を確保しないとね、用意が出来たら連絡をするわね。」


「お願いします」


「で、クガイでいいのよね?彼女をこっちで借りてもいい?」


「いえ、彼女は僕の持ち物ではないです。クガイさんの意思次第です」


「おや、てっきり専属運転手として雇ってもらえるかと期待したのだが」


「えっと、うちの衛兵隊本部では、高級士官やオペレーターはいつも不足してるのよね。彼女を無位無官のまま置く理由が無いのよ」


 とんとんっと端末の電卓アプリをたたいて、こちらに数字を見せるステラさん。

 わぁ、これクガイさんのお給料?ゼロが!!!ゼロがあああああ!!!


「だそうだが……?」


「うーん、僕も車の運転を覚えないとですね」

「特訓でっすね!」


 とてもステラさんが提示した額に見合うものは用意できない。

 悲しいことに。


「まぁ……それなら、払いの良い方に行こう。よろしく頼む」


「よろしくね、そうだ、クガイさんには、私から端末を支給するから、あとで3人で連絡先を交換するといいわ」


「あっそうですね。……そういえばパワーアーマーの件もありました」


「ああそうだ、忘れるところだった。アーマーのロック、あれを工房の人間が解除できないなら、私を呼んでくれ」


「はいでっす!」

 僕とウララさんは、クガイさんとステラさんから別れて、イルマ城塞に向かうことにした。パワーアーマーを預かってもらえるかどうかの話の為だ。


 久しぶりに訪れた「シュヴァルツ」は、前に来た時と同じくらいのお客さんの入りだった。


 うーんこの、なんとも玄人くろうと向けから抜け出せない、だけどそれがいいという感じ。


「いらっしゃい――」


 僕のRPKアルパカが目に入ったハインリヒさんは、まるで酸味だけを高純度に精製されたレモン汁を口に入れたみたいな表情になった。


 ――すみません。壊しちゃいました。


「あの、すみません……ハインリヒさんに作っていただいた銃、白兵戦になった時に、壊れてしまいまして」


「むむむ、チタン製銃身でも、もちませんでしたか……」


「はい、ウララさんに用意してもらったドリリングはすごい活躍してくれたんですけど、レーザーの方は、歩行戦車を破壊したくらいで壊されちゃいました」


 なんか周囲の視線を感じる。気のせいだろうか?


「いえいえ、作った物は必ず壊れるものです。それで……」


「えっと、今回はそれとは別件です、パワーアーマーを手に入れたので、それの調整と保管をお願いできないかと思って」


「――!!」


 ハインリヒさんの目の色が変わった。これはやばい雰囲気がする。


「何型ですか!状態は!現状を見せてください!さあ今すぐ!」


「ハインリヒさんが怖いでっす!!」


「いえ失礼。年甲斐もなく、私今、非常に興奮しております」


「そんなにですか?」


「ええ、滅多に手に入る物ではありませんから。それを自由に改造していいともなるとこれは千載一遇の――」


「ちょ、調整です!改造じゃありませんからね!」


 ハインリヒさんの改造とかどうなるかわからない。追加装甲とか、コーティングくらいならまだしも、妙なものを付けられたら困るぞ!?


「ええ、基本的なコンセプトは崩さずに、という事ですね」


 大丈夫かなあ……?


 とりあえずこの後はハインリヒさんに装甲車のところまで出張をお願いして、そのままアーマーを引き取ってもらった。


 助手さんたちの手でトレーラーに乗せられてドナドナされていくパワーアーマーを僕らは見送った。あの姿とはたぶん、今生の別れになるかもしれないな。


 一方ハインリヒさんはというと、実物を見るとものすごいテンションが上がっていた。85式!これは素晴らしい!アクチュエーターも、マニュピレーターも新品!エクエクエクエクエクセレントォ!とか言ってる。


 いつ卒倒するかと心配になってしまった。


「ここでご相談ですが……これはうちの宣伝になりますので、改造を許してくださるのであれば……その費用に関しては、うちがすべて持ちましょう」


 ハインリヒさんはそう言うと、何かが表示された端末を僕に手渡した。


 こ、これは――!!


「そのフユさんの表情、わかります、わかりますよ……我々のデザイン力を侮ってもらっては困ります」


端末に並べられているのは、パワーアーマーのデザインだ!


どのデザインにも、ミリタリー感あふれる中に、装甲形状のシルエット、カラーリング、どれをとってもカッコよさの追求をした形跡が見られる。


 日防軍が使っていた正規のパワーアーマーは、ここに並べられているデザインと比べると、素朴すぎる。工業品、軍需品、そんなデザインだ。


 しかしここに並べられているのはどうだろう。


 使用する色数は少なく、すっきりとしている。

 白やグレー、黒の無彩色をメインに、金や青、赤をアクセントにしている。


 そして恐るべきは量感、現実感だ。派手過ぎず、現実味のある胸元の装甲

 ううむ、恐るべしだ……。


「どれも同じに見えまっす~?」


 キッ!!


 ハインリヒさんと僕は一緒になって、妖怪のような視線でウララさんをにらんだ。それだけは、それだけは口にしてはならないのだ!


「こわいでっすーー!!」


 僕は端末に並べられたデザインで、A-3と書かれたデザインを選んだ。


 黒よりのグレーを基調としていて、高級感があるが、重厚すぎない。

 自身の持つプライドと共に歩いている、そんな感じのデザインだ。


「これでお願いします」


「――良い御趣味ごしゅみをお持ちですな。確かに承りました」


 ふう、いい仕事した風な感じがする。

 後ろの三白眼にあんったウララさんから、すごい怪訝けげんな視線を感じるが、これはハインリヒさんと僕の間でわかっていればいい事なのだ。


 ――あと何か忘れているような……?


 あっ!クセノフォンさんに出すやつ!

 「廃墟での拠点の作り方」の報告書、何も手を付けてない!!

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