第63話 ネクロマンサーとは
「取り除いたら、僕が今の僕じゃなくなるっていう事ですか?」
「そうなるわね。程度問題ではなく、貴方という本質に手を付けます」
「それは困っちゃうでっす!!」
「それは……ちょっと論外ですね」
身体に取りついた腫瘍、風邪なんかの病気を治す、そんなイメージだった。
「白いなれ果て」が神経に属する者なら、既に彼と僕は一体なのか。
「では、そのままにしておくということでいいのね?」
「はい……」
華岡さんはネクロマンサーなら直せるとは言ったが、それがどういう影響を与えるということまでは言及しなかった。
わざと黙っていたのだろうか。
「あなたがインターセプト型を恐れているのは解るわ。これ以上影響が出ないようにする、というのもできなくは無いけど……」
これまでの話を総合すると、恐らくそれはそれで大きな問題がある。
というのも……
「それって、例えば精神的な成長を止めるとか、そういうことになるのでは?」
「根本的な対策をとろうとすれば、もちろんそうなるわね。ただ、そうじゃない方法もあります」
ステラさんが、随分恐ろしい事を言いだした。
アンデッドの精神的成長を止める。
それは僕らを自動販売機みたいな、完全なモノにするっていう事だ。
「どういう方法でっす~?」
「うーんと、インターセプト型アンデッドは、アンデッドに侵入して乗っ取るときに、ウィルスが生物に侵入した時と同じような働きをしているの」
「アンデッドの体内に侵入したとき何をするのか?そのアンデッドの神経受容体に入り込み、宿主の体の一部のフリをして、自身を複製させて乗っ取るのよ」
「この作用をする為には受容体に入り込むための、『型』があります。」
「なるほど、僕の体がその『型』を異物と判断できれば……」
「そうよ、体内に入ったとしても、乗っ取られることはない」
「ええと、その異物の判断って、今の僕の体に影響が出ます?」
「出ないわ。もうあなたの体になっているわけだからね」
「よかったです~!」
「あなた達が望むなら、ワクチンを提供できるわよ」
指をぴんと立てて見せるステラさん。
僕たちを作るときに、最初っからそれを打っておいてほしかった。
「ええっと、どうすればいいんでしょうか?」
「必要なのは、インターセプト型アンデッドの設計図ね。もちろん現物でもいいのだけれど。それがあればワクチンはつくれます」
「もとになっているのは日防軍の作ったデータだろう。ならばアンデッド製造工場、造兵工廠へ行く必要があるな」
クガイさんの言う事に僕は同意した。
「ええ、そうなりますね。以前ヒノデの造兵工廠に、ステラさんと一緒に行ったことがあります。あの時は最深部までは行きませんでしたが……」
「ああ、そんなこともあったわね。あの時はリスクを考えて突入しなかったけれど……そういう事なら、行く価値はあるわ。やりましょうか」
「はいでっす!!」
「えっ?ステラさんも行ってくれるんですか?」
「あら、考えてもみて?衛兵隊はその『白いなれ果て』と戦う可能性が大いにあるのよ?なら、ワクチンを作って提供するのは、むしろすべきことじゃなくって?」
「あ、たしかに」
「本当に役に立つのか不確定要素は大きいけど、類似する型のワクチンを作るだけでも、対抗策としての効果はあるわ」
なるほど、作る事自体に、大いにメリットがあるのか。
待てよ……?白いなれ果て同士が結合するのは、僕に入ってきた時のように、お互いを同一の存在と誤認させて、自身を複製させて結合する、ならば……?
「今思いついたんですが、白いなれ果て同士が結合して塔になるという、最初のアガルタが言っていた事、それってその、ウイルスみたいな作用なんじゃないですか?」
「……なるほど、そういうことね?それは……面白そうね」
「?????どういう事でっす?」
「読めたぞ。彼ら同士を異物と認識させて、塔を構成できなくする。そうすれば一つのアンデッドとして結合できなくなり、安全に崩壊させられる。そういう事だな?」
クガイさんが僕の意図したことをそのまま言ってくれた。
「はい、その通りです」
「なるほど、なかなかいい目の付け所だと思うわ。フユ君、やるじゃない」
「ステラさんの言葉あっての事ですよ」
つまりこういうことだ。インターセプト型アンデッドは、アンデッドの体を利用して、自身を複製させる。
これを大規模に行えば、大きな単一の自我を持つアンデッドが作れる。そして崩壊して世界に影響を与えるのが、最後のアガルタが意図している事だ。
この巨大なアンデッドの結合を許した場合、その破壊がそのまま最後のアガルタの目的を達成させることになる。ここが対処を難しくしている点だった。
そうだ、ならば、彼らが一体のアンデッドという認識を崩してやればいいのだ。
彼ら自身に、彼らが何者だったかを思い出させる。そうすれば、塔はその役目を果たさずに崩壊するだろう。
そして、それにはアンデッドの開発に使われてきた、種々のデータが必要になるだろう。そしてそれは、多ければ多いほどいい。
日防軍が管理していた造兵工廠、そこにはアンデッド開発の歴史が凝縮されているだろう。その一個一個はただの石ころだ。だが集まれば、塔に匹敵する何かになる。
すべてがつながってきた。これなら、やれるかもしれない。
「アトリエにある物で、使えるモノはすべて持って、地上に上がりましょう。欲しいものがあれば持って行っていいわよ」
「はいでっす!!」
「え、いいんですか? その……大事な物もあるのでは?」
「ふふ、今更ケチって、どうなるってものでもないでしょ?」
「気取られないように、人数は最小限、今ここにいる者だけで行きましょう。そして、造兵工廠の中身をパカッと割って、そこにある何かを調べる。これをします」
「装備はこっちにあるわ、ついてきて」
「はい!」
ステラさんに連れられて入ったアトリエの一角。
そこには大量に意味の分からないものが並んでいた。
銃、装甲服みたいな、見た目でわかる物はまだマシなほう。
カエルの置物とか、足の生えた炊飯器とかよくわからないものがある。
うーんさすがネクロマンサーの住み家。
わけのわからない物がたくさんあるな。
「うーん、これは?」
僕が指先に銀色のシリンダーの付いた、何もつかめ無さそうなグローブを手に取ってステラさんに聞いてみる。
「ああそれは、単分子繊維ガントレットね。その指先の物を射出して、通過した先の物をすべて切り裂くわ。分解が遅いから、風に流されると自分も被害にあうのよね」
「ヒエッ」
僕は別の物を手に取った。これは、手にはめるタイプの銃か?
ジェリービーンズみたいな形をした金属塊に、銃身が生えている。
「これは?」
「それは、精神放射銃ね。相手を撃つ意思を持った時点で発射される銃よ。ものすごい早撃ちが可能なんだけど、安全装置が存在してないのよね」
「……どれもピーキー過ぎません?」
「フユ、ネクロマンサーとは、そういうものだ。思いつきを実現して、その後の事は考えない。そうして何でもやってしまう連中だ」
「ああ……なんかわかったようなわからないような」
「聞くのが怖くなってきたんですけど、これは?」
「それは何だったかしら……?あっ思い出した。重力子ライフルね。貫通出来ないものはないけど、言い換えると、止められるものがないっていう銃」
「ものすごい物騒な話が聞こえた気がするんですが、一応……なんです?」
「ええっと、こう、物体の結合をほどいちゃうレーザーを発射する銃よ。原理的には止められる素材はないわ。奇現象で発生する一部を除いて」
「なるほど、普通の銃として使えるん……ですよね?」
「出力を最低にすれば……、うん、使えない事も無いわね。」
他にもいろいろと漁ったが、触れるものみな傷つけるか、コンセプトが崩壊していたり、ちょっと間違えると街や人が消えてなくなるようなものばっかりだった。
このなかでは、重力子ライフル、これが一番まともそうだ。これにするとしよう。
だいぶ麻痺してる気がする。本当に大丈夫だろうか?
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