第42話 アサカ駐屯地防衛戦
「――アサカ駐屯地って何?」
『回答:
戦前の事は端末に聞くに限るな。いつもみたいに詳細に答えてくれる。
日防軍の中でも、都心部を守っていた連中の拠点なのか。
なんでオズマはそんなところに基地を構えたんだ?
そんなことをするから、今まさに、家主に家賃を要求されている。
僕らはVTOLを追跡して、駐屯地の建物の影が見えるところまできた。
すると駐屯地の方から、煙と共に光る飛翔体が飛んできて、4機のVTOLのうち、1機を撃墜した。炎に機体を飲み込まれたそいつは、そのまま廃墟の建物のうちの一つにぶつかって、ビルを切り裂きながら、途上で爆発炎上した。
OZは地対空ミサイルまで持って居るのか!?……もうこれ以上驚かないぞ!
絶対これ以上のとんでもないものを、まだ何か隠し持ってる気がする。
VTOLの方は、対空ミサイルの存在までは想定していなかったようだ。
これ以上接近するのをやめ、花火のパックをまるごと燃やしたみたいに、ど派手な白煙と共にチャフをばらまく。
不規則に動き、回避行動を取る3機のVTOL。
次に後部ハッチを開いて、パワーアーマーを着込んだ兵士たちを降下させた。
彼らはロープといった降下装置も使わない。
アーマーの足にある、衝撃吸収装置を頼りに、10数メートルある高さを、怖気もせずに飛び降りていくのだ。
この距離からでもわかる、ダークグリーンにライトブラウンの迷彩。
これまで見たなかでも、かなり状態の良いパワーアーマーだ。
銃を握っている、ピカピカのマニュピレーターに、サビ一つない表面塗装。
今から相手をするというのに、あれを壊すのは、なんだか勿体ない気までする。
――戦争というのは本当に、ヒトの知恵と成果物の無駄使いだなあ。
VTOLから最後に落とされたもの、それがちらっと見えた。うげっ歩行戦車だ!
ステラさんが連れ歩いてる103式に似てるが、背中にデカイ大砲みたいなのモノを備えている。拠点攻撃用の改造か?
「スキンクさん、連中が降下が終わりました。そろそろ始まりますよ!」
「OZと接触する前に、連中の側面をとるぞ!こっちだ!」
奴らの進行方向よりちょっと離れた方向へ僕らは疾走する。
枯れた生垣が幾重も重なっている丘、それを登り切った先にあったもの。
「わ!お墓がいっぱいですー!」
――墓場だ。なるほど、これは使えるな。
分厚い御影石は、重火器の弾を防ぐ遮蔽物としてはもってこいだ。
それがここには、いくらでもある。
「なかなかいい場所だろ?」
「ですね、僕らがやられたら、そのまま埋めてもらえます」
「そうならないことを祈るぜ。ほれ、こいつをつかえ」
スキンクがこちらに手渡したのは、見たことのない手榴弾だ。
「なんですこれ?」
「ボンって爆発すると、周りにすげえ高圧電流が流れるEMP爆弾だ」
「仕組みは聞くなよ?爆薬発電って言われても、俺には何のことやらだ。」
「これをトコロザワまで取りに行ってたんですか?」
「まあな。この際、使っちまってもいいだろ」
「こいつを歩行戦車にぶつけて、あとはその場の雰囲気だ」
「雑っ!」
僕はスキンクから受け取った、殺虫剤の缶みたいな大きさの手榴弾を確かめる。
うわこれ、結構重いぞ?
使い方は普通と変わらないみたいだけど、遠くまで投げられそうにないな。
「嬢ちゃんに援護させろ、お前の銃じゃうるさすぎるわ。」
確かにそれがよさそうだ。ウララのドリリングのライフル弾なら、パワーアーマーの装甲や、歩行戦車の側面装甲なら貫通できる。
それに彼女の装甲服は、12.7㎜でも耐えられるとハインリヒさんが言ってたな。
この3人のなかでは、一番打たれ強い。
「じゃあ……やりますか。ウララはライフルで支援をお願い」
「はいでっす!援護は任せるですよー!」
墓石の影を、まるで幽霊のように進む、スキンクと僕。
3機のVTOLから降下した、日防軍の戦力を見る。
8人分隊が3つ、全員がパワーアーマーを装備している。そしてそれぞれの分隊に、1台づつ、歩行戦車が追従している。
かなりの戦力だ。ハチコクヤマの時の衛兵隊とは、比べ物にならない。
まともにぶち当たったら、僕らには全く勝ち目がない。
みっつの内のひとつの分隊が、僕らが身を潜めている墓場にやってくる。
墓場の位置は丁度、アサカ駐屯地の側面を取る形になる。
だから連中はこちらにきているのだろう。
だがさすがに、もう迎撃が配置についてるとは思ってないだろう。
ロクに遮蔽も取らずに進む、日防軍のパワーアーマー兵に近寄っていく。
アーマーを信頼しすぎだ。完全に敵の火力を甘く見ているな。
「うちの姫さんと連絡を取りたいけどな、流石に無線を使うとバレる」
「だからそいつで、こっち側に来ているって知らせてやろう」
「狼煙を上げるってわけですね?」
「だな。そろそろ始まるぞ、あの木の列がわかるか?」
「あれを超えれば、基地からも連中が見えるはずだ」
スキンクの言った通りだった。
枯れた木の列に連中が到達したとたん、猛烈な射撃が始まった。
アサカ側から撃ちかけられているのは、かなりの大口径だ。
地面に当たると、僕の身長くらいの高さに土が巻き上げられている。
パワーアーマー兵のひとりが直撃を食らって、腕の装甲が吹き飛ぶのが見えた。
連中の応射の鉄量もすさまじい。
6銃身のミニガン、こいつはひと箱で500発にもなる、大量の弾丸を装備するのだが、それが十数秒のうちに空になっている。
とんでもない数の銃弾が、駐屯地へと撃ち込まれているな。
あまり関わり合いになりたくないが、OZのレンタカーを必要とする身としては、ここは協力するしかないよね。
歩行戦車が射撃位置につこうと前進している、あれを目印に投げ込もう。
戦車が木立の影に立つと、その3本の足を地面に撃ち込み、足の先からなにかのパーツを展開して地面に固定を始めた。
やっぱりあれは、自走砲みたいな役割をもっているのか。
好きにさせたら、どうなるかわからない。射撃を始める前に始末しよう。
ピンを抜いて、EMP手榴弾を投げ込む。
その太さと重さのせいで、投げずらくてしょうがない。
設計者に対する敵意を後押しに、ふんっと、思いっきりぶん投げた。
パワーアーマー兵の一人が、近くに落ちたそれに気付いた。
しかしもう手遅れだった。
白い煙を上げて破裂した手榴弾は、周りに紫色の雷をまき散らした。さながら、引っ込ぬいた雑草の根っこのような雷の束、それが手あたり次第に周りのものを襲っていく。
……EMPグレネードというから、てっきり僕は、ふわっとした光が、機械だけに損傷を与える、そのようにお上品なSFチックなものを想像していた。
完全に物理攻撃じゃないか。
歩行戦車は煙を上げて、3本の足を固定した状態のまま動きを止めた。
パワーアーマー兵も、なんらかの物理的損傷に加えて、EMPによる被害を受けて、動きを止めている。
すごい効果だが、効果範囲はそこまで広くない。
電撃を食らわなかった2人のパワーアーマー兵がこちらに気付いて襲ってくる。
持っているのは、パワーアーマー兵の装備としては、標準的なヘビーアサルト。
連続して20発の20㎜弾を放つ、小さな自動式大砲だ。
主力戦車は無理だが、装甲偵察車や、装甲兵員輸送車が相手なら効果的。
歩兵なら、食らえばまずイチコロだ。
ドンドンドンと、普段聞いている突撃銃や機関銃の音に比べると、ずいぶん間延びした印象の銃声がこちらに向けられる。
しかしその20㎜の一発で、墓石が3つか4つの破片に砕け散り、散弾みたいにして四方八方に飛んでいく。とても近寄れたもんじゃない。
しかし、あの銃はとても装弾数が少ない。たったの二人では、いくらパワーアーマー兵でもカバーしきれない。
ゲームでは武器を撃たれても壊れないが、これは実戦だ。連中の装填の合間をぬって、その手元を
パワーアーマーと言えども、手の部分、つまりマニュピレーターは脆弱な部分だ。機構が複雑で繊細なので、撃たれまくると、たちまちに動作不良を起こす。
衛兵隊はこれを理解しているので、滅茶苦茶に分厚いガントレットで保護したり、人差し指だけ強化して残して、銃は腕に固定する、なんて事をしている。
こいつらの装備は、すべて正規品のままだ。
2マガジン撃ち込んだあたりで、手が使えなくなって、ただの缶になった。
片方のパワーアーマー兵は、ウララのドリリングで腹部を撃ち抜かれて、墓に寄りかかるようにして倒れている。
『待て!投降する!撃つな!』
もう一方の両手を失ったパワーアーマー兵は、戦うのをあきらめたのか投降した。
その声は女性の物だった。中身が「なれ果て」か何かだったらどうしようかと思ったら、普通にアンデッドなのか。
……というか、パワーアーマー兵相手に……、普通に勝っちゃったな?
「ったく、喧嘩しかけといて、いい度胸だな?」
「どうしますでっす?」
「うーん……」
「嬢ちゃん、こういうのは、俺らが決める事じゃない。ボスの決めることだ」
「が、とりあえず前を歩かせて弾避けにするか」
「えぇ……」
全員で墓場の木立の先、駐屯地を見ると、目を疑う光景が広がっていた。
「お前さんたち、こっちに来て正解だったな」
『ああ、それには同意する』
OZのマークが側面に描かれた、見たことも無いくらいに巨大な戦車。
車体には4つのキャタピラユニットがまるで虫の足の様に接続されている。
どでかい主砲が装備された主砲塔の他に、側面、背面にそれぞれ、グレネードやミニガン、小口径キャノンを装備した砲塔が合計4つもある。
なんでOZはこんな重火器のデパートみたいな戦車を持ってるんだ?
しかし多砲塔戦車とはまた……ロマンの塊だなぁ。
多砲塔戦車はかなり自由奔放に暴れ回ったらしく、2台の歩行戦車と、無数のパワーアーマー兵を蹂躙した残骸、それが周りに残されていた。
その戦車は、こちらに砲塔を向ける。ああ。実に心臓に悪い。
しかし、その次に聞こえてきたのは、耳慣れた声。
『お疲れ様。もしかして、今度は色よい返事が聞けるのかしら?』
OZのリーダー、オズマは喜色を含んだ声で、僕らに問いかけた。
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