第43話 通告期限

 アサカ駐屯地は廃墟の、ど真ん中にある。

 あれだけ大量に撃ち合うと、終わってからが大変だ。

 音を聞きつけてやってきた、なれ果てたちを処分しなくてはいけない。


 やっつけるのはいいが、僕のRPKアルパカには、サイレンサーがついてない。ここでバリバリと撃ちまくって、更に呼び寄せては意味がない。


 なので、サイレンサーの付いたライフルを、OZから借りた。


 借りたはいいのだが……相変わらずOZは意味が解らない。

 グラスファイバー製の超軽量化ストックに、高精度バレル。まあここまでは良い。


 サイレンサーは静音性を極限まで高めた、オスプレイ型の縦長のゴツイ奴。

 こいつが大問題だ。


 普通サイレンサーというものは性能を高めようとすると、ぶっとくなる。

 すると当然、視界やスコープにクソデカサイレンサーが干渉する。


 このオスプレイ型スコープは、そこを解決するために銃口の下に、ガス放出用の機構を備えているのだ。その機構が高度な工作機械を必要とするので、メチャ高い。


 それにスコープもすごい。暗視装置に赤外線探知とモーションセンサー付き。

 このライフル一丁で、イルマのラグ・アンド・ボーンズが、丸ごと買えるのでは?


 持ち逃げしたら、殺されそうだ。

 しかしこれを預けるくらいには、OZに信用されたって事だろうな。


 僕はウララと一緒に、駐屯地の周りに近寄ってきた「なれ果て」を掃討している。


 ドリリングを構え、引き金を引く彼女の横顔を見て、ふと思った。

 僕は彼女を、自分勝手に振り回しすぎていないだろうか?


 彼女は別に僕の興味と、同じ方向を向いているとは限らない。

 むしろ、違う方向を向いていて、然るべきだ。


 ウララはウララだ、僕の所有物なんかじゃない。


「ウララさん、ごめんね。」


「ほぇ?なんでっす?」


 つい謝ったはいいものの……、次に出す言葉を考えると、ちょっと恥ずかしいな。


「あのさ……、ウララさんが、どう考えてるかとか、それを考えず――」

「勝手に、僕だけが決めて、色々やってて、迷惑じゃないかなって」


 ウララさんのくせっ毛が、ぴょんっと動いたそのあと。

 顔に突然光が当たった、そんな感じのする笑顔で、僕に笑いかけた。


「いってくれるなら、それでいいでっす!」


 ――はい、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。


 駐屯地の周りを三周ばかりして、ほかのチームと連携して、駐屯地まわりの安全を確認した。大騒ぎしたわりに、思ったよりは来てないな。


 アサカ駐屯地の方でも、戦いの後片付けが進んでいた。

 遺体と負傷者の収容に、ガラクタの撤去だ。


 ガラクタの撤去の方は、けっこう苦労しているようだ。

 なにせ重量物の歩行戦車と、結構な数のパワーアーマーが転がっている。


 しかし勿体ないな。

 全部で共食い修理すれば、何着か使えるのがでっちあげられるんじゃないかな?


 特に、あの女の人が来ていたアーマーは、マニュピレーター以外は、ほとんど損傷させていなかったし……。


「よっ、おつかれさん。こっちも捕虜の検査がだいたい終わったぜ」

「自爆用の爆弾こそなかったが、自決用の装備はちゃんと持ってたみたいだな」

「EMPで転がった連中は、神経毒を噛んで、ブリキ缶の中でみんな死んでたよ」


 そう言ってスキンクは、歯で何かを噛むようなジェスチャーをする。

 なんて狂信的な連中なのだろう。


「僕らと戦ってた人で、投降した人がいましたよね?」


「ああ、そこんとこがよくわからん。しばらく独房に突っ込んで様子見だな」


「日防軍にもまだ、衛兵隊に入りたい人がいたんじゃないでっす?」


「それだと良いんだがな。」


「……とりあえずお前ら、車借りたいんだろ?姫さんのところに行こうぜ」


「あっそうでした。でも僕、運転できないんですよね……」


「私も出来まっせん!」えっへんと胸を張るウララさん。


「はぁ?それで借りてどうすんだ?――ま、練習の時間くらいはあるか?」


 僕らはスキンクに連れられて、アサカ駐屯地の司令部みたいな建物、そのド真ん前に鎮座している、巨大多砲塔戦車のところまで行った。

 あまりに大きすぎて、ギャグみたいだ。どうにも距離感が狂う。


 その戦車の開いた後部、きっとメンテナンスハッチのような物なのだろう。

 何もかもがバカでかいエンジンや、無数のパイプが見える。


 エンジンとパイプで出来た、鋼の小教会、そこにいたのはオズマとティムールだ。

 たいして経ってないのに、なんだか久しぶりに会った気がする。


「よっすー!また会ったじゃーん!」

「お久しぶりでっすティムールさん~!オズマさんもこんにちわです!」

「どうも、スキンクさんには、ここまでお世話になりました」


「あらあら、なんですぐに寄ってくれなかったの?」


「わりぃ姫さん、俺が仕事振っちまった」


「そう、じゃあ手短に済ませましょうか。スキンクとあなたたちが一緒にいたなら、地下にいたのでしょう?ならきっと、これは聞いてないでしょうから。」


 オズマは自身の傍らにあった軍用無線機に手をかざす。

 すると無線機は、年老いた老人の声を発しだした。


『こちらは、アリサカ総理です。日防軍不死隊に要請します――』


「戦前の軍用周波数で、日防軍に呼び掛けるものがあるの。それも記録に残る、最後の総理の声でね」


「まさかその発信地って――」


 僕は南東を見る。アトラスという、空中空母が飛び去った先、遺都区画を。


「察しがいいわね。官公庁のあるチヨダ方面、そこから発せられてるわ」


「なんで今更?というかどう考えても――」


 当の本人が生きてるはずがない。


「何者かが、アリサカ首相を騙って放送している?なんでそんな回りくどい事を?」


「わからないわね。衛兵隊は対応に苦慮しているみたいだけど」

「どこかの通信塔に入り込んだ、クズ拾いの悪戯しては、手が込み過ぎているわね」


「……このまま放置すると、何が起きます?」


「最悪のシナリオだと、不死隊と衛兵隊が衝突。安全な居住地が失われて、私たちは石器時代に戻って、『なれ果て』と一緒に廃墟をさまようことになるわね」


「――60日。」


「――それは、なんです……?」


「不死隊が、イルマの衛兵隊に突き付けた、入間イルマ航空基地の退去期限よ」


「そういえば、まだあの時の返事、それをもう一度聞きますわね」

「これを何とかする方法がある。私がそういったら、フユ君、あなたはどうする?」

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