私ノ価値

 私はピカピカのラジオを手に持って、ベッドの上に横たわった。

 何の変哲もない、クリーム色のプラスチックのケースに、アンテナとつまみが付いただけのシンプルなラジオ。


 多少改造されて、オリジナルよりは多くの周波数帯を拾えるようにはなっているが、本当にただのラジオだ。だけどこれを買ってもらったのはすごくうれしい。


 ――なんだか認められたような気がして。


 「カバンを持たずに出かけよう」と、言われた時。映画館で彼と一緒に、あの奇妙で愉快な映画を立ち見した時、何かが体の中で跳ねまわっていた。

 きっとこれも、「楽しい」という感情だろうとおもう。


 普段、カバンを持たない私は邪魔物だ。農場では、そういう扱いをされるのが普通だと思っていた。そういう時は、なんだか頭の後ろがつーんとする。

 痛いわけじゃない。寒いわけでもない。でも体が強張って、冷たい金属を触ったような感覚が、頭の後ろの方に出る。


 でも最近はその感覚も減って、何かが体の中を跳ね回ることが増えた。

 それはきっと、私がフユに、荷物を運ぶセントールではなく、ウララとして認められ始めてる、そう感じているせいなのだと、そう思い始めている。


 いけない、スキンクさんの案内は深夜になるから、仮眠をしないといけないのに、いろいろ考えたせいで、意識が覚醒しだしている。


 ――早く意識を手放さないと。

 息を深く吐いて、何も考えないように。


 ……ネェ


 ネェ、本当ニ、ソウカナ?


 いやなやつ、でていけ。


 君は演じているだけじゃないか?フユにとって、都合のいいウララを。

 ウララ、君がしていることは、君の中の混乱を、誰かの都合のいい、望む姿を演じるという、つたないペテンで誤魔化しているだけだ。


 ワタシ達がいつもしているじゃないか。

 世界の残骸を踏みつけ、足蹴にし、殺しまでして、ようやっと解る価値。

 そうやって価値を示すことでしか、彼と対等になれない。

 

 キミらの行いはあらゆる言葉で讃えられるが、そんなものは、この世界の瓦礫の中に転がるガラクタと同様、利用して、しゃぶり尽くすための方便だ。


 有能だから、使えるだから、生かされているだけだ。

 キミはお互いを使いつぶそうとする、泥のような悪意の中を泳いでいる。

 たまたまその最中に息継ぎができたから、それを嬉しいと思っているだけだ。


 君は、あいつを殺すために、彼を利用しているんだろう――?


 おまえなんかに、私の気持ちを台無しにされたくない。

 ――でていけよ。


 私の顔、私の声で喋るな――。


 すっと、私の頬を撫でる、ふさっとしたものがある。

 ああ、「あの子」だ。

 きっと夢の中だから来てくれたんだね。怖がらせてごめんね。


 (……チッ)


 この子を撫でていると、あいつの白い意識が消えていく。


 ふと、思うときがある。

 何かの拍子で、もし、すべてを壊せる力が得られたら……


 こいつを、「心」が無くせるなら、無くすだろうか?

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