第35話 思わぬ出会い
「いらっしゃいませー!」
「気安く声かけんな!お前とは初対面や。友達ちゃうわ!」
「ご注文はお決まりでしょうかー?」
「適当に握っとくれや」
「あのー、ここハンバーガーショップなんで、ハンバーガーのご注文を――」
「何やしゃあないのう、チーズバーガーひとつ」
「ご一緒にポテトは――」
「欲しかったらこっちから言うわい!チーズバーガーでええ言うてるやろ!」
ゲームセンターでひとしきり遊んだあと、僕たちはちかくにあった、ハンバーガーショップで昼食をとっている。
ああいう変なお客さんとか来るから、僕には接客業は向かないな。
なんだかんだと、口ごたえしちゃうのが目に見える。
やっぱ僕には、クズ拾いみたいな肉体労働の方が気が楽だなー。
『報告:衛兵隊曹長、カイより着信』
ウララと席について、チーズバーガーをほおばっていると、端末に着信がきた。
まさか、もう「和尚さん」がみつかったのか?と、内容を見る。
「……あっ」
「なんでっす~?」
フライドポテトをつまんだウララが、小首をかしげてこちらをみる。
僕は端末をひっくり返して、表示されている内容を、彼女にも見せる。
届いたのは、懲罰部隊に参加した記録証明書と、無罪放免の証明書だった。あとは「ごめん」と台詞の掛かれた、アニメ風に書かれたカイさんのスタンプもオマケについてきている。
あとは……和尚さんを探してるけど、まだ見つかってないといった感じだ。
おや、添付でお金も振り込まれてる、50万!?
大変な遠征だったとはいえ、報酬に大分色をつけてくれてるね。
傭兵仕事1日の相場は、30万前後だ。で、装備を修理して弾薬を補給、医薬品なんかも補充すると20万はポンッと無くなる。差し引きしても余裕が出るねこれは。
「和尚さんについての情報はないみたい?」
「気長に待つでっす~!」
ドカンというすごい音がしたので、後ろへ振り向く。
さっき店員と話していたアンデッドが、ゴミ箱にトレーを突っ込んだ音だった。
サングラスをかけたアンデッドは、ドリンクもなしにチーズバーガーだけを頬張っている。
怖すぎるだろ!?僕に接客業とか絶対無理だわ!
店を出た僕たちは、次に向かう場所を決める。
ノープランで何も決めてないや。いっそ、公園でラジオを聴きながら横になったり、そんなのでもいいかもしれない。
「次はどうしますでっす~?」
「うーん、何も考えてないや、どうしよっかな」
そのとき、どこへいったものかと、周りを見渡す僕らに、近寄るものがあった。
ぼろを着た、背を曲げた怪しい浮浪者の様な風体のアンデッド。その顔と表情はうかがえないが、真っ直ぐこちらに向かってくる。
僕は反射的にウララの前に立ち、身構える。
まるでほら穴のようなフードの中からは、以前聞いた覚えのある声が飛んできた。
「よっ、あんたらに会えるとは、奇遇だな」
「あっ、スカンクさんです~!」
「もうわざとだろ?いっその事、わざとって言ってくれや」
「なんでスキンクさんがこんなところに?危なくないんですか?」
「ハハッ、表しか見てない衛兵隊の連中に、見つかる俺らじゃないさ」
そう言ってスキンクさんは下を指さす。なるほど「地下道」か。
崩落してたり、なれ果てが住み着いてたりするのに、よくやるなあ……。
「業界でよく知られた秘密ってとこだな。クズ拾いはここまでやらないか?」
「下は流石に危なすぎますよ。何があるかわかりませんし」
「だろうな。使うのはうちらと、サバイバリストくらいだ」
「あ!それでっす!私達もサバイバリストさんを探してるんでっす!……あれ、前も言いましたっけ~?」
「そうだ、僕らは和尚さん、と言うアンデッドを探してるんですが、何か知っていたりしませんか?」
「おっと、慌てなさんな。」スキンクは路地裏を指さす。場所を変えようということだろう。あまり通行人から目立たないように、あくまで自然に動く。
壁から張り出した室外機と、そこから垂れてくる水をよけ、足元のゴミに気を付けながら、人目のない路地へと移動した。
「さて、俺やあいつらが、衛兵隊にそんな簡単に見つかると思うか?」
フードを脱いだその顔は忘れようとしても忘れられない。
黄色に黒のラインの混じったヘビの顔。野盗「OZ」のメンバーのスキンクだ。
「……まさか衛兵隊の網に引っかかってないのって、和尚さんも地下道で移動してるんですか?」
「そういうことだ。うちの姫さんが、弾薬の補給ついでに、お前さんらの世話も焼いてこいってな。」
そう言ってスキンクは手巻きタバコを差し出す。僕は吸わないので手で制止して、それを断った。
「好意は嬉しいですけど、見返りとしても、表立って依頼を引き受けられませんよ?それが原因で、懲罰部隊に同行する羽目になったんですから。」
「ティムールさんたちとは、また会いたいでっすけどね~?」
「ハハッ、そいつはご愁傷様。ドブさらいでもやらされたか?」
スキンクはタバコに火をつけると、大きく煙を吸い込んで吐く。口が裂けていて吸いづらいだろうに、舌を巻いて、そこに息を吹き込んでいる。器用なものだ。
「ハチコクヤマの灰の森、その先の酉武遊園地まで引っ張りまわされましたよ」
「えぇ……お前らやっぱ強いんだなぁ、姫さんがこだわる訳だわ」
「周りが優秀だっただけですよ」
ウソは言っていない。ネリーさんもカイさん、ケイジやライナさん。そして衛兵も優秀な人ばかりだった。あのレベルの人たちと並べられると、ちょっと困る。
医科大学に突入したあの時だって、たまたまハインリヒさんが変態レーザー兵器を用意してたから戦えたようなものだ。
これまでも大部分は僕の力ではない、買いかぶり過ぎである。
うん、褒められて、悪い気はしないけど。
「ま、それでどうする?基地に帰るついでに、
うーん……オズマは僕らを騙すようなつもりはなさそうだし、ここは誘いに乗った方が良いかもしれない。
スキンクの言う事が本当なら、バイト生活を延々と続けても、和尚さんと会うのは何時になるかわからないということだ。
これが嘘で、OZが僕らをだましている可能性、それは恐らく無い。
彼女は僕らの首に爆弾を付けて、今日からお前は私の奴隷よオーッホッホホ!とかするタイプではない。進んで協力してくるのを待つタイプだ。
彼女は、信頼できる人間は、脅迫でも、金でも、手に入らないと解っている。
求めるのはたぶん、同じ方向を歩むと、互いに認め合う事だ。しらんけど。
――だからこそ、気を使うし、めちゃくちゃ後が怖いんだよね!
「じゃあスキンクさんにお願いしちゃいまっすかー?」
「えっと、それは……いや、確かにこのまま待っていても、らちが明かないか」
「なんかお前ら、こないだ見た時より、ちゃんとしてんね」
「え?」
スキンクは吸い終わったタバコを地面に捨てると、火を踏みつけて消す。
「いや、こっちの話よ、お前さんの端末に、集合位置をアップロードしてやる。用意して待っとくから、夜にこの場所に来な」
表示されている位置は繁華街の端、駅の東の一角の建物か。
「あっはい、ありがとうございます」
「そういえばティムールさんはきてないんでっすか?」
「あいつが街にはいると、肉屋を探して潜入どころじゃないからな」
なるほど。それは確かに言えてる。
「気が変わったなら、そのまま来ないでいい。こっちは勝手に出発するからな。」
スキンクと別れて、僕は改めて息を吐いた。
これまでの死にそうな戦いは、いったい何だったのか?
最初っからオズマに頼っていれば、もっと安全に事が進めたかもしれない。
完全に無意味……ではないにしろ、ずいぶん遠回りした気がする。
路地裏を出た僕たちは、時間を確認する。14時か。
しばらくこちらに戻ってこないかもしれない、となると、やっておかないといけないことが、まだ一つだけあったな。
「ウララさん、ちょっといいかな?」
「はいでっす?なんでしょうー?」
「ほら、ウララさんラジオが好きそうだから、その、何かいいのを探そうかなって」
「――はいでっす!」
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