第34話 戦場の血盟

 ※カードゲームは遊戯王知らない人にはきつすぎたので修正しました。先に目を通した方には申し訳ない。


 ゲームセンターの場所は、街に点々と置かれた看板があったのですぐに分かった。

 「トコロザワ最大のゲームセンター!」という文字と、行き先を示す矢印が手書きで書き加えられた看板は、僕たちを目的地に迷いなく導いてくれた。


 建物は、古いゲームセンターをそのまま使っているようだった。電球が外されて、ZEGAの文字だけになった看板。その下にある入り口を通って中に入る。

 耳鳴りがするほどのゲームの音と、ピカピカとした光。ゲームセンター特有の混沌とした活気、僕はこれが好きだ。


 ゲームセンターに並んでる筐体は、手でボタンとレバーを操作して遊ぶ、レトロなゲームがほとんどだ。

 先進的なVRは筐体が結構大きくて幅を取るぶん、名作が厳選されてるなあ。


 ウララさんと二人で遊べる奴なら……お、日防軍の戦術シミュレーターを改造したやつがあるな。4畳ぐらいのひし形のタイルが並んでいる床に、銃とゴーグルがたてかけられている筐体。「戦場の盟友」っていうFPSシューターだ。


「ウララさん、これをやってみよう!」


「おぉ~?これはシューティングゲームでっす?」


「そうそう、いつも通り、見たら撃てってやつ!」


 端末でふたり分のお金を支払って、コントローラー代わりのライフルとゴーグルを手に取って、プレイを始める。ステージはランダムでいいや。


 これはオンライン乱入して、一緒にミッションをこなすこともできるんだけど、今は昼間だし、流石に乱入は来ないだろう。


 「戦場の血盟」は昔のVRと違って、プレイヤーのジェスチャーを読み取るので、バックパックみたいな受信機を背負う必要もないし、ライフルの形をしたコントローラーとゴーグルだけでいいんだよね。

 床はこのひし形のマルチコンベアがプレイヤーの動きに合わせて移動するので、移動の制限もない。さすがに他プレイヤーにぶつかるような動きだと駄目だが。


 しかもこいつはウララみたいな非人間型のアンデッドの動きも読み取る。マジで裏ではどんな処理をしてるんだか、よくわからないやつだ。


 ゴーグルにゲーム画面が映る。ステージは……死体工場か。高低差のある工場ステージで、慣れてないと、全くどこから撃たれているのかわからない、結構きつい奴だ。


「おぉぉぉ~?すごいでっす!」


「少しすると敵が現れるはずだから、隠れる場所を探そう、離れないようにね」


「はいでっす!」


「戦場の血盟」はVRゲームにありがちな、床の広さの制約を逆手にとって、味方から離れないのをゲーム性の一部にしている。まあよく考えたもんだね。


 僕は遮蔽を取って、敵を待つ。

 使うのは二人とも、30連発のアサルトライフルだ。

 これは標準的な装弾数で、連射すると大体3秒で打ち切る。


 つまり、すぐに弾切れを起こして隙だらけになる。

 なので、相方とのリロードのタイミング合わせがとても重要となる。


 こちらが制圧射撃しないと、敵はやったらめったらに鬼エイムで打ちこんでくる。実戦並みに真剣に協力しないと、本当にすぐやられてしまう。


『WAVE1 START!』


「屋根の上、緑の扉の横に、マシンガンナー!」


「はいでっす!」


 タカタカッと小気味よい銃声で、機関銃を持ったアンデッドをバラバラに引き裂く。シカの糞みたいに、アンデッドだったものが、地面に落ちていった。

 改めて思うけど、彼女の動体視力はすごい良い。

 セントールの特性か何かだろうか?


「2階、タンクの手すりにグレネーダー!装填中でっす!」


「カバーするよ!」


 投げられた手榴弾を打ち落として、爆発に巻き込んで倒す。ヒュー!

 実戦でもこれが出来たらいいけど、試したくはないね!


「地上、ゴミ箱横にスナイパーでっす!」


「今、頭を出せない!」


 このゲームは、こうして短い言葉で意思疎通をする訓練にもなる。

 流石戦術シミュレーター、よくできてる。しかし殺意が高すぎやしないか!?

 敵兵に射撃されて全く遮蔽物から顔を上げられないぞ!


 うおおおお!三階の階段横にミニガン持ちが出てきた!!しぬしぬ!


 弾幕から身を隠していると、目の前をシステムメッセージが流れる。


『プレイヤー、「ステラ」が参戦しました』


 ……はぃ?ステラさん何やってんすか?


『楽しそうなことやってるわね、オンラインだったからつい参加しちゃった♪』


楽しげに語るステラさんはドレス姿じゃなくて、衛兵隊の装甲服だ。仕事中?いや、訓練用シミュレーターを使ってたのかな?

……え、このゲーム、衛兵隊のシミュレーターとつながってるって……コトォ!?


「ステラさんでっす!おひさしぶりです~!」


「今すっごい大変なことになってるんですけど!」


『じゃあ指揮するわね。手数の多い奴から牽制していくわよ、右ミニガンを優先、スナイパーはウララちゃんが抑えて』


「はいでっす!」


 流石に3人ともなると、だいぶ楽になる。いや、敵もそれに相当して増えている。だが指揮を執る人が居るだけで、このゲームは格段に楽になるのだ。


『フユくんは前に出すぎ、ウララちゃんもよ、2人とも、射撃の後は左右のバディを見て』


 いや、それ以上に分隊長をやってくれてるステラさんが全体をよく見ている。

 射撃しながら、どうして全体を見る余裕があるのだろう?

 とても僕にはできないな……。


『何か言われたら返事!』


「「はい!はいでっす!」」


 その後ステラさんの指揮のもと、4WAVEまで進んだ。

 彼女の指揮を受けていると、分隊長が兵に対して何を指示すべきか、それがおぼろげながらわかってくる。なるほどなぁ……。


 衛兵隊に入るつもりは1ミリもないけど、こういったリーダーのやることを知っておくのはすごい良いな。


 ネリーやステラさん、彼女らは恐らく、分隊指揮官の技能移植は受けてると思う。だけどそれは、アンデッドが生まれる前の技能だ。こいつらと撃ち負けない判断は、恐らくは、後天的に戦いで身に着けているはずだ。


 ただ、ただですね!僕ら!ゲームをしてるはずなんだけど!

 なぜかいつも見たいな仕事っていうか、訓練になってますけどね!!


『WAVEボスよ!曳光弾トレーサーに合わせて火力を集中!』


「「イエス、マァム!」」


『いい仕事よ!野郎ども!』


 ステラさんの指揮を受けていても、流石に5WAVE目のボスは突破できなかった。

 何あの、何?両手に8個の機関銃持った、千手観音みたいな敵。

 背中から手榴弾ぽんぽん吐き出して、口から火炎放射してそこいらじゅう火の海にしてくるし。クソゲーだろ!


 しかし彼女によると、このシミュレーターに出てくる敵アンデッドは、実際に遭遇したアンデッドのデータを元にした姿とパラメーターになってるらしい。

 世の中にはあんなアンデッドいるの?マジ……?絶対出会いたくない。


 ゲームが終わったら、ホログラムのステラさんは微笑みながら、手を振って消えていった。「今度は実戦でね」って言ってたけど、あの人と一緒に闘いに行く相手って、普段あのレベルなのかな……?

 ちょっと怖い。


 ただ、ステラさんやネリーさんみたいな衛兵隊の人と戦うと、やっぱり勉強になる。その裏にどれだけの死闘があったのか考えると、ちょっと背筋が寒くなるけど。


「バイバイでっす~!」

「なんか、お金を払って授業を受けた気分」

「でっすね~!ふふ!」


 さて、いい時間になったし、次の遊びのために、腹ごしらえにでもいきますか!

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