第31話 酉武遊園地殲滅戦
※RPK軽機関銃のキリル文字の音読みがアルパカでちょっとかわいいなって思ったので、今後はアルパカ押しで行きます。
わらわらと集まってきたピエロ達に対して、僕は腰だめに構えた
なのでカイさんにはそのフォローをしてもらう。
カイさんは突出すると、手に持った盾を地面に刺したかと思うと、ブルドーザーのような勢いで前方に叩きつけて、燃え上がって脆くなったピエロを文字通り砕く。
斧も大活躍だ。冗談みたいな菱形をした槍の穂先を切り落とすと、切り返して斧の先でピエロの頸部をひっかけ、盾にぶつけてギロチンの要領で背骨と頭を切り離す。
ガッチン、ドッカン!バッキン!と、ネリーさんの言うとおりに騒々しい。
「とにかく数がすごいですね」
僕はぼやきながら、5つ目の弾倉と交換する。焼夷弾は銃への負担が大きい、もう過熱で白煙を吹き出し始めた。
「いっぱいですね~どこに隠れてたんでしょー?」
「アンデッドの従業員なら、そこら辺の箱にでも詰め込んでた可能性はありますね」
カイさんはピエロの頭から胸のあたりまで斧を食いこませながら、ぼそっという。
何そのブラックどころじゃない労働環境。いくらなんでもひどくないか。
さて、こっちはこっちで、ウララを守らないといけないな。
彼女の装甲服はかなりぶ厚いとはいえ、ナイフ程度の白兵戦装備しか持って居ない。絡まれると苦労するだろう。
さっそく一体、両手剣を持ったピエロが、異様な速さの
ピエロの持つ末広がりのデザインの両手剣、遠近感を狂わせるその一撃が来た。
ここで下がるとウララが危ない。振りかぶるその動きに合わせて懐に飛び込み、奴が斬り下ろしの為の踏みこむ先を無くして、たたらを踏ませる。
あとはモノリス刀で一突き。そのまま肘を捻ってえぐりこみ、背骨を掻きだす。
ああ、なるほど、これかネリーの言う、「勇気をもって飛び込む」というやつか。
ピエロは動きも早く、まともに受け止めるとその一撃は重い。加えて数も多いが、あまり強いと感じない。何というか、想像通りの動きしかしてこないのだ。まるで書き込まれた内容をそのまま再生してる、そういった感じだ。
「たいしたことが無いとはいえ、これではキリがないですね」
「カイさん、戦争時は軍用アンデッドって、どうやって指揮とかコントロールしてたんですか?」
「当時は指揮官級のアンデッドがいて、特殊な通信技術で手駒として扱っていたそうですが……なるほど、この状況、それはありえそうですね」
会話の時間を稼ぐためか、カイさんは地面のアスファルトが割れるほどに強く踏み込むと、嵐のように盾を振り回して、周囲のピエロを薙ぎ払う。数体のピエロが全身を曲がってはいけない方向に折り曲げている。
「コントロールしているアンデッドを叩けば、なれ果てたちは停止するまでいかないにしても、弱まりはするでしょう」
「見分け方のコツは?階級章を付けてるようには見えないですし、ピエロの中で一番派手な奴とか?」
「それもいいですが、全体を観察して、意志の中心をさがす、といったところですかね?僕はこういうのできないんで、フユさんに任せます」
正直な話、僕には既に分かっている。確信を得るために聞いてみたのだ。
なんとなくだが、光のような声、それがおぼろげながら遠間に見えている。
明らかに「あれ」以来からなれ果ての気配の様なものを色濃く感じれるようになっている。彼らと自分との境界が薄まるようで、とても嫌な感じだ。
「ウララ!僕の後に続いて!カイさんは
「はいでっす!」
「おっ、もう見つけたんだ、さすがネリーの推薦だね!」
武器を振りかぶるピエロを押しのけ、頭を銃床で潰す。上から降ってきた奴は降りる前に銃弾でつぶす。ああ、これはいいな。
普通、「なれ果て」であっても、何となしに、そいつの背景というのが見える。
どういう服が好きで、どんな生活をして、そして、どういった経緯で、僕の銃口の前に辿り着いたのか。大体、そういったものが見えてくる。
――こいつら、何もないな。
暇つぶしに遊ぶ、古い3Dゲームと同じだ。こいつらは人の形してピエロの格好としている情報以上のものはない。見た目以上の意味はない。だから躊躇なく消せる。
連中をやり過ごして、光のような声、あの時、何かに入り込まれた時に感じたものと似た声のする方へ行く。
アトラクションの管理を行う広場、そこでは思いもよらない相手が待っていた。
おい、待てよ……まさか、こいつか?
そいつは黒い瞳でこちらを真っ直ぐに見つめ、ハッハと舌を出して息をしていた。犬だ。それもこの世界には珍しい、生身と区別のつかない奇麗な体。
50センチほどの体高の明るい茶色の体に、艶やかな黒い背中。大きい三角形をした立ち耳がとても印象的だ。
身に着けているのは黒い首輪をだけ。それには金色の鍵がぶら下がっている。
――ああ、これはよくない。
「さっきのワンちゃんです~?」
「まさか、この子がアンデッドの親玉かい?」
「たぶん、そうです」
犬の背後から、軽やかに回転しながらジャンプして、一体のアンデッドが現れた。
主人を守るように、犬と僕たちの間に着地する。
身長は3メートル半ば。しかし寸胴な胴体に比べて、その手足は細く、全身で見ると、まるで虫のような印象だ。
得物にしているのは、舌を出した人間の顔が飾りに付いた棍棒。悪趣味だな。
赤と青の鮮やかなひし形の模様が染め抜かれた道化服に全身を包み、頭には白い二角帽、顔には黒い老人の仮面。
ひと目でわかった。こいつも空っぽだ。だからつまり、そういう事なんだな――?
「あの犬がコントローラーです、あのデカいのは操られているだけです!」
僕の目の前に、光のような声が届く。
((わぁ……来てくれたんだ……ね!遊ぼう!))
――クソ、やめろ、そんなふうに話しかけるな。
耳を閉じようとしても聞こえてくる、この光みたいな声。かき消さそう。
僕を殺意で塗りつぶせ。真っ黒に。何も考えるな、何時もみたいに――
黒い仮面の道化師は、爆発するみたいに跳ねてこちらに迫る。カイさんが反応して予想される攻撃を盾で遮る。しかし、道化師は両足で盾を踏み台にして跳躍すると、カイさんを無視して、こちらに飛び込んできた。
跳ねるついでに振られた手からは、色とりどりのリボンの付いたナイフがばらまかれる。RPKでかばうが、このために、射撃の構えを解いてしまった。
不味いな、RPKを使うには近づかれ過ぎた。銃をさげ、
しかし、45口径の弾丸は、道化師が肘から先の腕をプロペラみたいに回して弾かれた。冗談みたいな防御の仕方だ。なら、「勇気をもって飛び込む」としよう。
道化師は手足が長い分、逆に懐に入られると困るようだった。手刀で地面のコンクリートを削って土を露わにするプロペラを避け、奴の内側に転がり込む。
ちょっとひっかけられて太腿を裂かれたが、浅い。僕の脚はまだ動く。
奴が僕を潰そうと振られた、グロテスクな棍棒は空しく空を切った。
棍棒を振り下ろす為に前に出された右足、その膝裏をモノリス刀で切る。まずはその厄介な動きができないようにしなくては。
膝をついた瞬間、道化師は、ウララの散弾で胸元を撃たれて、繊維と血肉が入り混じった破片をまき散らす。
((うぅん、動かなくなっちゃう、もっときみと遊ぶ方法を考えなきゃ!))
(やめろ。これ以上僕に関わろうとするな――!)
道化師は四つん這いになると、散弾で弾かれた胸のあたりから、何本もの白い腕を生やす。この道化師、肋骨がどうやら人の腕だったらしい、その先に手指がある。こいつ、死体を組み合わせて作られているのか。
カイさんが俺を忘れるなとばかりに、僕らのカバーに入る。盾で押しのけ、その隙に斧を振り下ろす。3本の肋骨を立ち割るが、まだ止まらない。
胸から生えた無数の腕がカイさんの盾を掴む。道化師は、そのまま頭に嚙り付こうとでもしたのか、がぱりと口を開く。
僕はその口の中に向かって、1掃射分の焼夷弾を叩きこむ。松明のように顔面を燃え上らせた奴は、炎に炙られて、次第に動きが鈍くなる。
今だと思い、駆けだす。燃え上がる道化師の脇を抜け、犬に近寄る。犬は近寄る僕を見て、首に提げた金の鍵を揺らしながら、こちらに走り込んでくる。
僕はその犬と抱き合う格好になってぶつかった。
ふさふさとした明るい茶色の毛が僕の頬を撫でる。
彼は僕の肩に顎を乗せると、ふっと息を吐いた。
その背からは、濡れて黒く光るモノリス刀の先端が生えていた。
ずるり、と抱き合ったまま、灰色のコンクリートのタイルの上に膝をついた。
赤い血だまりがその円を大きくしていく。
よし、これで終わりだ。こいつはもう動かない。
「フユさん?」
「フユくん、君、泣いているのかい?」
動かなくなった犬を抱いている僕に、よくわからない熱がこみあげてくる。
ずっと知っていた友達を失ったような喪失感を感じる。なんだろう――これは?
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