第24話 尋ね人を探して
トコロザワでの初めての一夜を越して、次の日の朝。見知らぬ土地で迎える朝というのは、不思議と目が冴える。
僕はうんと伸びをして自分の救えなさにため息をついた。
考えをまとめるときは、ウララにも相談しようと思っていたけど、それは結局できなかった。
ひとつ目の疑問として書き出した、「白いなれ果て」の事を話題に出そうと考えた時、防衛医科大学で、僕の腕を斬った時の彼女の顔が思い出されてしまったのだ。
あの時の行動、迷いのなさ、あの行動の裏には、きっと失われた大事な人がいる。
それだというのに、ウララの気持ちを考えずに、好き勝手に偉そうな講釈を立てる僕は何様のつもりだ?いつものように皮肉交じりに喋っていたら、「頭がいいね」とでも言ってもらえるとでも?
一度自分にそう思ってしまったら、もう何も言いだせなくなってしまった。
彼女は大人だから、僕が得意げにぺらぺらと喋っても、さながら子供の作文を聞く母親のように聞いてくれるかもしれない。でも、そんなことはするべきじゃない。
起き上がりに枕元に羽毛のゴミを見つける。僕はそれをつまんでごみ箱に捨てた。切り替えよう。ゴミをこういう風に捨てるみたいに、つまらない考えは捨てよう。
(ソレガイイヨ……)
そういえば、ウララがお風呂から上がってきてその後、彼女の方からこんなことを切り出された。「勝手に師匠とか相棒なんて言ってよかったですか?」と。
僕はもちろん、と返して、改めて手を差し出して、お互い握りしめて握手した。
そして同じ部屋で一夜を共にしたが、別に変なことはしてないぞ。
本っ当に、普通に「寝た」だけだ。これだけは強調させてもらう。
全く、このことを知られたら、親父がニヤニヤ変な顔するのが目に見える。
そもそも……いいや、やめよう。どうあがいても変な話になる。
洗面台に行こうとして、玄関を見て気が付いた。地べたに包みに入れられてポンっと置かれているのは、僕とウララの戦闘服だ。
おや、もう洗濯物が届けられている。ありがたやありがたや。
さっそく取り出して身に着けよう。僕の戦闘服は、右手の袖が無くなっちゃって、片っぽだけがえらいワイルドな感じになってる。これもなんとかしないとなあ。
「むにゃ。おはようでっすー!ふぁ。」
「おはようウララさん。先に道を聞きにフロントにいって、そこで待ってるからゆっくりおいで」
「着替えはここに届いてるからねー!」
「はいでっっす~!」
★★★
ばたんと扉が閉まる音。急に部屋の中がしん、としたその時、頭の後ろの方がつーんと来る感じ。たぶん、さびしいとか、悲しいというやつですねー。
んん~っと手足を伸ばして、いつものように身支度をするですか~。
おろした髪の毛をとかしてまとめ直してっと。エン
そしたらゆったりとした快適な浴衣を脱いで、いつもの装甲板の付いた戦闘服に着替えます。作業着と違って、きつくて、不快なこの服にもすっかり慣れましたです。
今日は回収した
――重い。
ハインリヒさんが荷重分散をしてくれたとはいえ、手に持つだけだとそれは機能しないです。そのために身に着けるこの瞬間は、とてつもなくズシリときます。
でもこれは私がフユさんと一緒に居る為に必要なもの。だからどんなに重くてもこれは手離してはいけないでっす。
……映像記録でしか知らないけど、生きた人間さんなら、誰かの役に立たなくても、それでも生きていくことがゆるされたかもしれないです。
だけど、私たちはアンデッド。モノの延長にあるものは違います。
役に立たなくなれば、再生槽に入れられる。その存在すらゆるされないです。
だから、どんなに重くても、つらくても、やるべき事が、誰かに求められる事が、単純明快な私は、まだしあわせ。
――このベルトを締めるたびに、そう思いまっす。
身支度が終わったので、忘れ物が無いか、ナイトスタンドの上や引き出しの中をチェックしてっと。チェックアウトするわけではないので、そこまで気を使う必要はないとおもうけど、念のためでっす。
「あれれ?これって~フユさんが書いたやつですー?」
★★★
昨日は気付かなかったが、ホテルの廊下は昼になるとだいぶくたびれて見えた。カーペットの裾はほつれてめくれ上がっているし、壁紙は浮いて模様が波打ち、塗装は変色して割れている。あのウキウキして歩いた廊下は、今は見る影もない。あの夜は魔法でもかかっていたんだろうか。
僕は廊下を歩きながら、戦闘服を腕まくりしてみた。
片方がワイルドなことになってるのを、どうにか隠そうとする悪あがきなのだが、流石に無理がある。もうこのまま堂々として入ればいいや。
僕は部屋にウララを残して出た後、フロントで「航空博物館駅」でクズ拾いが使うような装備の修理や、補給の出来るところを聞くことにした。
フロントには数人の従業員がいるが、僕はその中で手すきそうな人に話しかけてみるとしよう。
「すみません、ちょっと聞きたいんですが、ここら辺でクズ拾い用の装備が揃うところってありませんか?」
僕は、頭髪をぴっちりと6:4分けにしたメガネのアンデッドに話しかける。何かでガチガチに固められていて、まるでナイフで切り分けたみたいだ。
「うーん馬車馬
彼は地図を出して、道順を説明してくれた。
僕は失礼と一声かけ、それを端末で写真にとる。
「駅の中に陸橋があるでしょう、あれを繁華街の反対のほうへいくと、工房や衛兵隊の分署が入ったビルがあるんです、トーチカがあったり、窓に鉄板が張られてるから、見ればすぐにわかりますよ」
「ありがとうございます。あと『和尚さん』っていうサバイバリストを探しているんですが、何か知ってませんか?」
「いやぁ、名前は聞いたことありますが、流石にわかりませんね。和尚さんはうちみたいなホテルに泊まることはないから。ただ……」
ちょっと言葉を探す、そんな言葉の詰まり方をしてから彼は続けた。
「繁華街に顔を出しているのを、よく見られるそうですよ。そちらで聞いてみたらでどうでしょう?」
「なるほど、ご親切にありがとうございます」
繁華街、それで言葉に詰まるという事は、たぶん
僕は彼にチップを渡して、フロントにやってきたウララと合流した。
そのままの勢いでホテルの外に出たものの、繁華街と言っても具体的に行く当てが無いな。どうしたものだろうか……。
「『和尚さん』は繁華街によく行くみたいだね。具体的にどのお店かってところまでは解らないけど」
「じゃあひとまず、拾って来たものを交換しちゃいます~?」
「そうだね、まずはそうしようか」
僕たちはホテルのある繁華街の方から陸橋を渡って、その対岸に向かった。
グレーのビルにはコンクリート製の
トーチカに設けられた細いスリットの中は、たまに何かの影が通り過ぎている。見張られているようで、あまりいい気持ちはしない。
こちらに視界が通るという事は、ちゃんと駅舎の内側もキルゾーンの想定になっているのか。さすが衛兵隊、用意周到なことだね。
僕らはビルの中のエレベータ―に乗って、衛兵隊の窓口のある階へいく。
窓口はイルマと同じような感じだった。オフィスの様な雰囲気をした部屋に、カウンターが並んでいる。各カウンターの上には、番号と担当業務の書かれたプレートがぶら下げられており、それを見ればどこに行けばいいのかがわかる。
ここの商工部門は……5番か。お、整理券が501だ。今日は僕らが初めてか。券を取ってすぐに呼ばれたので、すぐに窓口に向かう。
窓口で僕らを担当するアンデッドは、ウララとおなじセントールのアンデッドだ。髪は赤茶色でポニーテールにして、上は白シャツ、下は黒エプロンの事務員スタイルでなかなかにきまっている。
「ご要件は換金でよろしいですか?」
「はい。医薬品と薬品基剤、それと医学の専門書が少々あります」
「では査定するので、出していただいていいですか?」
僕らはカウンター横にあるスキャナーに、防衛医科大学で拾ってきた戦利品を載せていく。スキャナーの画面には乗せた物の値段が少しの時間を置いて表示される。量があるとはいえ、おお!けっこういくな!……いや、いきすぎじゃね?
「わわ、すごいお値段ですねー!」
「どうなってんのこれ?」
スキャナーに表示されている額は1290万。機銃の付いた車が買えそう。あの野盗たち、ちょっと良いもの持ちすぎじゃない?
「……」
受付のセントールさんが呆然としてる。そりゃそうだ。コツコツ働いてる一般人の、3年分くらいの収入だもの。
「……ちょっと別室に行っていただいてもよろしいですか?」
そしてしばらくした後、何故か僕たちは、窓に鉄格子がはまった、いわゆる
――うん????どうしてこうなった????
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます