第15話 オズマ
「オズマ」と言う語感、そして野盗のリーダーというところから僕は勝手にゲババと笑って酒瓶片手に手斧を振り回す、そんなアンデッドを想像していた。
まさか野盗のボスが、エメラルド色のドレスを着た少女だとは……。さすがに思ってもみなかった。
彼女は赤い革のヴィクトリアンスタイルの椅子に腰かけ、こちらを値踏みするように、その金色の瞳で射すくめる。
「へぇ、スキンクの見立てたクズ拾いにしては、悪くないわね。」
彼女はしゃらんといった効果音が付きそうな滑らかな動きで髪をかきあげる。豊かで滑らかな髪は車内に敷かれたビロードの上にくっつきそうだ。
「わぁ~オズマさんって、お姫様みたいです~!」
ウララは呑気に拍手をしている。
僕はヒヤっとしたが、彼女の方は案外まんざらでもなさそうだった。
「ありがとうお嬢さん。それで早速だけれど、あなたたちに頼みたいことがあるのだけれど。」
「話次第ですね。 正直なところ、あなたの部下にできないことが、僕らにできるのか、不安に感じているところです」
この不安は本心だ。そこそこの軍隊レベルの連中を率いておきながら、どこの馬の骨ともわからないクズ拾いの助けがいる仕事なんて、ロクなものであるはずがない。
「ふふ、謙遜も行き過ぎれば嫌味ですわよ? クズ拾いでそのレベルの装備を持っている者が、どれだけいるか。」
「ただの骨董品ですよ。」
「あらあら、1940年代のドイツが核融合バッテリーと※
※THAL Tactical High Atomic Laser (戦術高核レーザー)
「ドイツの科学力は世界一ですので」
何でレーザー銃の事がバレた……?
あっそうか、スキンクは熱が見えるから……あの時のぱちぱちとした瞬きは、僕らの銃の熱源に驚いてたのか。
「ドイツの科学力ね、貴方がそう言うなら、そういうことにしておきましょう」
彼女の足元、ビロードの下で何かが光った。エメラルドのような結晶体が青緑色の光を放って、それと同期するように僕の端末が勝手に操作されてマップにマーカーが追加されていく。何もしてないのに壊れた!?わけではないな。
「ハッキング……?」
「そこは魔法みたい?っていってほしかったわね。私は無生物とのハイブリッドのアンデッド。
はっとなって注意深く部屋を観察すると、オズマの足元、金網でちらっと見えた床下にもエメラルドの結晶があるのが見えた。なるほど、これがすべて彼女の体の一部なのか……。
「すごいです~!オズマさんはコンピュータさんみんなとお友達なんでっすね!」
「ふふ、そういうこと。ちょっとお願いするだけでみんな助けてくれるのよ?」
いやー、ぶっとんでますなぁ。
――あっ、だからこんな人里離れたところにいるのか。
そりゃこんなアンデッド、どう考えても町中に居られないよ。
電子制御されてるモノ全部がハチャメチャにされるじゃん。
「それで、依頼の内容は端末を見ろという訳ですね、どれどれ……」
内容は、オズマと敵対する野盗の基地を攻撃、か。
敵対している野盗は、誘拐、強盗殺人を繰り返していて、自制がきいておらず、これ以上活動を容認すると、治安部隊の出動を誘う可能性があるので排除したい、と。
うん!素晴らしくロクでもないね!
「受け入れやすいように書いてはあるが、ようするに野盗同士の派閥争いですか」
「オズマさんと喧嘩してるひとをやっつけるんですね~?」
「ええ、平たく言えばそうなりますわ。こちらからは案内役を一人つけます。」
……お目付け役付きか。ぼくらトコロザワに行く途中なんだけどなあ。
「おともだちがふえるのはうれしいんですけど~私たちトコロザワに行く途中なんです。後でもいいですかぁ?」
ウララさん割とグイグイ行くね。
「そこは理解しているので、その分お手当ははずもうと思ってるので、何とかならないかしら」
……ッ!
オズマはデータを送るだけじゃなくて、見ることもできるのか……?
「フユさん、どうしましょうー?断っちゃいます?」
「うーん、断るって考えが出るウララさんって、ちょっとすごいなって」
「だよな?普通この流れは受けるだろ?」
ほらほら!スキンクまで突込みに入ったぞ!?
「まあまあまあ、お手当次第というところでここは穏便に……」
「勿論タダでやってもらおうなんて思ってませんわ。 スキンク、あれを」
「はい、お嬢様。」
スキンクが取り出したのはグリップも刀身も単一の黒色の金属で作られた刀だ。
長さは30センチ程度。ちょっと大きなナイフ程度大きさだ。
「モノリスブレードです。前払いで報酬として差し上げます。これで如何かしら?」
オズマは自信にあふれた様子だが、僕にはこの刃物の価値が解らない。だって僕、ライフルマンだもん。
「すみません……刃物には疎くって、価値を説明していただいても?」
「は、マジ?待って、今の無し、……では説明差し上げますわ」
あ、キャラ作ってるんだ。オズマに対してちょっと親しみがわいたかもしれない。
「モノリスブレードは単一元素をプログラムで結晶化した刃物です。私のような単一結晶が本体のアンデッド、モノリスだけが作り得る武器ですわ」
なんかすごいことを聞いた気がするが、気の所為かな?
グリップや鍔が無いのはそういう事か。使い勝手の為に、ラバーグリップくらいはつけてもよさそうだけど。
「通常の刃物は、鉄に炭素が混ざった状態で結合を強化していますが、モノリスブレードの場合、別の元素は邪魔になるので排除しているわけですね。」
「その特性はずば抜けた強靭性と復元性ですわ。ちょっと折れたり曲がったくらいなら、一晩寝かせておけば元通りになりますわよ」
「なにそれ怖い」
「で、答えの方はいかがかしら?」
――正直あまり彼らの依頼をやりたくはないが、野盗とのコネはないよりあった方が良い。クズ拾い自体がやくざでアングラな商売だからだ。
しかし肩入れしすぎると確実に衛兵隊との
一瞬脳裏に、パワーアーマーを着込んだステラさんに追いかけられて「
……悩みどころだが、ここは顔を売るつもりで受けることにしよう。
僕はちょっと言い方を考えてから、オズマに依頼を受けることを伝える。
「提案された依頼ですが、報酬が目当てというより、あなた方を深く知りたいという興味の為に受けようと思います。」
「素晴らしい判断ね」
「ではこちらから出す案内役を紹介するわね、ティムールという子よ。ちょっとやんちゃな子猫なんだけど、悪気があるわけじゃないから、許してあげてね。」
オズマがぱんぱんと手を叩くと、僕らの背後から天井からすたっとアンデッドが降りてきた。忍者か!?
その姿はなかなかユニークだった。上半身はトラ、下半身は金属とキチン質の甲殻のいりまじった2脚で、首後ろには冷却用の熱交換器がついていた。
胴体は少し胸が盛り上がっているし、顔の感じからしても少女型みたいだ。獣ベースはちょっと性別が解りずらいんだよね。
両腕にはごっつい籠手が直接ボルト止めされている。冷却用の熱交換器もついてたし、高速戦闘をモットーにする白兵戦闘タイプか。
おそらく得物は拳と爪だろうか?
「格闘型ですか。」
「あなた方は射撃が得意そうでしょう?ですから、つけるなら彼女が丁度いいかと思いまして」
なるほど、一応気を使ってもらっているようだ。
「あと彼女は廃墟を歩くのに慣れてますの。勘だけで踏破するので、あなた方の求めてる物とはちょっと違うかもしれませんが、それも報酬のうちと見てもらってくれないかしら。」
ああ、セクノフォンさんの依頼もお見通しか。これは――うん、勝ち目がない。
「おなしゃーっす!ティムールちゃんでっすよー!」
大きな前肢をあげて元気いっぱいに挨拶している。なんかウララと気が合いそうだね。
「ティムールちゃんですか~ウララですー、よろしくです!」
「おう!ウララっていうのか!うまそうだな!足一本もらっていい?」
――前言撤回。
「だめですよ~走れなくなっちゃいますー。」
「えー、一本くらいならいいじゃん~?」
「じゃあ、バッグをティムールさんが持ってくれるなら、あげてもいいですよー?」
「お?持つ持つ!!ちょーだい!」
ウララが100キロ以上ある連結バッグをわたす。
無論、そんなもん渡されたティムールは派手にひっくり返ってしまった。
いや、よくそんなの持てるね?ウララさん??
「うぎゃーっ!おーもーいー!つ、つぶれる!」
「それじゃーお足はあげられないですねえ~」
もがくティムールを見てウララさんはくすくすと笑う。
……鬼や、鬼がおる……!
「オラ!お前らココ狭いんだから、遊ぶなら外でやれ!」
騒ぎすぎてスキンクさんに怒られてしまった。
何だかんだよくわからない展開だが、なんとかなっているんだろうか?
大分危ない橋を渡っている気もするんだけど。
――「人生は思い通りにならない」というのは歌や詩でよく聞くが、
まさか野盗に雇われるとは想像してなかったよ。
僕はスキンクからモノリスブレードを受け取ると、ウララとティムールに続いて、最後に列車を出た。ゴトウさんとササキさんへの説明はスキンクたちがしてくれるらしいけど、変に誤解が生まれないといいなぁ……。
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