第11話 専門家を探そう

 依頼を受けた僕たちは、「ラグ.アンド.ボーンズ」でこれからどうするか?という事を親父を交え話し合うことにした。


 「まず、確認だけど、依頼内容は『廃墟での安全な拠点設営の方法』をセクノフォンさんに伝える事だね」


「そういえばフユさんは、お家つくったことあるんですか~?」


「簡単なものならあるけど、セクノフォンさんが言うような、拠点はないかなあ?」


 本格的な拠点設営は、僕にとって初めての分野だ。

 土嚢や瓦礫を使って、狙撃用にをつくったり、雨風や夜の闇をやり過ごすために、一時的な退避場所を作るのはやったことがある。


 しかし、半恒久的に使う隠れ家や拠点となると、そこまでのものは作ったことが無い。第一、隠れ家が必要なほどに財産があるわけでもないし。


「簡単な狙撃拠点とか陣地は作るけど、何週間も籠ったり、物資を備蓄するような拠点はまだ作ったことが無いんだよね。」


「じゃあ、お勉強しながら作るのはどうでっす?いっぱい家具とか置いたりしましょうー!」


「うん、ウララとバディを組んでから、持ち帰れるものが増えて実入りも良くなったし、家具のたくさんある、本格的な拠点を作るべきかもしれないね」


「ふっふーん、もっと稼いで大要塞を作るですよ!」


「お、それなら俺の部屋も作ってくれるか?店の在庫を置かせてくれよ」


「親父は何もしてないだろ、ただ左から右に流してるだけじゃないか」

「ばっかお前、それにもテクってもんがあるんだよ」


 親父の話はともかく、依頼の目的だった工具がいい金になったのはいわずもがな、ウララのバッグに詰め込めるだけ詰め込んだ、こまごまとした日用品も意外と金になった。

 ――特にダクトテープと接着剤は滅茶苦茶いい金額になったね。


「ウララのおかげで、実際お金には余裕ができてきたからね。普段は置いていってしまう物も持って帰れたし」


「このウララにお任せあれですよ~、実はまだ余裕はあったですよ?」


「うっそでしょ?」

 4つのサイドバッグには大丈夫かなってくらい詰め込んでたのだが……セントールの所持重量は一体どうなってるんだ!?


「ハインリヒさんの用意してくれたポーター装備の荷重分配がよくできてるおかげで、農場の時より一杯運べそうでしたよ~、後2つバッグ増やしてもいいかも?」


「まだ伸びしろあるんだ……何それ怖い」


「まあ金はあっても困らないしな、いいことじゃねえの」


 「金」と言っても戦前の人間が使っていた紙きれではない。

 衛兵隊の発行している軍票だ。 


 軍票は衛兵隊の発行している仕事をするか、廃墟で拾って来たガラクタたからものを衛兵隊の窓口に献上すると、その価値に応じてもらえる。


 ――で、その軍票を使って、マーケットや、衛兵隊の配給所で物資と交換するという具合なのだが……。


「いや、金があっても買えるものが無いっていう事もあるし、拠点を作って置いたままにするのもアリじゃない?」


「お前も言う様になったね、確かにベテランのクズ拾いは拠点を構えて、物資の不足に備えてる。それに物資の不足となれば、高く売れるからな、値段が高くなりそうなものを前もって集める。そういう投機的なことをしてる奴だっているぜ。」


 なるほどね、やはり隠れ家というものは悪くない。取れる選択肢が格段に増える。


 こういったことを喋りながら考えてると、今回の依頼に対するやる気がもりもりと湧いてきた。やっぱこういう自分の為にもなる依頼と言うのはいいね。


 親父が依頼を選別するセンス、マジで良いのでは?まあ、これを言うと親父が調子に乗るので黙っておくが。


「――というわけで、これから自分たちの拠点、住む所だね、それを作っていき、その過程で学んだノウハウをささっと報告書にまとめて、依頼者に売っぱらいます。」


「わ~おうち作るの楽しみですー、畑を作ってもいいでっすか?」


 ぱちぱちと拍手をするウララさんには、既にビジネスマンとしての面影はない。アレはとても心臓がきゅうっとするので、元にもどってよかった。


「畑は……どうなんだろう?それも調べないとね」


 さて、まずとっかかりとしては、謎の交友関係と広範な知識を持つ親父に話を聞くのが良さそうに思えた。


 僕がクズ拾いになってから、物事に詰まった時は大抵親父に聞くと前に進む。

 態度は悪いが、やることはやってくれる。


「 本格的な隠れ家の建築なんてやったことないし。親父の知り合いで、隠れ家を作るのがうまい奴とかしらない?」


「そうだなぁ……ないこともないが」


 親父は両手を組んで考えこんで、誰に告げるともなく、まるで独り言のように言う。


「ただ、あいつはなぁ……」


 親父が言うには「サバイバリスト」と呼ばれる種類のクズ拾いがいるらしい。

 なんのことやら?と思って深掘りして聞いてみる。


「あいつはなぁ……なんていうか、理屈っぽいというか


「ええー? フユさんよりも理屈っぽいんですかー?」


 あのー、ウララさん?僕のガラスのハートがちょっと傷つくんだけど。


「フユとはベクトルの違うめんどくささだな。危険を承知で町の外に定住してる奴なんだ、多少どころじゃない変人なのは覚悟しておけよ?」


「定住って、ちょっとそれ隠れ家とかとレベルが違くない?」


 なんだそりゃ?なんかヤベー奴な気がしてきたな……


「サバイバリストっていうのはそういう連中だからな。連中は自分以外何も信じてない。信じているとしたら、廃墟の秩序だけだな。」


「弱い奴は死ぬ、とかそういった類の哲学? わーめんどくさそう」


「いやもっとひどい、耳栓を持って行った方が良い」


 親父の顔を見るに、本当にひどいんだろうな。


「ただ、廃墟の中で拠点を構えたり、生き抜く術は心得ているはずだ。なんたってもう数十年は生きてるからな。」


「それもう妖怪かなんかだろ」


「わりとそういう存在かもしれん」


 そこまで言われると逆に興味がわいてくる。そんな妖怪は、「和尚さん」と呼ばれているそうだ。ああ、もう名前でどういったたぐいの面倒さか解ったわ。


「和尚さんはトコロザワの駅にたまに補給品を買いに来ている。そこで聞くのがいいだろう。イナリヤマから南に線路を辿れば8キロってとこだな。8時間は見た方が良い」


「それに南だと人口密度の高かった廃墟を通るから、なれ果てや野盗も多い。隊商の護衛の依頼は常に出てるから、ついでに受けてったらどうだ?」


「廃墟を行くときの事、クセノフォンさんに教えてあげたら喜ぶかもですねー」


 ウララの言うとおりだ。これはメリットが多い、護衛依頼の報酬も足してしまえば1石3鳥だ。いや、帰りの依頼も含めれば4鳥か。


「フユさん悪い顔してますー」

「ほんとひでえ顔してるよな。ヤクザのがもうちょっと人のいい顔してるぜ」

「ひどくない!?」


 まあ確かに、僕の選ぶ服は大体黒っぽいので陰気な感じがひどい。死んだ魚の目の雰囲気を3割増しくらいにはしてるかもしれない。


 トコロザワで明るい雰囲気のお洒落な服でも買うか?

 いやいっそクソダサTシャツでも買ってネタに振り切るのもありかもしれないな。


 しかし、護衛の依頼を受ける前にまずは「シュヴァルツ」に行かないとな。

 ウララと僕の装備の改造を頼んで預けたままなのだ。


 工具が追加されて一体どうなったのか、ちょっと不安だが楽しみではある。さて、ハインリヒの哲学が100%反映された装備とは、一体どういうシロモノに仕上がっているのだろうか……。

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