第12話 装備をアップグレードしよう
ラグ.アンド.ボーンズを後にした僕たちは「シュヴァルツ」にやってきた。
「あれ、何か前と雰囲気違くない?」
「なんかにぎわってますね~、ハインリヒさんも喜んでそうでっす」
以前来た時は、イルマ城塞の陰気な感じがそのまま工房の中に吹き込んでいるようだったが、今のシュヴァルツはちょっと趣が変わっていた。狭い店内に客が4,5人いてそれなりに賑わっている。
ハインリヒさんは僕たちを認めると、助手に僕らを奥に通すように言った。ハインリヒさんが直接対応してくれるようだった。
預けていた装備は防具一式と、僕が借りたよくわからん名前のライフルと、ウララの使っていた「ドリリング」だ。
それぞれに消音機能の追加と、ドリリングに関しては装弾数の増加を頼んだ。
「工具と検査器具の件はお世話になりました。さすがはカクタさんのご紹介されたクズ拾いですね。」
あのハインリヒさんのレモンを食ったような顔は、ミカンを食ったくらいに柔和になっていた。
「おかげさまで色々無理がきくようになりました。こちらの『ドリリング』はライフル部分にインナーサプレッサー、つまり消音器を内蔵しました。ショットガン部分は構造上、完全な消音が難しかったので、ヴァンピールに換装してあります」
「ヴァンピールってなんですか~?」
「はい、これは空気圧式の発射装置です。 散弾をストックに内蔵された核融合炉バッテリーを動力に加圧して発射します。 散弾の補充はストックの穴からできます」
ハインリヒがストックのパッドを開くと、ベアリングの詰まったシリンダーが出てくる。大体これに一射12発の散弾を10回放てるそうだ。
ドリリングはダブルバレルだから、つまり両方で20発か。
「これまた変態的な機構になってるなぁ……」
「クールダウンが必要ですが、散弾の他に先込め式の榴弾もあつかえるようになっていますよ。 もちろんスラッグやダート、おおよそ何でも発射できます。」
ハインリヒが並べた弾頭は中型アンデッド用のスラッグ、防弾ベストを貫通できるダート、そして楽器のマラカスみたいなグレネードだ。
やりたいことは解るが、ここまでする必要があるのか?
「すごいです~ハインリヒさんってやっぱ技術力すごいんですねー」
「恐縮です。」
実際すごい代物だ。何がすごいって、一切見た目が変わっていない。見た目を維持したまま必要な機能をぶっこむそのスタイルには、ちょっとした狂気まで感じるな……。
「そしてこちらはフユさんのGew43ですが、ライフルとしての機能を失わず、消音機能となると実体弾では実現が難しいので、熱核レーザー兵器に変更しました。」
「え? 今何て言いました?」
「熱核レーザー兵器にいたしました。ご安心ください、レーザーの周波数は可視光帯を外れているので、射撃位置が暴露する心配は一切ありません。」
「すごいです~『月面海兵隊』とか『スターシージ』みたいです~!」
ライフルの改修を頼んだらレーザー銃になって帰ってきた。
何を言ってるのかわからんと思うが、僕にもわからん。
ていうか、ウララの「ドリリング」のライフルが消音できて、何で僕のライフルが消音できてねえんだよ!?
――絶対ハインリヒさんの趣味だ。僕はそう訝しんだ。
「弾薬はどうなるんでしょう?レーザー銃の弾薬は使ったことが無いのですが」
「こちらの核融合セルを使用してください。 代用として熱交換バッテリーも使用できますが、効率が悪いのでお勧めは致しません。」
ハインリヒさんが取り出したのは黒色に鷲のマークが白で染め抜かれた電池だ。見た目は電池だが、火に入れると核爆発するとか書いてある。コワッ!?
「セル一つで250発は連続して撃てます。 ただし熱量の問題で20発撃つごとに安全装置が作動して3秒の冷却が発生します。」
マガジンの中に縦列で電池が入れ込まれてる。なるほどね、こうすれば見た目そのままでレーザーライフルになるわけだ。意味があるのかは知らないが。
「オプションで射撃音と反動の再現機能を付属しています。 お望みでしたらダミーの射撃機能もつけられますが?」
「えっと……一応今のままで使ってみようかと思います。」
これ以上魔改造されてはたまらない。銃の方はこれで切り上げよう。
装甲服に関してのオーダーは「重さそのままで装甲の強化」だけ頼んだから、そこまで変な事にはなっていないだろう。……たぶん。
「フユさんの装甲服ですが、こちらは繊維をアラミドからプラスチールに変更し、これまで装甲が無かった部分にも、クラスⅡ相当の防弾性能を持たせました。」
「クラスⅡということは、9㎜パラベラムや357マグナムみたいな拳銃弾からは保護されるっていう事か。ラプチャーは?」
ラプチャー、あるいはラプというが、看護用語で血管の破裂を意味する言葉だ。転じて、なれ果てに引っかかれたり、噛みつかれた時の耐性を表す言葉になっている。
「ラプ耐性は、グールの甘噛み程度は防げると言った所ですね。過信はされない方が良いかと。」
「まあそうだよね、所詮は服だし、シールドやガントレットを持ってない僕がラプから身を守ろうとする方がそもそもおかしい。」
「いえ、こちらが至らなかっただけでございます。」
「戦前の軍需工場でしたらもっとグレードの高い繊維が手に入るのですが……」
「なるほどね、覚えておくよ。 ウララの装備は?」
「こちら、ポーター用装備ですが、まだ重量に余裕があると伺ったので、膝あてや太腿用の
――またそういう変なことする。
「わぁ、ファンタジーの騎士様みたいですね~格好いいです!」
「恐悦至極。実はこれはうちの『ナイツ・オブ・ラウンド』というブランドのデザインを流用いたしておりまして。」
「いや、格好いいけどさぁ……」
ウララの装甲服はなんていうか、俗っぽい言い方をすると、イルマの界隈で流行っている、ソシャゲのガチャのSSRキャラみたいになっている。
「もうちょっと派手さを抑えられません? いくらなんでも目立ちすぎですよ」
「えー、これくらい格好いい方がよくないですか?」
「この棘とか何の意味があるのさ! 金色の縁取りとかいらんでしょ!?」
心持ちシンプルなプレートに変えてから受け取った。ウララとハイドリヒは不満そうだが、なんぼなんでもアレはないわ。
僕は装備を受け取って改造費を払う。大分おまけしてくれたのか信じられないくらい安い。ハインリヒさん、これで商売になるんだろうか……?
さて装備を受領したし、護衛の依頼を受けに行くとしよう。
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