第5話《ガソレタ王国クコハ地方》兄妹の家


 案内された部屋は、普通の2人用ベッドが3つと、木で作られた小さな机と椅子だけというものだった。窓は小さな物が一つだけ取り付けられていた。


「じゃ、明日の朝まで自由時間な。便所以外でこの部屋から出んなよ。飯は宿屋が運んできてくれるらしいから。」


そう言うと、おっさんは木箱を床に置き、真っ先にベッドへ寝転がった。 


「おっさんさぁ、もっと子どもを大事にしなよ。一緒に遊んでくれるー、とか無いの?」 


カルハはおっさんの隣のベッドへ寝転がって言った。


「俺ぁ雑貨屋で託児所じゃねぇんだよ。部屋の中でなら好きに遊べよ。2人居んだから、なんかできんだろ。」


おっさんは大あくびをしながら目をつむった。もう2人の相手をするつもりは無いらしかった。


「ちぇっ。クルハ、何して遊ぶ?」


「・・・。」


カルハは、イスに座って大人しくしているクルハに話しかけたが、クルハから返事は無い。


「クルハ?」


カルハは、ベッドから降りてクルハの顔を覗き込んだ。顔色は、お世辞にも良いとは言えなかった。


「・・・・しよう。」


「え?」


「お父さんとお母さんと、一緒に暮らせなくなっちゃったらどうしよう・・・!!」


そう言い、クルハの両眼からはぽろぽろと大粒の涙がこぼれた。クルハは不安に押しつぶされそうだったのだ。大好きな両親が離れ離れになるのではないかと。もう、4人で暮らせなくなるのではないかと。


「嫌だよぅ・・・みんなで暮らしたいよ・・・!」


クルハの涙は止まらない。カルハの目からも、少しだけ、涙が落ちた。おっさんは、そんな2人を気にする事無く、大の字で眠り続けていた。

 昼を過ぎた頃だろうか、カルハとクルハは泣きつかれたのか、2人で同じベッドの上で眠っていた。


「・・・んあっ。ふあ〜・・・。」


2人が涙をためたまま、深い眠りに付いた頃、おっさんは目を覚ました。起きて最初に確認したのは2人が部屋に居るかどうかだ。居なくなっては後々面倒だからである。

 辺りを見回し、ベッドの上に居る2人を見つけた。

その2人の横には、部屋に備え付けられていたメモ用紙だろうか、そのメモ用紙に父親と母親の名前と、2人の絵が拙く描かれていた。どちらが描いたのかは判断がつかないが、細かい所までよく描かれている。父親が着ている服は、職場の制服だろうか、何か紋章が左胸の辺りに描かれていた。


「ちょっと出てくる。30分ごとに部屋のガキ2人の様子を見てくれ。あー、俺のカワイイ甥と姪だから。」


おっさんは、2人の事をフロントで新聞を読んで暇そうにしていた宿屋の主人に頼み、返事を聞く前にさっさと宿屋を出た。


◆◆◆


「さー、見て行って。どれもこの国じゃ珍しいもんだ。」


 宿屋から出たおっさんは、街の外れで店を広げていた。人通りは少ないが、同じ服を着た人達がよく通る道だった。


「ねぇねぇ、なんかお店が開いてますよ。」


「え?ほんとだ。何屋さん?」


男女1組が、おっさんの店を覗いた。女性は、ピンクやオレンジ、黄色など、明るい色の商品を目を輝かせながら見ている。

男性の方は特に興味が無いのか、女性が見ている商品を目で追っているだけのようだった。


「姉ちゃん、それに興味があんのか?そうだよな、いわゆるカワイイ見た目してるもんな、それ。」


おっさんは、ピンク色の石がはめられているシルバーで造られた指輪を、ひょいとつまんで見せた。


「それな、縁を切りたい奴にプレゼントするか、そいつの持ち物に忍ばせな。そんで、渡したら、そいつの前で赤い紐が切れるイメージをしろ。そしたらそいつとの縁が切れっから。」


「本当に・・・?」


女性は、可愛いと言っていた指輪を、何か恐ろしい物を見るような目で見ていた。


「嘘じゃねぇよ。作り主と住んでるとこ教えてやろうか。」


男女2人はただ黙って指輪を凝視していた。


「ただ、どんな縁の切れ方すんのかは知らねえ。それは魔女にも分からないらしい。さぁ、どうする?」


「や、いいです。行きましょう、先輩。」


「え?あ、うん。」


男女はそそくさとどこかへ行ってしまった。

おっさんが店仕舞いの準備をし、宿へ戻ろうと踵を返すと


「あのっ、店主さん!待ってください!」


さっきの男女の男性の方が、後ろから追いかけて来た。

走って来たようで、息が上がっている。


「さっきの指輪っ、かい、買います!いくらですか?」


「銀貨1枚。」


男性は小さな袋から銀貨を1枚取り出すと、おっさんに手渡した。


「まいどあり。あー、えーっとどこだったか。あった。

ほらよ。」


おっさんが指輪を男の手のひらにポトリと落とす。男性は、指輪を大切そうに紋章の描かれている胸ポケットに入れた。


「女に装飾品をプレゼントするたぁ、良い男だな。」


「それ、皮肉ですか?」


「褒めてんだよ。素直に。」


男性はおっさんに会釈すると、来た道を戻って行った。

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