あれから私たちは
第37話変わらないあなたが
桜が舞い落ちるこの季節になると、僕は昔のとある記憶を思い出す。ずっと惨めで、暗いどん底に陥っていた僕に手を差し伸べてくれた、不思議な先輩のことを……。
出会いは衝撃的で、とても一般的じゃなかった。自殺を試みていた癖に、まるでそうは見えない笑顔が特徴的な女性。
僕はそんな彼女に、高校一年生の夏、恋をした。
僕のことを肯定してくれて、僕のことを見ていてくれた彼女に、僕は恋をしたのだ。
そして彼女も同じく、僕なんかに好意を寄せてくれた。
幸せだった。でも、その幸せも、長くは続かなかった。
真由先輩。僕はあなたと出会えたことで、自分を変えることができました。
大っ嫌いだった自分が、ほんのちょっとだけ好きになれました。
あなたと出会わなければ、きっと僕はまだ、一人ぼっちで自分のことが嫌いなままでした。
シャッシャと目の前にあるフライパンで料理を炒めていると、懐かしい記憶が掘り起こされて感傷に浸る。
あの頃は楽しかったな。楽しくて、辛かった。彼女と別れた日には、本気で泣いたし、死んでやろうかとも思った。
でも結局、なんだかんだで真由先輩とはやり取りを続けることができたし、半年に一回ぐらいのペースで会ったりもした。
新しい学校でも、勇気を出して話しかけたら少ないながらも友人と呼べる人たちもできた。本当に、あの人には感謝しても仕切れないな……。あの無邪気な笑みを思い出すたびに、口角が緩んでしまう。
時計の針を確認して、まだかまだかと待ち遠しい気持ちになる。そして、トントントントンとフライパンと木ベラがリズミカルな音を奏でている最中に、ガチャっと玄関のドアが開けられたので、僕は挨拶をするため料理を一旦中止して。
「たっだいまー! 帰ってきたよ!」
大人になっても元気な笑顔を絶やさない、あの頃と変わらない彼女のことを迎え入れる……。
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