第22話恋心と依存心

 あれからというもの、中学時代の記憶をフラッシュバックすることはなくなった。


 もちろん完全にしなくなったわけではないが、それでも前よりかはだいぶマシになった。

 同級生の笑い声や喋り声を聞いて、気分が悪くなることもなくなり、少数ながらも喋れる同級生も出来た。


 本当に、奏くんには感謝してもしきれない。心の中で奏くんに感謝をしつつ、私はいつも通り、放課後の屋上に向かう。


 屋上に到着すると、奏くんが一人で暑い日差しの下で本を読んでいたから、私は「ワっ!」と声を出して驚かせてみる。けど、奏くんは眉一つ動かさずに、本を閉じて私の方を見る。

 この前みたいな反応を期待してたのに、なんで無表情なの! 奏くんの反応が面白くなくて、不満を漏らす。


「なんで驚かないの?」


「そりゃ、ドアの開ける音が聞こえましたから」


「なら、ドアが開いたらなんかしら反応してよ。無反応で本を読み続けるから、てっきり気づいてないのかと思ったよ」


「それはすいません。もう少しだけこの本を読んでたくて」


 自分より本を優先されて、ちょっとだけ嫉妬する。でもま、別にいっか。

 それから私は、今日同級生と会話したことや、嫌な記憶を思い出さなくなったことを、奏くんに報告した。私の話を聞いた奏くんは。


「それじゃあ、もう死にたいとは思いませんか?」


 確認するよう質問してきた。死にたいかと聞かれ、私は今の自分の気持ちを向き合い、考える。


「どうだろ。確かに嫌な記憶は思い出さなくなったけど、それでもお母さんからはまだ酷いことをされたりするし……」


 まだまだ私の人生に嫌な問題は転がってる。けど。

 隣にいる奏くんのことを考えたら。


「でもやっぱり、今はもう自殺しようとは思わないかな!」


 満面の笑みで言うと、奏くんは少しだけはにかみ。


「それなら良かったです」


 喜んで言ってくれる。

 彼の何気ない笑顔をみた瞬間、胸が強く締め付けられて、苦しくなる。


 この感情はなんだろう?

 ザワザワして、燃えるほど暑くて、考えると苦しい。そんな感情……。


 この感情に「恋」なんて安っぽい名前をつけたくない。この人のためなら、私は迷うことなく死ぬことができるし、この人がいない人生なんて、今では考えられない。

 何を犠牲にしても手に入れたいし、私の人生すべてをこの人に捧げてもいい。


 隣で青空いそらを眺めてる奏くんの横顔を見て、頬が熱くなる。


 あぁ、辛いな。辛くて切なくて、でもどこか楽しい。不思議な気持ちだ。

 ボケーと空を見ていると、あー付き合いたいなーと思う。別に付き合ったからどうとかじゃないけど、この現状に満足したくない。


 付き合ってるって契約が欲しい。


 支配して、支配されたい。


 私だけのもにして、彼だけのものにされたい。


 依存して、依存されたい……。


 奏くんの言葉一つ一つが暖かくて、この人が隣にいない人生なんて考えられない。

 もっと側にいたい。死んでも一緒にいたい。重い女だなって思うけど、それほど強く、私は奏くんに惹かれてる。彼のためなら命なんて惜しくないって思えるほどに……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る