第19話作戦は恙無く順調に

「じゃあ奪うのはどうにかなるとして、そもそもの話、雅さんの彼氏であろう人とどうやって知り合うの? 一応この前雅さんの隣にいた人は、私の中学の頃の同級生なんだけど、連絡先とか知らないよ?」


 一応知り合いではあったから、頑張ればなんとかならないことはないけど……。

 それを伝えると、奏くんは思い出したかのようにハッとして。


「そういえばあの人、僕の家の近くにあるコンビニで働いてましたよ」


 衝撃の事実を伝えてくる。何その奇跡。

 まあこの前デートした場所と、奏くんの家は近いらしいから、なくはないのかもしれないけど……。


「じゃあ私は辻くん。あ、あの人の名前なんだけど、その人が働いてる最中に話しかければいいの?」


「ええ、それでいいんじゃないんですか」


「なんでいきなり投げやりになるの!? 奏くんもちゃんと協力してよ!」


 てな感じで適当に作戦は決まり、私たちはこの後、辻くんがいる件のコンビニに行くことになった。

 時間にして午後六時ごろ。駅からは少し離れたコンビニの中に、例の辻くんがいた。


「本当にいたんだ……。それで、私はここからどうすればいいの?」


 奏くんに助言を求めるが、彼は。


「普通に話しかければいいじゃないですか」


 さも当たり前のように言ってくる。


「普通って、それじゃあ変な人じゃん。いきなり勤務中に話しかけても、迷惑がられるだけでしょ」


「じゃあ勤務が終わるまで待ったらいいじゃないですか」


「それだと長すぎるよ!」


「真由先輩ってなんだかわがままですね……」


「なんで私が呆れられてるの!? 元々は奏くんが立てた作戦なんだから、奏くんが考えてよ!」


 なんて感じで軽い言い合いになっていると、ちょうど辻くんが店内から出てきて、ゴミ箱の袋を変え始めた。


「ほら、今がチャンスですよ」


 奏くんは「ほら早く」と急かしながら、電柱に隠れていた私の体を押し出してくる。


 ええ、いきなりすぎるよ! 


 まだ心の準備が整ってないし、何を話せばいいのかも考えてないし。

 ただでさえ同級生には苦手意識があるのに、それが中学の頃のなんて、多分まともに話せすらしない。

 あーもうどうすれば! でも、もうここまできちゃったし……。私はぎこちない足取りで、偶然を装いゴミ箱の前にいる辻くんと顔を合わせる。


「「あ」」


 二人して声がハモる。なんか、会っちゃいけない人と出くわしたみたいな、気まずい雰囲気。何か言わなきゃと言葉をひねり出そうとする。けどその前に、辻くんは申し訳なさそうな雰囲気を醸し出しながら謝ってきた。


「その、この前はかながごめんな」


 かなってのは、確か雅さんの下の名前だ。下の名前で呼んでるってことは、やっぱり雅さんと付き合ってるのかな?

 とりあえず、何か話を続けなくちゃ。


「あー全然。気にしてないから大丈夫」


「そ、そっか……」


「うん……」


 後に続く言葉が見つからなくて、また気まずくなる。こんなに居心地が悪いのはいつぶりだろうと失礼なことを考えてると、辻くんは急いでゴミ袋を変えて。


「えーとじゃあ、俺もう行くから」


 逃げるように、急いで店内に戻ろうとしてしまう。

 まずい。これじゃあ作戦が泡になる。とっさに脳みそをフル回転させると、私はしどろもどろになりながらも、一生分の勇気を振り絞って。


「ねぇ。良ければライン交換しない?」 


 なんとかその言葉を口にする。いきなりラインを交換してくれと懇願された辻くんは、訝しむ表情を見せるが。


「まあ、別にいいけど」


 満更でもない表情を覗かせると、ポッケから携帯を取り出してライン追加をしてくれた。

 よし! 作戦の第一段階は成功だ。


 「それじゃあ後でラインするね!」


 なんとか愛想を振りまくと、私は駆け足で離脱する。

 急いで元いた電柱に帰還すると、ジャーンと携帯の画面を奏くんに見せつけ、自慢げに話す。


「ほら見て。辻くんのラインもらったよ!」


 私が嬉しそうに報告してみせると、奏くんはつまらなさそうに「良かったですね」と言い。


「それじゃあもう帰りましょうか」


 声色から、怒ってる色を醸し出した。


 なんだか後半からあんまり機嫌が良くない気がしたけど、奏くんの場合は普段から不機嫌っぽいから、まあ正常運転か。

 あまり気にせず帰宅すると、私は辻くんにラインを送る。面と向かってだとうまく話せなかったけど、文章の中だったら別だ。いくらでも愛想よく振る舞える。


 相手に興味があるフリも、気があるフリも、なんだって臆することなく出来る。私がラインを送ると、夜の十一時ぐらいに返信があった。最初こそ素っ気ない感じを出されたけど、話していくうちにあっちから疑問文を送られることが多くなり、文章のやり取りは夜の一時まで続いた。


 流石に眠いからこの日はやり取りを終えて、次の日は朝から空き時間を使ってラインをした。そんなことを繰り返していると、私は今週の土曜日デートに誘われた。


 やっと話が進み、私は作戦のことを奏くんに相談する。


「ねえ、今週の土曜日に辻くんとデートすることになったんだけどさ、ここからどうすればいいと思う?」


「そんなのわかりませんよ。真由先輩に気があることが確かなら、何もせずうまくいくんじゃないんですか?」


「いや、確かにあの二人を別れさせるのはうまくいくかもしれないけど、それだと雅さんの悔しそうな顔を拝めないじゃん。私はあの人の悔しがる顔が見たいんだよ」


 私が悪い顔をすると、奏くんはフッとえくぼをへこませ。


「真由先輩って意外と悪い人ですね」


 面白そうに、私を悪者扱いしてくる。


「いやいや、私は優しいよ! ただ、今回は雅さんが相手だから、悪いお姉さんが顔を出してるだけだよ」


「そうですか?」


「そうなの! まあそういうわけだからさ。今週の土曜日、奏くんも後ろから付いてきてよ」


「何がどうあってそうなるのか分からないんですけど……」


「わからなくてもいいから付いてきてよ。私だって辻くんとデートするのに一日潰されるんだから、それぐらいいいじゃん」


 愚痴をこぼすように言うと、奏くんはちょっとだけ微笑み。


「まあ、いいですけ」


 なんだか勝ち誇った笑みで了承してくれた。

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