第18話復讐。悪くない響きだ!

「ね、ねえ……」


「ん?」


 次の日になると、私は席が近くのクラスメイトに話しかける。言葉が詰まりながらも、なんとか話題をひねりだして喋ろうとするが。


「今日ある数学の宿題ってもう終わった?」


「あーこの後やる予定だけど、なんで?」


「あ、いや……」


 頭が真っ白になり、会話が終わる。やっぱりダメだ。事前に何を喋ろうか考えてたのに、いざ話しかけると全部消えた。でも、ここで終わったら奏くんに申し訳ないと思い、私はもう一度別の話題を振ろうとする。だけどタイミング悪く、他の子が目の前のクラスメイトに話しかけてきて、私は会話を振ることができなかった。なんなら二人の甲高い笑い声を聞いて、気分が悪くなる。


 重症だな。昔は普通に喋れたのに。いちいち話しかける時に準備なんかしなかったし、人と話すのは好きな方だったのに……。

 あーもう嫌だ。情けない先輩でごめんね。心の中で奏くんに謝罪する。結局意気地なしな私は、放課後の時間になるまでクラスメイトの誰とも話すことが出来なかった。いつもなら軽い足取りが、今日はやけに重い。奏くんに合わせる顔がないな……。私はズーンと落ち込んだ表情で屋上の扉を開け、珍しく先に来ていた奏くんになんの成果も上げられなかったことを報告する。


「ごめんね。失望したでしょ」


「いえ、別に失望はしてないですけど……」


 気を使ってくれた奏くんは、不甲斐ない私のために頭を悩ませると。


「やっぱりこの作戦はやめましょう」


 突き放すように、作戦の続行を取りやめにする。やっぱり失望してるじゃん! 


「だ、大丈夫だよ。もう一回やればできるから。だから捨てないで!」


「べ、別に捨てませんよ。ただ、他の案を思いついただけです」


「他の案?」


 首を傾げて聞いてみると、奏くんは遠い空を睨みつけながら話し始める。


「やっぱりやられっぱなしってムカつくじゃないですか。あの日、真由先輩に酷い言葉を浴びせた人、僕は嫌いです。だから復讐しませんか?」


 唐突な復讐宣言に驚く。まさかリアルで復讐なんて言葉を耳にする機会があるとは思わなかった。でも、悪くない響きだ。

 ……けど。


「復讐って、具体的に何をどうするの?」


 復讐なんて恐ろしい行為を、奏くんはどのようにして実行するのか。彼はニヤッと不敵な笑みを浮かべると。


「あの人は真由先輩が彼氏を取ったと勘違いして、事実確認も行わず真由先輩に酷いことをしたんですよね? だったら今度は本当に取ってやりましょう。それで最後にこう言ってやるんです。『ざまあみろバーカ』ってね」


 ニヒッと悪どい笑みを浮かべる奏くん。邪悪なアイディアだ。でも、悪くない。むしろ、次第にやってやると言う強い気持ちが溢れてきた。今までの恨み、全部返してやる!


 考えれば考えるほど楽しい気持ちが溢れてきて、私たちは早速計画を練り始める。


「それじゃあどうやって雅さんの彼氏を取ろっか?」


 何か考えがあってのことだろうと思い、私は奏くんに作戦の方法聞いてみる。しかし彼は。


「え?」 


 間の抜けた返事とともに。


「そんなのわかりませんよ」


 なんともびっくりするような発言をした。


「わからないって、これ言い出したの奏くんじゃん!」 


 言い返すが、彼は申し訳なさそうに言い訳を始める。


「確かにそうですけど、でも僕、彼女なんて出来たことないですし、奪い方なんてわかりませんよ……」


「いや、私だってわからないよ!」


「大丈夫ですよ。真由先輩は顔が整ってますから、一声かければあっちから寄って来ます」


 なんとも適当な発言に呆れ返る。


「君は人の感情をなんだと思ってるの? 人の心っていうのはね、そんな単純なものじゃないんだよ」


「いや、単純ですよ。単純だから、真由先輩は過去に告白されて、いじめられたんでしょ?」


「そ、それは……」


 二秒で論破された。確かに私の顔が整っていなければ、あんなことにはなっていなかったと思うけど……。


「でも、今から奪おうとする人は彼女持ちだよ?」


「過去に告白してきた人も彼女持ちだったじゃないですか」


 速攻で二回目の論破をされる。確かにそうだった。じゃあ何? 

 世の中の男って、顔さえ良ければ誰でもいいの? 

 恋っていうのは、そんな単純なものなの? 


 私にはもう、人の気持ちがわからないよ! 

 流石に二回も論破されては言い返す術もなく、一旦は奏くんの話を飲み込む。

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