第17話案外、バレバレですよ……
それから日曜日をまたいで月曜日の放課後になると、いつものように屋上で奏くんを待ち続けた。待っている間に暇だから、何の話をしようか適当に考える。今日は奏くんの昔のことを聞いてみようかなとか、そんな、どうでもいいことを。
今日もきっと、私と奏くんはくだらない話をして会話を終わらせると思う。そもそも奏くんは、あんまり他人に関心のある子じゃないし、きっとこの前の話題に触れることもないと思う。
なんだかんだで気の使える子だし、私が触れて欲しくないことも分かってると思う。
だからまた、前みたいな日常を今日も送ることになる。
そう思っていたんだけど……。
奏くんが屋上に来て、最初はいつも通りなんてことない他愛のない話をした。けど、奏くんはどこか上の空というか、他に聞きたいことがあるけど聞き出せないような、そんな様子だった。
やっぱりこの前の件で、気になることでもあるのかな?
こんな状態の奏くんと話していても面白くないと思った私は、思い切って聞いてみる。
「ねぇ奏くん。なんか私に聞きたいことでもある?」
奏くんが私に質問しやすいよう自分から聞いてみると、彼は最初こそ。
「あ、いえ……」
と遠慮しようとするけど、結局口を開いて疑問を口にしてくれた。
「あの、真由先輩はどうして自殺をしようとしたんですか?」
いかにも分かりきってそうな質問をしてくる奏くん。
あんまり察しはよろしくないのかなと思いつつも、私は自殺しようとした経緯を語る。
「私はさ、いじめられて以来ずっと、どうして自分はまだ生にしがみついてるんだろうって疑問に思ってたんだ。世の中辛いことばかりで、生きてても面白くないし、だったらもう、生きてる意味なんてないじゃんって……。だから死のうとした。それだけだよ」
私が説明すると、奏くんはなるほどと頷いてくれる。
「つまり昔のトラウマが忘れられず、このまま苦しみ続けるなら死んだほうがマシって思ったんですか?」
「そうそう。死んで楽になっちゃおうって……。まあ端的に言えば、逃げ出そうとしたんだよ」
私が言うと、奏くんは心配そうな眼差しを向けてくる。
これは、私のことを心配してくれる流れかなと思ったけど、私の予想を裏切り奏くんは、
「あの、こんなこと言うのは失礼かもしれないんですけど、真由先輩って友達いないんですか?」
ものすごく失礼なことをストレートで聞いてきて、胸がえぐられる。
何なの!?
前にからかったことの仕返し? いつもならニコニコ笑みを浮かべる私だけど、流石に今の心境だと苦笑いせざるおえないよ。
「あは……。まあ、いないかな。同級生の声とか聞くとさ、なんか頭が真っ白になって、冷や汗とか掻いちゃうんだよね。話しかけられても上手く返せなくて、またあの頃みたいになっちゃうんじゃないかって思うと、どうも上手く話せなくて……」
弱気な発言をするけど、奏くんは不思議そうに。
「でも、僕とは話せるじゃないですか」
そんなことを聞いてくるので、私はどうして奏くんとだけ話せるのか力説する。
「それはさ、奏くんも私と同じだと思ったからだよ」
「同じ?」
「うん。最初に君の眼を見たときに思ったんだ。ああ、この子も私と同じで、世の中に失望してるなって。そう思えたら、なんか喋れたんだよね。だから奏くんはすごいんだよ!」
「それは褒めてます?」
「めちゃくちゃ褒めてるよ! これ以上ないぐらいの大絶賛」
「そうですか……」
少し照れ臭そうにする奏くん。彼は少しだけ喋りを止めると、何か考える素ぶりをしてから、ピコンと閃いたように「よし」と呟き。
「それじゃあ真由先輩。とりあえず、友達を作りましょう」
いきなりそんな提案をかましてきた。友達って、なんでまたいきなり?
思った疑問を聞いてみると、奏くんは淡々と答え始める。
「この前も言ったじゃないですか。僕は真由先輩に笑っていて欲しいって。だから友達と呼べる人ができれば、トラウマも忘れられて、心から笑える日がくるんじゃないかと思うんです」
言われて、奏くんが何を言いたいのか分からなかった。
「笑える日って、私はいつも笑ってるじゃん!」
ニコッといつも通り笑ってみせるけど、奏くんはちょっとだけ悲しそうな顔で訴えかけてくる。
「真由先輩が無理して笑ってるの、案外バレバレですよ」
言われた刹那、心臓が止まるかと思った。初めてそんなこと言われた。無理して笑ってるのが、しかもバレバレって……。
誰からも指摘されたことなかったし、ちゃんと笑えてたはずなんだけどな。
「なんでそう思うの?」
素直に聞いてみると、奏くんはジッと私の顔を見つめて伝えてくる。
「だって真由先輩、たまにすごく悲しそうな顔をしますから。でも、その後にすぐ笑顔になる。まるで悲しい顔を笑顔で覆い隠すように……。だから無理して笑ってるなって思いました」
悲しい顔って、そんな顔した覚えないんだけどな。でも、自分の顔を客観的に見ることなんてできないし、現に奏くんには無理して笑ってるってことがバレてるし……。私は自分でも気づかないうちに、悲しい顔をしてたんだろうな。
なんか恥ずかしい。でも、ちょっとだけ嬉しいかも。奏くんは他人に興味ないと思ってたけど、意外と見てるもんなんだな。
顔もまあまあ整ってるし、この残念な性格でさえなければ絶対モテるのにと思う。まあ今はどうでもいいか。それよりも……。
「じゃあ奏くんは、私に心から笑って欲しいから、私に友達を作って欲しいの?」
「はい。それに、同級生と何事もなく喋れるようになれば、過去のトラウマも払拭できるかもしれないですし……」
「ん~。そう簡単にいくかな……」
「確かに難しいと思いますけど、何事も挑戦ですよ」
自分で言うのはあれだけど、私の脳裏にこびりついているトラウマは、友達を作った程度では晴れないと思う。でも、せっかく奏くんが私を元気付けるために色々と提案してくれたんだ。それを実行もせず頭ごなしに否定して無下にするのは違うと思い、私は奏くんのためにも。
「それもそうだね。頑張るよ!」
両腕を頭の位置まで上げて、頑張るポーズを取る。でも今日はもう時間的に無理なので、私がクラスメイトと友達になる作戦は、次の日決行されることになった。
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