第14話くだらない物事ほど面白い!
「さっきはごめんって。謝るから怒らないでよ」
「別に怒ってませんよ。それより、次はどうしますか?」
絶対に怒ってるけど、それ以上に話を掘り返してほしくない奏くんは話を逸らしてくる。
「次か~」
考えるけど、あんまり思い当たらない。とりあえず思いつくのは映画とかだけど、奏くんはあんまり興味なさそうだしな……。
でも、とりあえず案としては出してみようかな。
「じゃあ映画とかはどう?」
「あ、いいですね」
聞いてみると、奏くんは結構乗り気だった。
「お、奏くんは結構映画とか観るの?」
「いえ、ほとんど観ません。でも、だからこそ興味もあります。多分こういう機会じゃないと、観ることもないと思うので」
「だね。じゃあ次は映画館に行こうか」
次なる目的地が定まると、目の前の天丼を平らげ映画館に向かう。
近くにあった映画館に到着すると、二人で電子掲示板に書かれてる映画を上から順に眺めていく。私はそこそこ知ってる作品があるけど、これといって見たい映画があるわけじゃない。
奏くんに至っては、どれも知らないって感じだ。こんな状態で観る映画って面白いのかなと不安を抱いていると、奏くんは一つの作品を指差した。
「あ、この映画って……」
奏くんが指差した映画は、誰もが知ってる映画監督の最新作品だった。ものすごく話題にもなってるし、流石の奏くんでもこの作品は知ってるのか。
「興味あるの?」
「まあ、気にはなりますけど」
ジトーと近くにあるポスターを見つめる奏くん。じゃあ決まりかな。私たちは受付に向かい、有名映画のチケットを購入しに行く。
「すいません。このチケット二枚お願いします」
受付のお姉さんから映画のチケットを購入しようとすると、お姉さんはパソコンをカタカタといじり、座席をどこにするか聞いてくる。見せられた座席表はほとんど埋まっていて、前の席にしか座れない状態。でも人気作だし仕方ないか。
私はスクリーンから二番目に近い座席を指差すと。
「ここでいい?」
隣でぼんやりしていた奏くんに確認する。確認をすると、奏くんは軽く座席表を見てから「大丈夫です」と言ってくれたので、私はスクリーンに近い座席のチケットを二枚確保した。
「さて、上映までまだ少しあるけど、どうしよっか?」
チケットには二時から上映と書かれており、今は一時二十分だ。まだちょっとだけ時間を潰す必要がある。
といっても、微妙に短い時間だから、やれることも行けるとこも限られるけど……。
とりあえず館内にいても仕方がないので、私たちは外に出る。暗がりに慣れた眼に明るい日差しが降り注ぎ、思わず瞼を薄める。眩しい。
太陽もこんなにやる気を出さなくて良いのにと思い、私は煩わしいほど光り輝く太陽を睨みつけながら、空を仰ぐ。
この後どうしよっか? と奏くんに尋ねてみると、彼は適当に辺りを見渡し、目についたであろうゲームセンターに興味を示す。
「あれなんかいいんじゃないですか?」
彼の意外なチョイスに、私は驚く。
「奏くんってゲームとかするの?」
「いえ、全く」
「ならなんでゲーセン?」
「それは、なんとなく?」
お尻に疑問符をつけながら答える奏くんだけど、確かにここら辺で時間を潰せる場所と言ったらゲーセンぐらいしかない。
私もあんまりゲームをするわけじゃないけど、奏くんもしないなら初心者同士、そこそこいい勝負もできそうだし、なんだかんだで楽しそうではあるかな。
「よし、それじゃあゲーセンに行こー!」
意気揚々と右腕をあげ、テンション高く私たちはゲーセンに向かう。ゲーセンに到着した私たちは、まず初めに、入り口付近に置かれているクレーンゲームコーナを見て回ることにした。
「真由先輩は欲しいものとかありますか?」
「欲しいものかぁ」
クレームゲームの商品を適当に物色するけど、これといって欲しいものはない。もしかしてだけど、奏くんは私の欲しい景品を取って、かっこいいところを見せようとしてくれてるのかな?
なにそれ可愛い。でも、欲しいものなんて本当にないしな……。
それに、ここで大きなぬいぐるみが欲しいなんて言ったら、ゲーム初心者である奏くんの財布が痩せ細ることになると思うし……。
でも、欲しいものがないというのも、それはそれで興ざめなわけで……。
気を使える先輩である私は、一番取るのが簡単そうな、大きい筒状の缶に入れられたポテチが景品のクレーンゲームの前で足を止める。
「あ、これが欲しいな」
缶のポテチを見ながら言うと、奏くんは訝しげに。
「こんなのが欲しいんですか?」
ゴミを見るような目で景品を見つめる。
確かに女子高生がクレーンゲームでポテチを欲しがるのはおかしいと思うけど、もうちょっと言い方があるでしょ!
てか、別に欲しくないし。奏くんに気を遣って取りやすそうなのを選んだだけだし!
全く、奏くんの顔を立ててあげようって先輩の心意気を、もう少し汲んで欲しいものだよ。
私は奏くんに呆れつつも、彼のクレーンゲームの腕前を確かめる。
「奏くんはクレームゲームに自信があるの?」
「いえ、やったことはありません。でも、このアームで景品を掴むだけでしょう?」
だいぶクレーンゲームを舐めている奏くん。確かに一見簡単そうに見えるけど、物によってはアームの力が弱いし、結構難しいんだよ。
まあ、お手並み拝見といきますか。私はなにも言わず、奏くんがプレイする姿を見学しとく。
財布から百円を取り出し台に入れると、ジッと缶とにらめっこをして、慎重にボタンを押す。
スーとアームが動き出し、そして、缶を掴む! と思っていたら、普通に軸がズレてたのか、アームが景品に掠りすらしなかった。
まあ一回目だし、最初はね……。そう思って寛容に見ていたけど、何回やっても奏くんは景品を掴むことすらできなかった。
なんだか焦れったい気持ちとイライラする気持ちが沸いてきて、奏くんが六回目で失敗した時、遂に私の怒りが爆発した。
「もー奏くん下手くそすぎるよ! 私のを見てて」
台の前から彼を退かすと、財布から百円を取り出して私が挑戦する。
昔一回だけやったことあるから、要領は掴めてる。このゲームは、奥行きを大切に……ここだ!
ポチッとボタンを押すと、景品のちょうど真上にアームが落ちて行き、そのまま缶を掴む。
よし! これで取れた。と思ったら、缶の出っ張りに引っかかって、縦長の缶が床に倒れこんでしまった。
「あぁ……」
さっきよりも取りづらくなってしまい、私は情けない声を漏らす。そんな私の姿を後ろで見ていた奏くんは。
「真由先輩も下手くそじゃないですか」
さっきの言い返しと言わんばかりに、私の腕前を貶してくる。
「ち、違うよ! 今のは準備運動だから」
情けない言い訳をすると、店員さんに缶の態勢を元に戻してもらい、再度挑戦する。どうやらこのクレーンゲーム、五百円入れると六回プレイできるっぽい。もうどうせ百円なんかじゃ取れないんだから、ここは五百円を入れてしまおう。
意地になり五百円を投入し、私は慎重にガラスの奥にある景品に狙いを定める。よし……位置は完璧。今度こそッ!
「いやー取れてよかったね」
「ですね。でもこれ、どう考えても赤字ですよね……」
最終的に、私たちは二千二百円と言うそこそこの値段を払って、なんとか奇跡的にポテチを確保することに成功した。
「まあまあ、無粋なことは考えないでさ。ほら、ご開帳~」
パカっと缶を開けてみると、そこには種類の異なる四種類のポテチが入ってるだけだった。しかも通常サイズの……。
「「え……」」
あまりのショボさに、驚愕の言葉がハモる。それから二人して顔を見合わせ、笑う。なんでこんなものに私たちは躍起になっていたんだと、くだらなく思うと、ものすごく笑えてきた。
確かに赤字で、中身も期待していたものとは違った。だけど私は、このお金を使ったことに後悔はない。クレーンゲームに集中していたせいか、気がつけばもうすぐ映画の上映時間だ。
「そろそろ行こっか」
私たちは邪魔くさい缶を片手にゲーセンを後にすると、館内に向かう。
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