第13話真面目バカ
次に私たちが向かったのは、ちょうど近くにあった古着屋さんだ。ここなら面白い服装もあるし、十分楽しめると思ったから。
店内に入ると、古着屋特有の匂いがして、ちょっとだけテンションが上がる。
「ほら見て! これなんてどうかな」
私は古着屋に入ると、真っ先にカウボーイみたいな西洋風の服装を指差して言ってみる。
完全に悪ふざけで言ってみたんだけど、奏くんは戸惑いのような表情を見せると、
「真由先輩はあれがオシャレだと感じるんですか?」
私の感性を馬鹿にしてきた。
よりにもよって、英文字が表記されたシャツなんか着てきた奏くんに感性を馬鹿にされるなんて、屈辱的だよ!
私は言い訳のように、今のは冗談だと伝える。
「いやいや、流石にオシャレだとは思ってないよ! 別に普段着とかじゃなくてさ、記念としてなんか欲しくない?」
今のは悪ふざけだと伝えつつも、私と奏くんは、適当にあれがいいとかこれが可愛いとか言って、ちょっとだけ変わった服を選ぶ。結局私は、変なおへそが出てる昔のギャルみたいな服を買って、奏くんはよくわからないおじさんがプリントアウトされた服を買った。
本当に、誰が見てもゴミだと思うようなものを買ったけど、私としては大満足だ。手に持った奇抜な服が入っている紙袋をキラキラした目で見てると、奏くんはお腹を抑えながら。
「そろそろお腹が空きましたね」
近くにある飲食店を見ながら呟くように言ってきて、確かに何かお腹には入れたいなと思う。
「奏くんは何食べたいとかある?」
「そうですね。強いていえば和風系ですかね」
「和風系?」
「はい。天ぷらとか天丼とか」
「あーなるほど! じゃあ近くにある天丼屋さんに行こっか」
私は携帯で近くの天丼屋さんを調べると、早速二人で向かった。
古着屋から十分弱で到着した天丼屋さんに入ると、私たちはメニューの左上に大きく載ってる、オススメ丼を注文する。
注文して荷物を置くと、特に意味もなく雑談のつもりで話しかける。
「そういえばさ。奏くんは友達とこう言った場所に来たりはしないの?」
なんとなく分かってる質問をしてみると、奏くんは思った通りの返しをくれる。
「ないですね。そもそも友達がいないんで」
清々しいほどの自虐を聞いて、内心笑う。彼の振り切った自虐を聞くのが、私は結構好きなのだ。
「わあ。なんとも反応に困る返しだ。学校で友達欲しいなーとか思わないの?」
「思いません。そもそも学校は勉強する場所であって、遊ぶ場所ではないので」
高校一年生にしては悲しすぎる思考をしている奏くん。そんな彼に、私は同情せざるおえない。この子はお父さんに勉強を強要され続けちゃったせいで、少々こり固まった考え方をしている。
私の先輩としての役目は、こんな間違った考えの後輩を、正しい道に導いてあげることなんじゃないかと、お節介なことを思う。
「奏くんはさ、もしかして学校って勉強をする場所だと思ってる?」
私が聞くと、奏くんは何を当たり前のことをと言わんばかりに首をかしげる。
「そんなの当たり前じゃないですか。逆に、それ以外何があるんですか?」
いかにも自分の考えが正しいと信じて疑ってない奏くん。だから私は、いじわるのつもりで痛いところを突いてみる。
「でもさ、勉強なんてわざわざ学校に行かなくても出来ることない? 高い授業料を払ってまで学校に行くより、参考書を買ったり、塾に通った方がよっぽど勉強できると思うんだけど」
私が言ってやると、奏くんは言葉を詰まらせる。だから、彼が何かを言う前に、私は追撃のように自分なりの学校という場所へ行く意味の解釈を伝える。
「思うにさ、私は学校って他人との協調性を育む場所だと思うんだよね」
「協調性……ですか?」
「うん。あの狭い教室の中、一年間って短い時間を通して色々な行事をして絆を深めるって、学生のうちにしかできないじゃん? あの場所で、同年代の人たちと日常を送るってのはさ、学生の特権なわけで、私は勉強なんかよりも、よっぽどそっちの方が大切だと思うんだよね」
言ってて、どの口が言ってんだと思う。他人と関わるのを避け続けて、学校に友達がいないのは私も一緒だ。しかも私の場合、関わると過去のトラウマが発症するから、関われない。奏くんなんかよりも、よっぽど重症だ。けど、奏くんには私の過去のことを話してないし、今はまだ、頼れる先輩って風を装っておこう。
私が偉そうに講釈を垂れてみると、奏くんは納得して。
「確かに、今が貴重な時間なことはわかりました……」
考えを改めたのか、反論せずに私の意見を飲み込んでくれる。
それから何かを考えるように塾考すると、照れてるのかほんのり顔を赤らめ。
「あの、友達ってどうやって作るんですか?」
なんてことを真剣に聞いてくるので、思わず吹き出しそうになる。
なんだその質問! 友達の作り方って人に聞くもんじゃなくない!?
思わずいつもの癖でからかいそうになるけど、後輩がいつになく真剣に相談してくれたんだ。
真面目に応えてあげるのが筋だろう。私は奏くんが納得できるような答えを模索し、彼に授ける。
「ん~やっぱり笑顔じゃない? 笑ってればさ、意外とみんな、いい顔してくれるんだよね」
私の人生の処世術を彼に教えるけど、奏くんは。
「笑顔ですか……」
難しい表情をする。確かに奏くんはずっと無愛想で、あんまり表情を変えない子だからな。そういえば、まだ私は奏くんが笑ってる顔を見たことがないかも……。
ちょっとだけ興味あるな。
奏くんの笑顔が気になった私は、早速笑顔の強要をする。
「よし! じゃあ奏くんも笑ってみよう。私が合格の笑顔を出せるまで、ご飯食べちゃダメだよ」
理不尽なセリフを吐いてみると、奏くんはいい反応をしてくれる。
「なんですかそれ。露骨な嫌がらせはやめてください」
「嫌がらせじゃないよ。私は奏くんに友達ができたらいいなって言う、親切心から笑顔を強要させてあげてるんだよ」
「強要させてあげてるって、ひどい日本語ですね……」
「まあまあ、とりあえずほら。こうやって口角を上げてさ」
私は自分の両手の人差し指で、グニっと口角を持ち上げる。
最初は嫌がってた奏くんだったけど、私が「ほらほら~」と催促すると、いやいやながらも、ニカッと笑って見せてくれた。
その瞬間、私は「ブー」と唾を吐き出してしまった。
「あはははは! いきなりやめてよ奏くん」
顔を机に伏せ、バシバシと机を叩く私に奏くんは怒る。
「ま、真由先輩がやれっていったからやったんじゃないですか。それに、そんな笑うこともないでしょ」
「いやーごめんごめん。なんか普段とのギャップも相まって、吹き出しちゃったよ」
奏くんはよく見ればまあまあ顔が整ってる。目元まで隠れた髪の毛と、あまり動かさない表情のせいでわかりにくいけど。だけど今の一瞬だけは、顔が崩れて面白かった。
でも、これ以上刺激したら本気で怒られそうだから黙ってよ。でも、今だに先程の顔が忘れられず、私は必死に口を手で大手笑いをこらえる。
そんなとき、ちょうど店員さんが天丼を二つ持ってきてくれたので、私は笑いを誤魔化すように食べ始める。
あ、美味しい。プリプリしたエビと、タレのかかったご飯を書き込むと、自然と頬が緩む。
だけどそれは私だけなのか、ご飯を食べても奏くんはブスッと顔を歪めていた。
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