第12話デートと行ったらお洋服屋さん!

 初めて異性とデートに行くことになった。奏くんは買い物って濁してたけど、あれは確実にデートのお誘いだと思う。

 奏くんは私のことが好きなのかな?

 嬉しい反面、ちょっと困るというのが私の心境だ。


 奏くんはとってもいい子だ。私の親の話をしても、引くどころか共感してくれるし、何より話しやすい。

 あの子に対してこんな感想を抱く時点で、私も大分変わってるなって自分で思う。

 だって彼は、ちょっと屁理屈なところがあるし、中二病を患ってるし、目を合わせようとするとすぐに逸らしちゃうし、およそ人と喋ることに向いてなさすぎるんだもん。


 でも、そんな彼だからこそ、私は気兼ねなく話すことができる。

 からかう反応がいちいち面白いし、よくいる学生とは雰囲気が違うからトラウマを思い出すこともない。

 あの日の運命的な出会いには、感謝しても仕切れないなって思う。 


 だけど、私たちの関係はそれだけだ。

 自殺をしようとしたらたまたま出会って、なんだかんだちょっとだけ似ている境遇だから息が合っただけ。

 そこに恋愛感情なんてものはない。


 奏くんには申し訳ないけど、私は彼のことを恋愛対象としては見れていない。

 やっぱり過去のトラウマのせいで、男の子を恋愛的な目線で見ることができない。

 どうしても、また嫌な思いをしてしまうんじゃないかとか、嫌な気持ちにさせられるんじゃないかと思ってしまい、無意識に線引きをしてしまう。


 けど、奏くんは今まで出会ってきた男の子とは違うこともよく理解している。

 浮気なんてできないだろうし、あの子が私に危害を与えてくるとも思えない。

 人間的には本当に好きだし、ずっと付き合っていきたいとも思う。


 けど、どうしても好きという感情が生まれそうにはない。


 私がもし、奏くんから告白されたらどうするんだろう。頭の中で、いくつかシミュレーションをして考えてみる。

 あの子が人に告白する場面を想像するのは難しいけど、もしされたら私はやっぱり、ヘラって笑いながら告白を受諾するのかな。

 別に振る理由もないし、過去にもそれで付き合ったことがあるし……。


 奏くんと付き合ったからといって、現状何かが変わるとも思えない。

 多分付き合ったとしても、いつもの屋上で、相も変わらずどうでもいい話を繰り広げるだけだと思う。

 彼と付き合って何かが変わるとは思えない。でも、いくら会話を重ねたところで、あの子に恋愛感情を抱くイメージが掴めない。そもそも奏くんに限らず、今後私が誰かに恋心を抱く姿を想像することができない。 


 どんなにカッコよくても、どんなにコミュニケーション能力に長けていても、恋に溺れる未来が見えない。

 そんな気持ちで付き合っても、きっと誰も幸せにならない。だからもし、奏くんに告白されたら、私は断っちゃうかな。って、なんだか奏くんが私に恋心を抱いている前提で妄想しちゃったけど、別に奏くんは本当に買い物の用事があって、たまたま私を誘っただけって可能性も十分にある。むしろそっちの方が確立は高い気がする。だって、彼はあまり他人に興味がないようだから……。


 とりあえず明日のデートに向けて、着ていく服を選ぼう。適当にタンスを見てみると、私は服を吟味する。

 夏っぽい格好といえば、やっぱりワンピースとか? 

 でも、それはなんか気合い入れすぎというか、買い物でワンピとか恥ずかしくて嫌だ。


 あれでもないこれでもないと迷いつつ、結局ショーパンに白のシャツという、無難な服装に決めて待ち合わせ場所に向かった。

 待ち合わせである駅前の時計台に向かうと、奏くんはもうすでに到着していた。


「ごめんごめん、待った?」


 なんとなくデートで後に来た時の定型文みたいなことを言ってみると、奏くんは正直に。


「はい、でも五分ぐらいなので気にしないでください」


 全くテンプレートではない返しをしてくる。この子には常識がないのか!


「奏くん、そこは『僕も今来たところです』って言う場面だよ!」


 お説教するように常識を教えるけど、奏くんはキョトンとしたまま。


「僕は事実を言っただけなんですけど、なんでわざわざ嘘をつかないといけないんですか?」


 なんとも真面目くんなセリフを吐いてきて、呆れてしまう。


「事実とかそういうのじゃなくて、もうこれは世界の常識なんだよ! 知らないのは世界で奏くんだけ。だから今度からはきっちり覚えてね」


 親切心で教えてあげたのに、奏くんは「何言ってんだろうこの人……」とでも言いたげな、リスペクトの欠片もない目を向けてくる。


「どうせ真由先輩の中の常識でしょう? 適当なことばかり言うの、やめたほうがいいですよ」


「酷いよ奏くん! お姉さんが親切で教えてあげたんだから、そんなこと言わないでよ!」


 わざとらしく泣き真似をしてみせると、奏くんに「はいはい」と適当に流された。普通にショック。いつも通りくだらない会話を済ませると、さっそっくデートプランの話になる。


「それで、奏くんはどこに出かけたいの?」


 買い物に誘ってきた奏くんに質問してみると、彼は何も考えてないようで。


「いえ、今の所あんまり決めてないですけど……」


 自分から買い物に誘ってきたのに、ノープランだった。

 てことは、やっぱり私と二人で買い物に行きたかっただけか。この子は相変わらず可愛いなぁと思いつつも、行き先を考える。

 買い物っていっても、私だって特別買いたいものがあるわけじゃない。

 定番どころで考えると、やっぱりお洋服屋さんとかが真っ先に思い浮かぶけど……。


 考えてると、奏くんの服装が目に入ってきた。なんだかよくわからない英語の書かれた黒シャツに、暑苦しいジーパン。

 ん~ちょっとダサいな。もちろん本人にははっきりと公言しないけどさ、これはあまりにもダサすぎるよ!

 絶対に中学生の時から服買ってないでしょ。よし決めた!


「ならさ、お洋服屋さんに行こうよ」


 私が服屋に行くことを提案すると、奏くんは特に嫌そうな素ぶりを見せることなく。


「分かりました」


 一つ返事で承諾してくれる。奏くんのダサい服を整えるついでに、彼を着せ替え人形にして遊ぶのも悪くはないなと思いつつ、私たちは近場にある手頃な服屋さんに向かう。


 ここら辺には色々なお店がある。飲食店に雑貨屋さん、色々なお店であふれている。そしてもちろん、服屋さんも存在する。どこに向かおうか悩んでいると、かなり有名どころの服屋さんに目に映る。


「ちょうど良いし、あそこに入ろっか」


 私が服屋さんの方に視線を向けると、彼も頷いてついてくる。一面真っ白な内装と、微かに漂う服独特の香り。

 奏くんは見るからにこういった店に慣れてないらしく、店内に入るとキョロキョロと辺りを見渡していた。

 それじゃあ早速だけど、何を着せようかな。

 なんだかどれも面白みに欠けると言うか、地味だな。誰が来ても清潔感溢れるような服が取り揃えられてる、八十点のお店だ。


 もちろん何も悪くないんだけど、奏くんに奇抜な格好をさせて遊びたいと言う、私の嗜虐心を満たしくれる服は何処にもなかった。

 でもま、だったら当初の予定通り、彼に似合う服を見繕ってあげよう。

 多分ここにあるどれを適当に着せても、今の奏くんの服装よりかは良くなるし。


「ねぇ、これなんていいんじゃない?」


 適当に白シャツと青のデニムを手にとって、服の上から合わせてみる。私に服を合わせられた奏くんは、若干戸惑いの表情を浮かべ、目の前の服を見る。


「え? 僕の服を買うんですか? てっきり真由先輩が自分の服を選びたいのだとばかり……」


「違うよ。私は奏くんを着せ替え人形……じゃなくて、奏くんに似合う服を選んであげようと、ここに来たんだよ」


「今着せ替え人形とか言いませんでした?」


「まあまあ、細かいことはいいからさ。試着室に入ろうよ」


 手に持った服を奏くんに渡して、背中を無理やり押し試着室に向かわせる。

 ズズっと服と肌の擦れる音が聞こえてから、試着室のカーテンが開かれると、私の手渡した白シャツと青のデニムを履いた奏くんが姿を現した。白と青のコントラストが、この夏を表現しているかのような爽やかさを演出している。

 これは、清潔感がある。変にごちゃごちゃしていない、最低限の身だしなみ。男の子はこれぐらいでいいんだよ!


「おお、いいじゃん! 買っちゃいなよ」


 私が素直に褒めると、奏くんは照れながら。


「真由先輩が言うなら、買います」


 もう一度試着室のカーテンを閉めると、選んだ服を脱いで出てきた。セルフレジに向かった私と奏くんは、買った服を紙袋に入れて会計を済ませる。 

 奏くんがお財布からお金を出して会計をする姿を見て、そういえば奏くんてバイトとかしてるのかなと疑問に思う。


 なんとなくだけど、してないと思う。

 今までの私たちの会話の中で、バイトなんて単語は一度も出てきたことがないし、奏くんが接客とかをやる姿は想像できない。


「ねぇねぇ、奏くんってバイトとかしたことあるの?」


 適当に次のお店に行くまでの会話として聞いてみると、やっぱりしたことないらしい。小遣いもあまり多くはないとかで、今日は少ない貯金箱の蓋を緩めてきたとか……。

 親はお金持ちっぽいのに、奏くん自身はお金をあんまりもらってないんだなと思いつつ、私たちは次なるお店に向かう。

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