第6話あー恋がしたい!

 木漏れ日の光が顔に当たって、私は覚ましたくもない脳みそを覚ます。

 一日が始まるこの時間ほど、憂鬱なことはない。


 あぁ、今日もまた始まってしまった。

 私の朝は、絶望から始まる。別にもう、学校で嫌なことをされてるわけじゃないのに、私の心は嫌な気持ちで満たされてる。


 同級生と会う。

 それだけのことが、今の私にとっては苦痛なんだ。

 でも、もうこんな人生とはお別れだ。今日死んでやる。死んで楽になってやる。


 つもりに積もった怨嗟が、私を死へと導いてくれる。


 もう着ることが最後になるであろう制服に腕を通すと、洗面所に向かう。

 洗面所で歯ブラシを手に持つと、歯磨き粉をブラシに付け、ゴシゴシと歯を磨き、ペッと唾を吐き出して口をゆすぐ。

 口をゆすいでから顔を洗うと、洗面所の鏡に嫌いな顔面が反射する。


 私は自分の顔が嫌いだ。このパッチリとした目元も、筋の通った鼻も、大きな口元も、何もかも嫌いだ。

 こんな顔じゃなければ、私がお母さんから八つ当たりを受けることもなかったし、あの軽薄男子から告白されることもなかった。

 こんな顔のせいで、私の人生はめちゃくちゃだ。


 自分の整った醜い容姿に嫌気が差し、鏡から目を逸らす。

 一通り準備を終えた私は、カポッと両耳にイヤホンを装着して、大っ嫌いな学校へと向かう。

 

 イヤホンは良い。外の音と私を切り離してくれるから。人の喋り声、喧騒、そういった雑音から私を守ってくれる。だから音楽は好きだ。

 この世で唯一好きなことかもしれない。

 この世に後悔があるとするなら、もう好きな音楽を聴けないこと。けど、それ以上に早く、私はこの世界とお別れをしたかった。


 春から夏に移り変わるこの季節。生暖かい風が頬を撫でる。

 この通学路も今日で最後か。

 今までの嫌な記憶が、走馬灯のように思い返される。

 

 どれを取っても苦い記憶しかない人生。誰からも助けられず、どれだけ辛くても悲しみの上に笑顔を張り続ける毎日。

 もし、私にも親友と呼べるような人がいたら、私の人生は何か変わったのかな。

 それか、この人のためなら死んでも良いと思えるような、恋人がいたら……。

 もう一つだけ心残りがあるとするなら、一度でいいから好きな人を作ってみたかったなと思う。


 女子に生まれたからには、一度はそういった燃える恋がしてみたなと思う。

 けど、無理だろうな。私は他人が苦手だけど、その中でも男の人はさらに苦手だ。


 お父さんやあの軽薄男みたいな人ばかりなんじゃないかと思ってしまい、ついつい苦手意識が働く。

 けど、女の人は雅さんみたいな性悪しかいないんじゃないかとも思う。

 

 結局のところ、両方嫌いだ。男も女も、人間なんて酷い人ばかりだ。世の中の人間に不満を抱いていると、学校に到着していた。

 もう着いたのかと思いつつ、私は上履きに履き替えて自分の教室に向かう。

 教室に到着すると、イヤホンは外さずにうつ伏せになり、頬と机をくっつける。

 こうやって目を閉じて耳を塞いでいる時が、一番落ち着く。けど、担任が来たらそうもいかない。

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