あの日の記憶


「・・・・・・・・・・・・・」

音はしない。でも確かに嵐の夜だった。


海岸のはるか沖のその人は、ドウドに何かを叫んでいた。

とても穏やかな顔で、、、


次の瞬間、彼らの乗る小舟は大波にさらわれ、漆黒の海に消えていった。

、、、、、、




『ハッ!?、、、』見慣れた天井が目に映った。


「、、、、ああ、、またこの夢か」

いつもドウドはそこで目を覚ます。それ以降のことは記憶がない。


実際、彼は朝になって海岸でそのまま座り込んでいる所を身回りに出た村人に保護されている。


今の彼と同じように下を向いてうなだれた状態のまま。





兄とドウドは9つ歳の離れた兄弟だった。

自然、村の中でも人望の厚かった兄はドウドにとって自慢の兄であり、憧れの対象だった。

兄のように特別な人間に自分もなりたいと本気で思ってた。


兄が結婚してマアナが生れたとき、ドウドは自分のことのように喜んだものだ。

これまでの毎日がこれからもずっと変わらずに続くものと信じて疑わなかった。



しかしそれは、叶わなかった。


いつもの年よりも遅い嵐の夜、沖に取り残された人々を救助に行った彼らは、

ドウドの眼の前で波に消えた。


あの日兄が最後にドウドに叫んでいた言葉を、もうドウドは覚えていない。

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