episode109 : ゴスロリはさすがに目立つ
「あのさぁ、そっちにも何か事情があるのは理解したし、そのためにわざわざギルドまで移動してるわけだけども」
「そうだな。とても感謝している」
俺と八島は現在、家から徒歩でギルドまで移動している最中だ。普段はバスかタクシーは使う距離だが※(一人なら飛ぶか走る)、彼女がそれは嫌だと言うので仕方なく徒歩なのだ。
とはいえギルドまで歩けない距離では無い。
問題なのはそこではなく、
「この状態で移動する意味はあるんですかね?」
「私を知る者に見つからないよう、最大限の工夫をしているつもりだ」
「見つかる……って、何?まるで誰かから追われてるみたいな言い方だな」
「ふむ。あながち間違いでは無い」
「なんつーもんに巻き込んでんだ!ってか、それなら聞き込みなんて堂々としたマネするなよ!本末転倒じゃねぇか」
そう、彼女の話がどこまで真実か分からないまま、俺は俺の腕に抱きついて擦り寄る八島胡桃と歩いていた。
正直、かなり歩きにくい。
今日はしっかり晴れてるから暑いし、黒いワンピースは絶対暑いだろ。その手に持った小傘は飾りか。邪魔すぎるわ。
……なんか、前にもこんな状況あった気がする。
女子ってのは腕に引っ付きたくなる生き物なのか?
それをされて嬉しいのは葵からだけだ。
ちなみに賢能、尾行とかっているか。
『探知範囲内にそれらしき反応はありません。ただし、魔力的反応以外は目視になりますので、確定はできません』
まぁ、賢能の探知で気が付かないなら、それはもう対策のしようがない。
「それにしても、この辺りはやけに暑い」
「お前の担当する地域はそうでも無いのか?」
「山が多いからな。このように栄えている場所もあるが、私はあまり近づかない故」
「おいおい。自分が統治する土地くらい把握しておけよ。大丈夫かナンバーズ」
「私には優秀な部下が…………。まぁ、直接出向かずともなんとかなっていた」
こうして見ると、ナンバーズって適当なやつ多いよな。
七瀬家も、元代表の七瀬重吾がダンジョン攻略以外の仕事をしていたという情報は無い。
その時から既に、七瀬リーダーが大半を担っていたということだろう。今の彼の仕事ぶりを見ても、やはりナンバーズで最も頼れるのは七瀬リーダーなのだ。
いや、一橋兄妹も……兄の方はああ見えてしっかりしてたか。シスコンという部分が大きくマイナス点なだけで。
「……はぁ。やっと着いた」
適当な話、雑談……というか、文句?を言っていたら、俺のギルド、リベルゼーンに到着していた。
ガラス張りの自動ドアをくぐると、外気に対して涼しい風が吹き抜けた。
「ギルドマスター!お帰りなさい」
「おう。ギルドの受付は大丈夫そうか?……あと、千紗さんはいる?」
「はい!えっと、副マスターなら執務室にいらっしゃると思いますよ」
「サンキュー。……ん?副マスター?」
受付の顔見知りな女性と挨拶を交わす。そして、八島との話をするために千紗さんの居場所を聞いたところ、妙な回答が返ってきた。
このギルドに副マスターなんていなかったはずだ。
千紗さんのことなのか?
「あ、えっと……。言い出したのは私じゃないですよ!!千紗さんが、『九十九くんがしばらく帰ってこないから、ここの最高権限は私にあるのだ!』――って」
「あ、そう」
なんか、好き勝手やってるな。
任せっきりな部分もあったし、ギルドマスターとは言ってもそれらしい事は大してやってないから気にせんけど。
「千紗さんの下ってのも、大変だな」
「そんなことは無いですよ」
「目を逸らすな、目を」
無論、尊敬はしているのだろう。
しかし、真面目でありながらあの破天荒ぶりに振り回されるのは大変だと思う。あの、底なしの体力と元気には俺も嫌な思い出がある。
「こんにちは!」
「おっと、俺がここにいたら邪魔だな。仕事、頑張ってくれ」
「ありがとうございます!」
俺は軽く手を振ってその場を後にした。
その間、ずっと八島が腕にくっついていたのにスルーしてくれたのは、彼女の優しさと言うことにしておこう。
ギルドを離れていたのは数日だった。
しかし、さすがは覚醒者が求めるギルドだ。そのたった数日で、ギルドの中は知らない覚醒者で溢れていた。
セブンレータワーには劣るけれど、依頼やら換金、武器や防具を求め、覚醒者が集まっている。
こういった一般覚醒者向けの施設が揃っていたり、依頼の仲介をしてくれるギルドは少ないから、集まるのも当然と言えば当然だろう。
しかし、だ。これも千紗さんや七瀬リーダーなど、周囲の人たちのおかげである。
そもそも俺自身が誰かに助けられて生きてる存在だ。
雑なギルドマスターだと言うのに、本当に助かっている。
「君は随分慕われているな」
「そうか?まだギルドを立ち上げてからそんなに時間が経ってないし、顔見知りが多いってだけだろ。現に、今ギルドメンバーが増えてるかどうかも把握してない」
「それでも、だ。……私のギルドには、私に話しかけてくる者などいなかった」
彼女のポツリと呟いた言葉には、どこか寂しさが込められていた。
それよりも、なんかこの案件、重たい雰囲気がしないか?
「さて、ここが執務室なわけだけど……。千紗さんいるか?入るぞ」
「えっ?!九十九くん?!もう帰ってきたの?ちょ、ちょっと待って!今、いや、少しだけ時間をっ」
「はいはい失礼しますよっと。…………うわ」
中からの騒がしい訴えを無視し、俺は扉を開けた。
そして、順調に引いた。
「うぅ、九十九君の残念な視線が痛い!せめてフリーズしないで何か言って!」
「えっと、好き勝手やってたみたいで楽しかったか。
「げ……っ、な、なんでそれを」
「まぁいいや。それより少し話がしたい。早急に片付けてくれ」
俺はツッコミを入れる気力も薄れ、本題に入るべく部屋の片付けを要求した。
――変わり果てた執務室が元の姿に戻ったのは、僅か10分後のことである。
「千紗さんってあれなのか。スペック高いし優秀だけど、暴走するとポンコツになるタイプの人?」
「あ、あれは……その、忘れて欲しいな!」
「いや、人の執務室をあんだけ散らかしておいて、忘れろってのは無理な話だぞ。でもなんだ、良かったな赤崎さんが一緒じゃなくて」
「あ、あのぉ……テンちゃんには内緒でお願いしますっ」
「わざわざ告げ口なんてしないって。ただ、散らかすなら自分の部屋でやってくれ」
「あぅ、すみませんでした」
しょんぼりしょぼくれる千紗さん。
そしてふと、俺の背後に目をやって、驚いたような、焦るような、目を丸くするという表現が正しいか。
とにかく、たいそう面白い表情の彼女を拝むことが出来た。
「そ、そこにいるのって」
「そうだった。すっかり本題を忘れてた。ちょいとこいつの相談に乗ってやろうと……」
「……何しに来たんですか。私は言ったはずです。――
しかし、その面白い表情も束の間、鋭い目付きで彼女へと怒号を浴びせる。
こんなに怒る千紗さんも珍しい。
「正確には、"ギルドマスターには"だったはずだ。だから私は、"九十九涼"という個人に頼み事をしたまで。ここに来たのは彼の提案故、君の意見に背いたわけではない」
「屁理屈ですよ!!九十九くんっ!なんでその方と?」
ん?これ……、何かまずい予感がする。
具体的には、彼女の善意を無駄にした感じの。
「俺の家の前に座り込んで待ってた。なに?どういう事?八島、お前、何に巻き込んだ?」
「事情は知らないんですね……。帰ってきたばかりの九十九くんを狙うなんて、最低ですよ」
「あれは偶然だ。家主が留守だと知らんかった」
睨み合う二人。
間に挟まる何も知らない俺。
言い争うなら俺のいない所でやってくれません?
「良いですか九十九くん。よく聞いてください。彼女は八島胡桃。ナンバーズ八島家の代表であり――当主の座を奪われた逃亡者です」
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