episode102 : 黄金の試練 前編

【――ゾディアック・エンチャンターLv???――】


 相手は最強の防御持ち。

 とにかく相手を撹乱して、意識を逸らすことだけに集中しろ。守る対象である真衣が俺にくっついているから、無理に前には出るなよ。

 従魔たちの動きをよく見て、敵を観察しろ……。


「――狐火・地獄炎!!」

「――速射ラピットファイア


 マキナとハクは一緒に行動している。

 同じ方向となれば俺がすべきは、


――飛翔加速&風切


「クダラナイ。ドコカラ攻撃シテモ、私ニハ届カナイ」


 余裕そうな表情で攻撃を防ぎきっているが、構わずに攻撃を続ける。


――ウィンドインパルス


 防御結界の範囲を調べるためクルーが頭上から魔法を放つ。しかし、同じように敵にあたる直前で弾かれてしまう。

 結界は、奴を中心に半球の領域みたいだな。


「目障リナ攻撃デス。落チナサイ――アビスサンダーレイ」

「メタ!――武具変形"大盾"、魔法誘導!!」


 名を呼びながら左手を横に伸ばす。器用に変身して手に収まったメタを掲げて、魔法で生み出された黒雲から放たれる複数の雷をメタに集めて防ぐ。

 その隙に足を踏みつけて影を伸ばし、


――影咲貫シャドウレート


「視エテイル」


 正面からの攻撃じゃ、簡単に避けられてしまう。というか、なんだあの素早い動きは。魔法使いタイプは素早さが遅くあるべきでは?

 ……あー、この領域まで来ると変わらんか。


「……後ろ、から…………は?」

「指示したいとこだがな。俺が誘導させているとはいえ、この規模の魔法の中を背中側に移動は危険だ。俺より後ろにいてもらわんと、防ぎきれない」

「ふん。この程度我は避けられる」


――誘導射撃


 一度後ろへ下がったマキナが、俺の横を抜けて敵へ突っ込む。落ちてくる雷を華麗なステップで避けながら、さらに器用に雷を避ける弾丸を撃つ。

 死角からの一撃にはなったものの、いとも簡単に避けられてしまう。それが当たるのなら苦労はしていない。


「案外シブトイナ。私ノ機嫌ガ良イウチニ捕マルガイイ」

「嫌だね」


――メテオフォール

――絶対零度アブソリュートゼロ


 相手の攻撃が止んだ直後を狙って大技を放つも、圧倒的な結界を突破するには至らない。動かずに対処できるのはズルいって。


 文句のひとつも言いたくなる鉄壁具合。いっそ直接殴りに行きたいが、結界の反撃があるかも分からない状態では危険すぎる。

 ルナの準備が整うまで、もう少し時間を……


「――!!」


 その時、姿の見えないルナから準備完了のサインが出た。どうやって?そんなの、こっそり俺の肩を叩いただけだが。

 こういうのは難しいことしなくていいのよ。


「第一段階ももうひと踏ん張りだ」


 ルナの気配を悟らせぬよう、俺たちは今以上に大きく振る舞う。簡単な話、大技ぶっぱ案件。


――影咲貫シャドウレート

 etc…


 もはや何度目か分からない大技のオンパレードに、闘技場らしき二階が爆風と爆音であーもうめちゃくちゃだよ。

 各々が今持てる最大火力を敵に放った。黒い煙のせいで直接確認は出来ないが、まだ死んでいないことだけは分かる。


「何度言エバ分カル。ドンナ攻撃モ、私ニハ通用シナイト何故理解デキナイ。コノ絶対的ナ結界ノ前ニハ――

「殺れ」


――空間断絶


 言葉の直後、空間が歪む。

 瞬きの間に絶対的な矛と盾がぶつかり合う。


「――ナニッ?!」


 奴が驚くのも無理は無い。今まで直前で消えていた攻撃が、結界を貫通して己の肉体に傷を負わせようと迫ってきているのだから。


「貴様モ空間ヲ」


 ルナの巨大な鎌が、今にも結界を破壊せんと牙を突き立てる。空間の激しい奪い合いに、火花に似た白い光が飛び散っているのがわかる。


 空間の拮抗。しかしそれは、徐々に


「……クッ、ソノ力、一体ドコデ」


 押されているのは盾の方だった。喰い込んでいく牙に結界は少しづつ悲鳴をあげ、次第にヒビが入る。押されていることを理解した敵は、怒りの表情で結界を捨てた。


「――雷光ノ裁断」


 掲げた杖が黒雲を呼び、ルナの鎌目掛けて一筋の雷がほとばしる。光が爆発したと錯覚する、強力な一撃。杖の輝きとともに、連続で雷が落ちる。


「結界ノ勝負ハ私ノ負ケダ。シカシ、魔法ノ腕ハ私ガ

「後ろががら空きだ――急所突」


 ルナに気を取られている隙に、接近していた俺は敵の背中に刃を突き刺した。体内の魔石を貫く感触まで伝わってくる。


「……キ、サマ…………ナ、ゼ……」

「最強の結界、ね。そりゃ最強だろうよ。結界なんだから。お前、防御してる間は攻撃出来ないんだろ?」

「知ッテ、イタノカ」

「いいや。簡単な推測だ。お前が動いていない時は結界で護られてたのに、そっちが攻撃してる時の俺らの攻撃は避けてた。なら攻撃してる最中はこっちの攻撃も通用するだろう……ってな」


 そんな推理も、ルナが結界を破ったことで関係なくなったけど。こちらへの意識を削いでくれたルナには感謝だ。


「魔石は破壊した。お前の負けだ」


 短剣を引き抜いて、俺は1歩後ろへ下がる。魔石は人間で言う心臓に近い。破壊されたら消滅する。


「……フ、フフフ。負ケ、デスカ。エェ負ケデス、ノ」


 不気味な笑み。死ぬはずなのに輝き始める杖。


「シカシ、の勝チデハアリマセン魔王。サヨウナラ――

「しま――っ」


 転移の対象が俺だと分かった時には、既に俺は光の中へ消え去っていた。


ーーーーーーーーーーーーーー


「くっそ、油断した。魔石が消えても数秒は動けるんだなあいつら。腕も切り落としておけば良かった」

「ん。頭、が……」

「大丈夫か真衣。強制転移は飛ぶ側の体への負担が大きいらしい。意識が飛ばなかっただけ成長したってことだ」


 転移時の魔力に慣れた、というより耐性がついた。どうせ耐性を得るなら魔力ではなく転移そのものに抵抗して欲しかったが、それを望むのは強欲だろう。

 二人バラバラにならなかった運の良さも考えれば、この状況が悪いことばかりとは言いきれない。


「……なにより、こんな場所で眠ってたら食い殺されてただろうし」


 頭痛を訴える真衣を支えて、俺は部屋をぐるりと睨みつけた。転移した先は魔物の巣窟。ライオンに似たキメラが俺たちを取り囲んでいる。

 奥には鉄格子の扉らしき穴も見える。人の姿はないから、単純に飼育部屋か何かだろう。完全に罠にハマった形だ。


「にぃ……」

「安心しろって。この程度の魔物、俺の相手じゃない」


【――サンダーレオンLv200――】


 俺の視界に見えているのは、賢能様のありがたき鑑定結果。レベル200はかなり高い。俺の威圧にも屈しないから、耐性面も優秀とみた。


 そこまで聞くと相当厳しいように感じるかもしれんが、残念。俺はもうそのレベルにはいないんだ。


【――九十九涼Lv268(魔物使い)――】

『HP/6700 MP/5600

 STR +640(+10)

 VIT +460

 DEF +425

 RES +400

 INT +485

 AGI +580(+20)


 《スキル》

 疾走Lv7 土魔法Lv10 賢能Lv15 威圧Lv8

 影咲貫Lv2 風切Lv5

 飛翔加速Lv3 自然回復Lv3

 不屈の精神Lv2 料理上手

 影渡りLv9 急所突Lv10 エンドカウンターLv1

 領域保存 自動保存

 従魔の誓い 従魔召喚 従魔強化


 《称号》

 強者への報い 相手のレベルが高いほどステータス上昇

 強者への挑戦 全ダメージ+50%

 初めての回帰 STR+10

 聖樹の加護 受ける物理ダメージ-10%

 低層の覇者 AGI+20

 魔物ハンター 魔物に対し全ステータスが二倍

 再召喚の恩恵 再召喚を行った従魔の能力値上昇

 悪魔殺し MP+1000 悪魔系の敵に対しダメージが2倍

 憤怒の精神 一日に1度だけ、不屈の精神発動時にHPを全回復させる

 神への反逆 神の魔力を有する者との対峙の際、AGIとSTRが+100%


 《耐性》

 状態異常耐性Lv8

 恐怖耐性Lv8

 闇耐性Lv3』


 これが今の俺のステータス。

 従魔たちと比べると劣る部分が目立つかもしれないが、たかがダンジョンの魔物ごときに遅れは取らない。こいつを守りながら、――約束を守れるだけの能力ちからを持っている。


「えと、……仲間は、よばない、の?」

「あいつらのことか。再召喚すれば喚び出せると思うけど、あっちがどんな状況だか分からないからな。下手に喚び出すのは辞めておく」


 それに、その場合ハクがあっちで取り残されることになる。あいつ、なぜだか俺の異空間に入れないんだよな。たぶん、再召喚してもあいつだけ移動できない。

 ダンジョン内で一人きりは危険だし、アイツらのことだ。言われずとも俺らを探してくれているはず。


「俺を信じておけ。指一本も触れさせはしないから」

「……ん。信じる」


 俺の手をしっかり握って、強い信頼の証に頷く。その姿がどこか葵と重なって……俄然やる気が漲ってくる。


「……っと、そうだ。念の為、護身用にこれを渡しておこう」


 ふと思い出したように、俺はインベントリからとあるアイテムを取り出した。先端に美しい鉱石がついた、1本の杖。


 アイテム名――クリスタルの杖


「過去、それの餌食になった可哀想なボスがいたとか。くっそ最強の杖なんだよそれ。俺の保証付き」

「でも、私、いま魔法は……」

「それに関しては大丈夫だから。とりあえず、困ったらこう唱えるんだ。――ってさ」

「……ん、わかった」


 なんで初めに渡さなかったのかと問われれば、……完全に忘れてたとかそういう訳では無いが、――では何故今なのかと問われたら、さっきあいつの杖を見て思い出しただけ……なんて、な。

 もちろん、使う機会なんて来ないから。ただの気休め、お守り代わりってやつ。


「……い、一応、さ。下手に使うと俺らが危ないから、そこだけ……その、注意しておいて?」

「わ、わかった」

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