episode96 : 裏の裏は表

「それじゃ、説明してもらうよ」

「えっ、今?この状態で?」

「何か問題でも?」


 昼間の件について、一橋零から説明を求められる。そのために集まったようなものだから、そこに対しての不満は無い。


 けど、この状態で話し始めて良いものかと悩む。


「普通さ、もっと会議室とか、厳粛な雰囲気があると思うんだわ」

「お前の厳粛なんて知らない。僕達は忙しいんだ早く説明してくれ」

「いやまぁ、そっちが良いなら気にしないけども」


 やりにくいなぁ。何せ、未だ両手には美少女の手のひらが握られていて、腹の上ではハクが寝ている。


 起きるまで待つのかと思ったら、そんな事は1ミリも気にしないらしい。……片割れが寝てるのはいいのかよ。


「俺たちはアウトブレイクの件でここに来た。たぶん睦美から連絡はされてるんだろ?」

「あぁ。でも、お前が来る理由を聞いていない」

「話し合いの時に相談しようと思ってたからな。探し物がダンジョン内にあるかもしれないんだ。んで、可能性が高いのがアウトブレイクで発生したダンジョン」


 俺はだいぶ簡略化して睦美に話した内容と同じことを伝える。


「そっちの事情は理解した。攻略に協力してくれるなら僕らも助かる。今は人手不足だから」

「人手不足?」

「いや、こちらの問題だ。……で、その話とさっきの奇襲になんの関係が?」

「アウトブレイク時に魔物がダンジョン内から外に出てくるのは知ってるよな」

「もちろん。何度か対処したことがある」


――奴ら、もとい大魔法の使用者がそこから出てきた奴らの可能性がある。そんな内容を伝えた。


 真実はこの逆、こちらのがダンジョンをした――なのだが、もう手遅れだとすれば別に嘘をついてはいない。


 襲ってきたのが天使だった件は……、まぁ言い訳はなんとでもなるか。


「お前が襲われたのは、そのってやつが原因か」

「たぶんな。俺たちをどうやって見つけたのかは分からないが」

「あんな非常識な大魔法を使える相手だ。探索能力の一つや二つ持っているだろう」


 そうだとしても、俺たちがあの道路を使うかどうかは運だったはず。少なくとも相手には分からない。


 そして、別の選択肢だった場合、全てを探知できる魔法を俺は知らない。存在する能力は未知数だし、あっても不思議じゃないが。


「重要なのはそこじゃない。たかがダンジョンの魔物如きが探知に奇襲なんて、そんななことをする方が疑問だ」

「まぁ……たしかに」


 今までの神とは間違いなく違う。

 けど、かなり低次元とはいえゴブリンなんかも知能はあった。意図的に集団で襲ってくる魔物も多く見てきた。


 今更奇襲程度で驚くことでも無い気が……


「お前、驚きすぎだと考えてるだろ」

「読心術でも使えるのか?」

「ふん。そのバカにした顔を見れば分かる」

「……そんな顔してたかな」

「少しは バカにしてた部分を否定しろよ!!」


 いやいや。バカになんてしてない。

 真剣な話の最中ぞ?ただ疑問に思っただけ。


「いいか。知能があればあるほど、ダンジョンの外未知の領域には出てこない。出てきたとして、探索に奇襲なんてことを目的にはしないはずなんだよ」

「…………へぇ」

「またバカにしたな!!」


 俺は笑って流したが、――正直ここまで鋭いとは思わなかった。やるな、一橋兄。


 まぁ、この歳で代表になるくらいだから、当然とはいえば当然だが。


「今までにない現象ばかりだ。襲われた理由もその……資格?だけとは限らない」

「それもそうだ。だが、そのための攻略なんだろ?」

「あぁ。理由がなんであれ魔物が外に出てきたのは事実。僕たちの統治する土地で街の人を危険に晒すことは出来ない」


 お、おぉ……。

 やっぱり、今日はこいつに驚かされてばかりだな。初めて会った時の印象とは大きく違う。

 これは、あの生意気クソガキの印象を改めねばなるまい。しっかり代表してるわ。


「しかし会議は明日。攻略は明後日だ。お前は明日何をしてるんだ。お前の出席は許されてないぞ」

「え?特に決めてないな。会議に出席するつもりは元から無いし、せっかくだから適当にぶらついてみようかと」

「……そうか。だったら、特別に真衣を同行させてやる」

「いいよ別に。ってか、代表が出席しないのはまずいだろ」

「真衣は会議には出席させない。――寝ちゃうからな」

「…………はい?」


 おいおい。聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。

 ナンバーズの会議中に……寝る?マジ?


「こればかりは僕も弁護できない。昔から頭を使うのは得意ではなかったんだけど、まさかあそこまでなんて。少し前から、こう言った難しい話の時は僕だけが出席している」

「……その間の子守りって訳だ」

「僕らは二人で一人。片方が欠けると何も出来ないんだ。守ってあげてくれ」


 俺は左手を握る一橋妹を見る。

 確かに、起きる気配が全くない。


「しかしなんだ。大事な妹を俺に預けていいのか?」

「し、仕方ないだろ!!一人にしてると……僕が心配なんだよ。それに、真衣が僕以外にここまで気を許す相手は珍しい」


 俺、懐かれてんの?

 なぜに。……あぁ、俺も妹がいるから、なんというか兄の心に共鳴したとか?だったら結構嬉しいぞ。


「明日は15時には会議が終わる。それまでだ」

「案内役がいるならまぁ、いいか。その取引乗った」


 もはやクソガキの様子は一欠片もなく、ただ良き兄で、まともな代表だ。大事な妹を託されたのなら、俺は全力を以て護るのみ。


「明日の予定が決まったところで……、その、そろそろ手を離してもらってもいいですかね?この体勢結構キツイ……」

「僕の妹に不満でも?僕ですら貴重な妹の!添い寝に!?」

「添い寝って……、頼んだ覚えは――」

「はぁ?!?!お前、僕の妹に握られて幸せではないと?!」

「な、なんかお前キャラ違うね?!」


 どこか――既視感を感じる。

 いたよな、妹(他人の)にやたら食いつく変人シスコン。俺?いやいや。俺はただ妹が大切なだけだから。


 横で兄に睨みつけられ危うく殴られそうな状況は、一橋妹が起きるまで続いたのだった。


――俺、一応怪我人なんだけど……な。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


――???視点――


「……そうか。のはアキネの部隊か」

「はい。遠方より見守っていた仲間が、全滅の瞬間を確認したと」

「彼らを失ったのは辛いが、得られたものは大きい。あの魔法を防いだのは大したものだな」

「如何しましょう」

「散った部隊を戻すのだ。――じきに奴がここへ来る」

「かしこまりました」


 ここは砂漠の玉座。

 巨大なピラミッドの最奥で、黄金に着飾った玉座の上に足を組む一人の男。


「アハトが死んだ。あれだけ単独で行動するなと忠告していたにも関わらず。馬鹿なやつだ」


 グラスを片手に入り口の一点を見つめている。


「策は講じた。やつは私の用意したに自ら飛び込む事になる。油断も余裕も、――強者の特権。特権を害する者には――ここで、死んでもらう」


 ゴクリと、グラスの中の液体を飲み干す。

 濡れた口元が妖艶な笑みを彩る。


 光を反射したグラスに反射した彼の顔は、笑う顔とは別の――が映し出されていた。

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