episode94 : 戦略上手
ヒントはシンシアの一言。
最低でも
浮遊する立方体が立方体を作るための点だとすると、どこかにもうひとつ存在することになる。
ならばそれはどこにあるか。
答えは――
「お前の中だな?クソ天使!!」
――急所突
俺は結界に守られた数体の天使のうち、中央で動く天使の背中を突き刺した。当然結界で防がれるが……
「彼女ですね?確かに、心臓の辺りから同じ気配を感じます」
――一閃断絶
俺を利用して死角から飛び出した詩佳が、周りの天使の隙間を抜けて胸を貫いた。
「うっ…………、な、ぜ」
「分かりやすいんだわ。お前らの動き」
剣を引き抜いた身体から、宙に浮かぶ立方体と同じ輝きを確認。守る為の仕掛けを身体の中に施すとか……、イカれてる。天使よりもマッドサイエンティストの方がお似合いだ。
「九十九さん、これは?」
「放置してれば消えるはずだ。自由に動けても所詮は魔法なんだ。術者が死ねば終わり」
「ですが、まだ残っています」
「あぁ、それは……、――シンシア」
天使は神と同じく、身体は依代に過ぎない。
本体は――魂。
「――
単純な疑問だけど、魂を消滅させるのに
『解答。実態を保てない魂は、一定時間依代を得られないと消滅します』
へー、それで封印ね。シンシアでも魂を直接滅ぼすのは無理なのか。
ってか、結局魂ってのは何?
人間にも存在するんだろうか。本の中の話じゃなかった説。
『……、戦いはまだ終わっていませんよ』
――風切
思考に耽る俺へ、天使が二体迫る。
振り向きざまに腕を振って一体を半分に切断し、背後から迫る細剣を下から蹴り飛ばす。
「言ったろ?動きが分かりやすいって」
ただ死角から接近するなんて、馬鹿でも考えつく。
「物量で押すには自身の力を過信しすぎなんだよ」
――疾走
物量で押すというのは、相手の適切な実力を評価した上で、連携などの一人では生まれない能力の差をぶつけること。
複数で同時に攻撃すればいいなんて単純な作戦じゃない。
「やつを止めろ!!――光武・雷」
「はい!合わせます――光武・翠緑」
――そして、突発的な連携では、俺らに刃は届かない。
空中をほとばしる、光で形作られた雷と鮮やかな緑のツル。……光魔法の一種だろうか。ちょっと綺麗で良き。
――水晶壁
地面から生やした壁で受け切り、さらに壁越しに影を震わせる。
――
お返しに美しい影の花を咲かせてあげた。目の前で仲間が半分になり、黒い花が咲く瞬間を見た天使は、声にならない悲鳴を上げてその場に座り込んだ。
「キュアアァァァ!!」
――絶対零度
そこへ容赦なく降り注ぐ氷ブレス。
「ホムラ。良くやったな」
撫でて欲しいのか、目の前で頭を下げるもんだから、ついつい頭に手を伸ばす。褒めて伸ばすのも大事なこと。
「キュゥ?」
可愛い顔で喜んでいたホムラだったが、ふと後ろに視線を向けて疑問の鳴き声を上げる。小さく首を傾げるのも……可愛い。
「おっと、なんだ?」
ホムラの見つめる先へ視線を動かすと、道路上で戦っていた天使たちが空へと逃げていく。
戦意喪失?――アホくさ。
「逃がすわけないだろ。仕掛けてきたのはそっちなんだから。ベクター、クルー、ホムラ。合わせてくれ」
空中で敵に背を向けるその行為は、殺してくれと叫んでいるのと変わらない。動く的だ。
――風切
――煉獄閻魔
――ウィンドインパルス×2
空を切る斬撃を先頭に、獄炎を纏う風刃の嵐が逃げる天使たちを飲み込む。ハクたちのバフによって射程距離も数倍に伸びている。
遥か彼方まで飲み込んで、圧倒的な火力は天まで伸びて消えていった。
「やっぱり、天使って弱いのか」
「お主が強すぎるだけじゃと思うぞ」
「キュウビ、貴様は覚えていないのか?」
「…………何をじゃ?」
「天使にも階級がある事を、ですよ。ハクさん。今のあの者達は、階級的には中位程度です」
天使にも、覚醒者みたいな等級があるんだな。
実力が分かりやすいからなんだろうけど、……俺はその制度はあまり気に入らない。
「つまり、もっと強いやつがいるってことか。この襲撃は様子見なのか……それとも別の意図が」
――ドクッ
思考が止まり、心臓が跳ねる。
……この感覚は、何度か経験がある。
――魔力の波動。それも、鳥肌が立つほど強力な。
こちらを威圧するような魔力の風が、全ての行動を一瞬止める。……しかし、その危機的状況に体が自然と動いていた。
これは――
「纏めて吹き飛ばす気か!?」
身を震わせるような魔法。
くっそ。アイツらは
「メタ!!――武具変形"大盾"」
――水晶壁
メタを頭上に掲げ、それを拡張するように水晶を纏わせる。メタに魔法は無効だが、メタを対象にした魔法でなければ消えはしない。
「マキナ、この範囲いけるか?!」
「誰にモノを言っている」
――反射板
魔法を無効化するメタに加えて反射させる付与を水晶に施し、直径十数メートルにも及ぶ巨大な盾が完成する。
支える俺にも限度があるが、持ちこたえてみせる。
しかし、全員を防ぎ切るには魔法が大規模すぎる。
「メタ、もう少しだけ力を貸してくれ」
レベルアップで従魔たちも新たな能力を覚えた。
その中で、メタが獲得した2つの能力。
――挑発Lv1
――魔法誘導Lv2
相手の意識をメタにズラし、さらに放たれる魔法を自身に引きつける。反射板にも耐久がある以上、できる限り無効化させなければ。
「お前ら、絶対に顔を出すな……っ。
「主、妾も結界を準備しておくのじゃ」
「…………頼む」
病院で使ったハクの結界なら、あれも防げるだろう。しかし、あの時は準備にかなりの時間を費やした。
……間に合わないな。
不幸中の幸いなのは、先程の天使との戦闘で一般人の避難が完了している点。守る対象が少ないのはこちらの負担も減る。
――賢能、セーブっていつしたっけ?
『解答。およそ3時間前、車へ乗り込んだ時に』
…………良かった。最悪の場合の保険がある。
――それで、防げると思うか?あれ。
『神聖大魔法――
ぶっ壊れ魔法でた。たまにある、ボスが使ってくる超強力な最終奥義。
対策は発動される前に弱点破壊とか、要はこの場合、――発動された時点で負け、か。
………………はぁ。アホくさ。
せめて姿くらい見せろよカス。
「……いいさ、今回は
ボソッと天に吐き捨てて、次は倒すと豪語する。
――もう諦めないって、約束したからな。
それに、神特有の舐めプの無い、中身のある
死ぬならまぁ、このくらい圧倒的な方が燃えるってモノよ。
『解答。最強ではありますが、防ぐ術はあります。――まだ死にません』
……はい?
『魔法に対抗する手段があります。魔法そのものを正面から破壊すれば、防ぐことも可能です』
いやいやいや待て待て待て。
お前さっき、自分で言ってたやん。
『はい。ですが、
いやそれはそうだけど……って、だったら!!はよ言えや!!!
『勝手に負けたと勘違いしたのはマスターです』
そうでしたね!!俺が悪かった早く教えろください。
『魔法を破壊します』
Q : どうやって?
『全力で武器を投げてください。出来れば魔法属性のない、
あー、はい。結局これはあれね?
――ゴリ押し最強。何も考えるなってやつ。
「っしゃぁぁぁ!!やってやろうじゃねぇの。メタすまんけど、防御は無意味らしい」
俺は盾を捨て、明るい空を見上げる。
「つ、九十九さん?!一体何を」
「まぁ、見ててくれよ。全員助かる道をみつけたんだ」
突如防御を解除した俺に、慌てて疑問を投げる詩佳。
自暴自棄になったと思われてるな。
「んー、俺の武器には属性付与がされてるし……」
単純に硬い武器なんて、ここに持ってる人いないぞ。
俺は周囲を見渡して、何か代わりになりそうな武器を探す。せめて鉄の塊が欲しい所。
鉄なんて、都合よく落ちてるものでもない…………
――あれだ。
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