episode93 : 情報と作戦

 今までの試練について、正直な話をしよう。


 レベル上げやら従魔たちの強化、連携、作戦と色々対策と呼べる内容を練って挑んではいた。


 しかしいざ中身を開いてみればどうだ、――半分は運ゲーである。


 どれだけ強くなろうが付きまとう運の確率。その割合が高いことを忘却しては、今後の作戦に支障が出る。


――否。運ゲーは別に悪いことでは無い。

 RPGでも、敵の行動はある程度のローテーションで、そのターンの2分の1をお祈りする……そんな確率を経験に思い当たる者もいるだろう。


 運も実力のうち――例に漏れず、どの世界でも運ゲーその事実は変わらない。


 しかし、だ。――運ゲーの確率は増減する。


 例えば、レベル1の勇者がレベル100の魔王を倒せるか?確率はゼロとは言いきれない。だがまぁ、限りなくゼロに近い。これは挑むという行為が間違いだ。


 だが、同レベルまたは推奨レベルを持ってしても、勝てるかどうかは五分かそれ以下。だから推奨レベル以上を目指し、低いレベルで試行錯誤する楽しみも生まれる。


 勝利の差は、そう。――情報である。


 敵が物理多めならば、守備力を上げ、魔法が強いならば封じてみよう。状態異常は効くか?防御のタイミングは?

 仲間がいるなら全体攻撃も有効になり得る。


 あらゆる可能性を想定した対策は、確率をも凌駕する。

 同レベルの戦いにおいて、情報とは最強の一撃必殺技をも超える武器だ。


 さて、ここまで長々と話してきたが、本題に入ろう。


 確率運ゲーを超える力を持つ武器情報を――敵側が使用してきた場合。ゲームのボスが、こちらの行動を予想し対策してきた場合。


 勝利の鍵は情報量手札の数になる。


 ……冒頭の話に戻るが、今までの試練は半分は運ゲーだ。

 相手が俺のを知らず、俺に関する情報も少なかった。また、その逆も然り。――俺も相手の情報を知らなすぎた。


 正直な話をすると言ったな。

 正直、俺は知らないのに勝てたという事実に――甘えていた。要はのだ。


 行き当たりばったりでも、相手に先行を譲っても何とかなると。


 ……俺も、学習しないよな。本当に。

――不確定要素を放置するなんて。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「九十九さん、お待たせしました」

「いや、俺もちょうど今来たところだから」


 その日はテンプレな会話から始まった。


「荷物は後ろに。目的地までは4時間程度で到着する予定です」

「あ、お願いします」


 無愛想な運転手が荷物を運んでくれる。白い手袋がきちんとしていて、運転手というより執事の面立ちだ。

 そして、無愛想な彼の代わりに詩佳が到着予定時刻を教えてくれる。


「では行きましょう。道が混んでいないと良いのですか」


 出発時に彼女が心配していた混雑は、順調な道のりに杞憂で終わりそうだった。


 代わり……と言っては不幸すぎるが、俺の心配は現実へと昇華してしまうことになる。


 それは快適な高速道路の旅を満喫していた時、突如として発生した。――もはや手遅れの域で。


「九十九さん、もう一橋家の統治内に入りますよ」

「思ったよりずっと早いな。順調ならこんなものか?」

「えぇ。前はこの倍の時間がかかりましたから、運が良かったようです」

「そりゃ何より。高速道路を降りたら――


 何気ない会話。平和な風景。――一粒の違和感。


「ソウタさん!車を止めて!!」


 詩佳の強ばった叫びが車を止める。


「主っっ!!」

「あぁ――っ」


 違和感を違和感と認識した瞬間には、己の身体とハクが動き出していた。


「――地獄炎!!」

――飛翔加速&影渡り


 ハクが頭上へ向けて車の天井ごと燃やし尽くす。

 その隙に詩佳と運転手、そして最後にハクを抱えて影へ潜り込み回避を行う。


 長くは居られないため、時間を置いて少し離れた位置に浮上し地面に足をつけた。目の前に広がるのは、青い炎と有り得ない衝撃で押しつぶされた――先程まで俺たちが乗っていた車だったもの。


「詩佳、運転手さん、大丈夫か?」

「はい。助けていただきありがとうございます。ですが、……一体あれは?」


 押しつぶされた残骸のさらに頭上から、――正確には頭上の空中から、数体の羽の生えた人間が降り立った。


「避けられましたよ先輩」

「報告にあったとおり、かなりの手練れです。油断は禁物ですよ」

「ノーヴェ様のため、今ここで倒しましょう!」


 口々に鳥肌の立つような気持ちの悪い会話を発する、攻撃主たち。――また天使か。


「この間といい、今日といい、随分とな真似をしてくれるな。神ともあろうクソ共が頭を使うとは」


 俺は嫌味たっぷりに吐き捨てて、降りてきた天使を睨みつけた。


「あれが?すごく弱そうだけど」

「僕は強ければなんでも。でも、あんなガキに僕らの相手が務まるの?」

「ノーヴェ様から頂いた作戦です。きっと相応の理由があるのでしょう?油断してはいけません」


 わらわらと増えてくるな。

 いち、に、さん…………七体か。突発的な奇襲じゃ無さそうだ。


「詩佳、動けるか?」

「はい。ですが……あれは一体?人間でも魔物でも……」

「見た目通りに伝えるなら天使。俺の知ってる限りじゃ――クズ共だ」


 道が混雑していなくてよかった。

 俺たち以外の被害者は少なくともいなさそう。後続が通れないのは……許せ。命より大切なものもそう多くは無いだろ。


「とりあえず、詩佳は運転手さんを安全な所へ」

「その心配はありません。彼は師に並ぶ剣術の持ち主です。――1級の覚醒者ですから」

「……1級?!」


 ナンバーズ以外の1級覚醒者なんて初めて見た。

 存在自体は把握していたけど、実際に会ったことは無かったから。何より、そんな実力の持ち主が睦美家の運転手?


「って、今はどうでもいい。戦えるなら好都合だ」

「はい。ですからこちらの事は気にせず、攻撃に集中してください」

「助かる。――全召喚」


 俺の喚び出しに、異空間から従魔たちが姿を現す。


「また天使……ですか。主様は、相当嫌われているようです」

「我が主が神から好かれているはずがないだろう。――殺していいのだな」

「当たり前だ。――魂一つ遺すなよ」


 俺の怒りが伝わったのか、それとも単純に喚び出しが嬉しいのか。従魔たちは皆やる気に溢れている。


「行きましょう先輩!」

「気をつけなさい。特に従魔の――


「従魔がなんだって?」

――影咲貫シャドウレート


 俺は自分の影を強く踏み付ける。すると影が水面のように靡き衝撃が真っ直ぐに伸びる。


「先輩っっっ!!!」


 彼らがその波に集中する中、強く揺らいだ影が突如として現実に。その上に立っていた一体の天使を抉りとって。


「お、お前っ、何を……」

「奇襲が成功したからって呑気にお喋りかよ」


――飛翔加速


「くっ、――防御の陣!!」


 飛来してきた輝く2つの立方体。

 それらが迫った天使の前に展開され、立方体に挟まれた空間に薄い光の壁が出来上がる。


 構わずその壁へ向けて刃を突き立てるが、まるで砂に剣を突き立てたようにゆっくりと刃先か光に呑まれていく。


――っ!!


 慌てて手を引っ込めると、呑まれたはずの刃先は元に戻っている。完璧に防御に寄せた守るための結界か。


「ハク、あれは?」

「分からぬ。しかし、妾の結界術に似て非なるものじゃ。どちらかと言えば魔法に近いことは分かるのじゃが」

「アイツらのワザってわけだ」


 立方体から離れて後退。

 頭の上のハクに詳細を尋ねるも初見の魔法のようだ。マキナを一瞥するも、あっちも見た事がない反応を示す。


「まぁいい。2つしかないならせいぜい作れるのは平面の防御だけ。立体的な複数方向から攻撃すればいい」

「そうじゃな。では妾は強化に専念するとしよう」

「頼むぞハク」


 ヒビが入り崩れかけている高速道路の隙間にハクを置いて、従魔たちが展開している前線に戻る。

 その中には詩佳たちの姿も。


「ソウタ、右からお願いします」

「……了解致しましたお嬢様」


――神剣龍水

――多斬龍水


 おぉ、見事な連携。

 あの天使共もそこそこ強いはずなのに、いとも簡単に腕と羽を切り落とした。――躊躇いが無いのも高評価だ。


「シンシア、あの立方体なにか分かったか?」

「すみません。ハクさんと同じく魔法に近いモノ……としか」


 空を飛び天使を器用に守る立方体。それを細い目で追いながら、難しい表情が消えない。


「気になることでも?」

「……その、あの立方体が作る異空間に、少し違和感が」

「違和感?俺からすれば違和感だらけだが」

「立方体を作るには、本来最低でも3の点が必要です。結界を形作る物が立方体だとすれば、それが2というのは不充分な気がして……、えっと……、守りのとしては強力ですから、ただの考えすぎだと思いますけど」


 シンシアほど魔法に長けたものが違和感だと思うならば、その情報は信用に値する。


 俺ももう少し観察してみよう。

 こちらの攻撃に合わせて動く天使たちを、器用に守りながら動く立方体。数体の天使が右に移動すると、に立方体も右へ――


「ん?あっちの天使は守らないのか。捨て駒ってわけだ。つくづくゴミな野郎共……」


 いいや?

 今立方体が守っているのは、大した攻撃をされていない天使共。明らかに重傷の天使がいる反対側に移動しないのは何故だ?


 あそこの天使たちを守る意味がある……か。


 ……三箇所の点。……立方体。――違和感?


「あぁ、――それで

「主様、何か分かったのですか」

「あぁ。――中心座標を見つけた。ちょっくら行ってくるから、シンシアはハクとサポートに回ってくれ」

「はい!お気をつけて」


 初めに立方体が飛んできた。それは、発生源を悟られないようにするための錯覚。


――天舞・神楽

――世界樹の加護イグドラシル


 バフもいい感じに乗ったところで、――種明かしといこうじゃないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る