episode77 : 防衛本能

「九十九!左だ!」

「赤崎さん!上です!」

「二人とも、後ろには気を付けてください」

「あ、お二人とも!回復します!」


 俺たち四人の連携力は熟練のパーティにも劣っていなかった。普段はソロな俺は人に合わせて動くことに心配があったが、そんな心配は杞憂も杞憂。

 むしろ従魔との連携とは違ったやりやすさを感じていた。


 一般的なソロ覚醒者とは異なり、多数での戦闘に慣れていたのも影響しているのだろう。それでも、やはりリーダー経験のある二人の実力が大きい。


「もうすぐ中央の大樹です!開けた地形ですから、囲まれないよう一気に行きますよ!」


 一気に……とは、何をする気だろう?


 前方には既に獣が集まっていて強引な突破は難しい。下手な攻撃ではそれこそ阻む力に押し負ける。


「成長しているのが赤崎くんだけ出ないことを、証明しませんとね。行きますよ――聖彩の騎士道ホーリーセイバー


 掲げた剣の先から光が溢れ、周囲を明るく照らす。

 七瀬リーダーが剣を軽く振ると、その軌跡に反応して輝きが動き出す。ただの光魔法では無い。七瀬リーダーの能力との融合か。


「皆さん走る準備を」


 彼が剣を振り上げる。

 すると先程まで軌跡を追っていた光が大樹への黄金の道を創り出した。魔物は光を避けるように道をあけ、それはまるで城へ帰還する騎士を祝う城下町だ。


――それだけでは無い。

「……これは」


 黄金の道へ踏み出すと、力がみなぎり身体が軽い。強力な全体バフ。リーダーとしての責任と己の意志を曲げない彼の全てが詰まっている。


「三佳、掴まってろよ」

「え?ちょっ……えぇ?!」


――疾走


 移動のスキルを覚えていない三佳を抱えて、俺はリーダーと赤崎さんの後に続き駆け出した。


 魔物との戦闘をすること無く大樹の根元に辿り着く。見上げても全体が見えない大樹。


「……入口がないぞ?」

「いいえ。おそらくはあれでしょう」


 七瀬リーダーが指を指した先には、俺たちが近づいたことで反応した円形の魔法陣の輝きが一つ。

 ダンジョンよくある転移床だ。この上に乗ると大樹の中に移動できるのだろう。


 ……しかし、気を付けるべき点もある。

 転移床は罠としてもよく使われる。転移先が魔物の巣窟だったり、棘やマグマの近く……なんて事も充分に有り得るのだ。


「警戒を怠らず行きましょう」


 とはいえ、即死トラップとしてはあまり使えない。何せ魔法陣と魔法陣を繋ぐ機能である故に戻ることも可能で、その性質上地面の上で無ければ設置できない。


 転移時に下手に動かない、魔物には警戒しておく。この二つさえ心がけておけば転移床で死ぬことはまず有り得ない。


「三佳、このまま捕まっていろ。離すなよ」

「は、はいっ!」


 全員が転移床の上に乗ると魔法陣が青く輝き、青白い光が俺たちを包む。


「妾を置いていかないでくれぇーーー!!」


 転移する瞬間、俺の顔面に突撃してきたハクを含め、全員がその場所から姿を消した。



「……おっと、転移の感覚にも慣れてきた」


 数秒の浮遊感と、突如表れる重力の重み。この感覚は無限迷宮の行き帰りと似ている。


「全員無事…………」


 俺は生存確認と点呼を兼ねて振り向いた。


「おう。九十九も問題ないみたいだな」

「私も問題ありません。ただ……、やはり転移時の感覚が好きになれませんね」

「お、おおお兄さん!!そのっ……、そ、そろそろ……下ろしていただいても」

「あ、悪い」


 全員の声がして、姿も確認できた。

 大樹の中だろうが、頭上から差し込む光で全体が明るい。探索に支障はない……というか、探索も何も――


「上を目指す感じか」


 筒抜けになった大樹の中は、頂上までの全貌を視界に収めることが出来た。横に通路があるとか、何層にも別れているとか、そんな小賢しい構造では無い。

――ただ上に登るだけ。


「お、お主!!妾を置いていくでない!!さては忘れておったな!」

「他の従魔は別空間に……ってそうか。ハク、お前入れないんだっけか」

「そうなのじゃ!!だから置いて行かれるかと思ったのじゃ……」

「それは悪かったよ。別に故意に置いて行ったわけじゃないんだ。許してくれ」

「それはそれでどうなのじゃ……?」


 怒ったり呆れたり……忙しいヤツだ。


「それでお主。ここはどうする?」

「どうって普通に登れば……、無理だな」


 先程見た時には何もいなかったはず。

 しかし、ハクの問いに疑問を抱きながら再び見上げると、つい数秒前まで見えていたはずの頂上は黒い影に埋め尽くされていた。


「……影のない、鳥?」

 姿は至って普通(?)の鳥。少し……やや、我々の想像する鳥よりもかなり大きい鳥だ。が、その姿を見るまで気が付かなかったのは、ヤツらにはが無いのだ。


『――広域鑑定』

【――【試練】オルニスボイドLv125――】


 レベルは外のやつより低い。が、二つ名持ちに……あの数。大樹を登っていくには手すりのない螺旋状のツタを頼りに登るしかない。

 つまり、あの天を埋め尽くす鳥の群れに突っ込んで行かなくてはならないということ。それも、この大樹とツタを破壊しないように。


 落ちてもアウト。大技も禁止。

――これは面倒だ。


「無理だが、ルートは一つしかないだろ」

「あのツタだな。落ちたら危険だが、方法はそれしかなさそうだ」


 円柱の足場だから慎重に……


「了解じゃ!つまり!」

「ぷっ……」

「「………………」」


 ハクの渾身のダジャレに場が凍る。


「行こうか」

「なっ?!スルーか?無視なのじゃ?!」

「良かったなハク。一人にはウケたみたいだぞ」

「……?え?!わ、私?!」

「お主は良い奴じゃな!」


 笑いのツボが浅かったらしい三佳。

 ハクに変な気に入られ方をされたようだ。可哀想に。


「行くぞ」


 俺は呆れ顔で歩き出した。

 赤崎さんも七瀬リーダーも苦笑いで続く。


 円柱の足場で滑りやすいが、鳥共は上にしかいないようで序盤はスムーズに進めた。


 羽ばたく音すらしないと不安になるが。


「キェェェェェェェ!!!!」

「来るぞっ!」


 半分ほど登りきったところで鳥の索敵範囲内に入り気づかれた。耳をつんざく嫌な音を撒き散らし、数匹の鳥が突撃してきた。


――風切


 軌跡の刃が飛ぶ。


「避けた……?」

「いや。あれはすり抜けたって感じだぜ」


 放った刃は確かに鳥に命中した。敵は避ける動作すらしなかったのだ。だと言うのに、敵はダメージを受けた様子もなく突撃を辞めない。


 刃が体を通り抜けたのだ。


「物理無効?」

「任せるのじゃ!――狐火・檻炎」


 ハクが炎の檻に閉じ込める。


「なに?!」

「魔法も無効化するのか?」


 その檻も虚しくすり抜ける。


「妾も知らぬ奴がおろうとは」

「なんだ?貴様やつを知らんのか」


 ハクが悔しそうに口を尖らせると、マキナが現れて俺の隣に立つ。


「奴は指定の相手からの攻撃を無力化する能力がある」

「指定の相手……。なるほど」

「我が主は気がついたようだな。ならば」

「合わせてやる」


――風切

――速射


 俺とマキナからの同時攻撃。


「キエェェェ…………」


 するとどうだ。

 ただ突撃してくるだけの鳥は、いとも簡単に駆逐されていく。俺の攻撃を避けた鳥はマキナに、マキナの攻撃を避けた鳥は俺に。


「どういう事じゃ?」

「簡単に言えば、あいつらは一人の攻撃しか無効化できない。言い換えれば二人同時に攻撃すれば、あんな鳥ただの直進するだけの的だ」

「……ふむ。では妾も誰かに合わせるとしよう!」

「わかりました。では私も……」

「俺も行くぜ!」

「了解です!」


――狐火・地獄炎

――旋風刃

――雷光撃滅

――ホーリーランス


「お前らも、この先の道を開けてこい」

――召喚


 全軍出撃の勢いで頭上数十メートル先の大群に怒涛の攻撃を放ちつつ、ひたすら上を目指す。高さを増す毎に鳥の猛攻が激しくなるが、今のメンバーで恐れるものはなかった。


 何よりも、こと火力に関して従魔たちより上の存在の方が少ないのだ。初めこそ攻撃しつつの移動だった俺たちだが、いつの間にか登ることに専念できていた。


 適度な範囲の殲滅度が桁違い。


――正直もう少し苦戦すると思っていた。


「九十九君。見えましたよ」

「入り口……、この場合出口ですかね」

「どっちでもいいが、気を引き締めた方がいいな」

「えぇ。何やら嫌な雰囲気を感じます」


 この扉の先が大樹の頂上。

 そして、きっとクソ神が待っていることだろう。


「逃がすわけないだろクソ神。追ってきてやったんだから感謝しろ」


 怒りの籠った拳を握りしめ、俺たちは開く扉の先に進む。

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