episode69 : 新戦力
たまごから雛が孵る映像を見た事はある。
SNSで人工的に孵化させる動画も。
しかし、自らの腕の中で、己の目の前でたまごが孵る場面に立ち会った事がある者は世の中にどれだけいるだろうか。
あの、たまごが内側から振動する感覚を感じたことのある者はいるのだろうか。
――ピキッ
俺は今まさに、そんな世にも珍しい体験をしている。
「…………おっと」
急に大きく揺れたたまごを落とさぬように、慌てて抱きしめて砂の上に座った。ヒビが少しずつ広がり始め、たまごを叩く音も次第に大きくなっていく。
「来るぞ」
――パキッ
たまごの横向きに大きなヒビが入り、上下二つに割れた。
「――キュアァ!!!!」
まだ完全に整っていない紅い肌。ピッタリと閉じた羽。可愛らしい小さな角。元気な鳴き声。
「ど、ドラゴン……だ」
それは紛れもなく、誰もが想像する通りの、まだ小さいが確かなドラゴンの姿だった。
『個体名"エンシェント・グランデ・ドラゴン"が孵化しました。従魔の誓いが発動します――』
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「また強そうな名前……、レベルはまだ1だけど、育てがいがあるな!」
俺はたまごの殻からまだ軽い体を持ち上げて、俺の顔を不思議そうに見つめるそのドラゴンを撫でる。
『従魔の上位種には名付けが可能です』
「ぐあぁぁーー、今までとは重みが違ぇ。まずいって」
ただでさえろくな名前が思いつかないってのに、生まれたてのベビーの名付けなんて、……責任重大すぎる。
こいつの今後の人生全てに関わると言っても過言では無い。ヘタな名前にしてみろ。ありとあらゆる方向からのブーイング待ったナシだぞ。
「……よく考えろ。……赤い……ドラゴン。ん?性別はどっちだ?」
『魔物に明確な区別はありませんが、生物上はメスです』
「うわ、いかつい名前にするとこだった。…………あーー悩んでもしょうがない!!安直だけど許せ!」
俺は散々悩んだ挙句、開き直ってドラゴンに視線を合わせ、大声で言う。
「お前の名前は"ホムラ"だ!!漢字でもいいんだが、俺の従魔たちに合わせてカタカナでホムラ。ど、どうだ……?」
「キュウ……?キュア!!」
「そうか!良かった……喜んでいるみたいだ」
従魔になったばかりだが、何となく喜びの感情が伝わってくる。恐らく意味も言葉も対して伝わっていないだろうから俺の顔を見て笑っているのだろうが、個人的にもそこまで悪くはないと思っている。
「お主、自分では苦手と言っておるが、中々良いセンスではないか。もう少し自信を持ったらどうじゃ?」
「そうだといいんだがな」
俺が苦手だという理由はもちろんあるが……、今は関係ない。
「そうだ。ホムラのステータスを確認しておかないと」
新しい仲間だ。
まだレベル1だし、ステータスも低いだろう。優先してレベル上げしないと……
【――ホムラLv1――】
『HP/4500 MP/3000
STR +200
VIT +200
DEF +200
RES +200
INT +200
AGI +200
《所持スキル》
火魔法Lv5 闇魔法Lv5 風魔法Lv5 氷魔法Lv5
飛翔加速Lv5 念話Lv5 次元斬Lv5 鉄壁Lv5
人化 竜化
《称号》
竜王の加護 全属性耐性上昇 状態異常無効化
古の末裔 魔法レベルの上昇度が上がる
空の覇者 飛翔中STR+200 AGI+200
確定個体 意志が消えない』
えっと…………バグ?
賢能さーん!表示バグってますよー!ホムラまだレベル1なんですけど。流石にバグだよね?バグであってくれ!
でないと俺の立つ瀬が――
『バクではありません。現実です。ホムラは古代種に分類されるため、一般的なステータスとは比較になりません』
おかしい……。
俺、一応こいつらの主人なんだけど…………。
このままだと俺が四天王の中で最弱な立場になりかねん。
『無限迷宮まで残り2時間を切りました。文句を言う暇があったら進んでください』
「この人でなし!!無慈悲!!」
時々辛辣になる賢能。
俺の扱い適当すぎでは?泣くよ?泣いちゃうよ?
「何をブツブツ言っている。早く次層に行くぞ。我の身体の隙間に砂が入りめんどうだ」
「…………あーもういい!!さっさとボスぶっ倒してレベル上げてやる!!」
開き直るが吉。
ここで止まってる場合じゃねー。
「ボスの場所は?」
「着いて来るがいい」
魔物の狩り中にボスの存在を確認していたらしい。
素早く移動出来ない従魔もいるため、メタとホムラ以外の従魔は一度別空間に戻ってもらう。次層に行ったらまた活躍してもらおう。
残った俺たちは、マキナの後ろに続き足場の悪い砂の上を走った。
しばらく移動して、俺の鑑定にも反応するところまでやってきた。
頭の上にハク、肩にホムラ、片手にメタを乗せて。並のステータスなら骨が折れていたかもしれん。俺だからできる芸当だ。……重いけど。
「いた。あれがこの層のボスだな」
【――四腕のゴーレムLv140――】
煌びやかな岩で造られた5メートル以上ある砂色のゴーレム。この距離で動く気配はないが、鑑定による弱点も出現していない。またゴーレムの横に落ちている細長い岩はやつの武器なのだろう。
さらに特徴的なのは、二本の腕とは別に背中から生える追加の腕二本。
名前通りの見た目だが、それ故に感じる強さも別格。これまでのボスはなんだかんだ瞬殺してきたが、今回はそうもいかなさそう。
「近づかないと動かないなら、先制は戴くとしようか。手始めに――飛翔加速」
ゴーレムが動き出すより早く、俺は右腕の1本の関節を狙って飛び、
「――武具変形"大剣"」
片腕を落とさんと的確に刃を斬り込んだ。
――カンっ
しかし、響いたのは刃が弾かれる音と腕の痺れだった。
「硬っ?!ただの岩じゃないぞこれ!!」
ゴーレムの頭上を飛び越え、反対側に着地。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
探知圏内に入ってしまったことによって、ボスのゴーレムが動き出す。
――錬成
動き出した直後、ボスの覚醒に合わせて周囲の砂がボスの元へ集まる。足元に砂のミニゴーレムが湧き始めた。
「スキルか」
「ふむ、この程度の雑魚ならば問題ないぞ!!」
――狐火・地獄炎
真っ赤な業火がミニゴーレムたちを燃やし尽くす。
「…………砂に炎は効かないだろ」
「なんじゃと?!」
が、炎の中で元気に生まれ続けるミニゴーレム。今回ハクは休憩だな。
「このまま増え続けるのは困る!」
――風切
俺の身長と同じ大きさのミニゴーレムたちへ薙ぎ払う。身体が半分に裂かれたミニゴーレムは砂となって地面に崩れ落ちる。
――錬成
「やっぱり本体を倒さないとダメか」
一度は砂に戻ったものの、すぐさまその場で復活を遂げるミニゴーレムたち。
――ロックブラスト
攻撃手段は弱めの土魔法だけだが、無限復活の上に数も多い。壁役としてはこれまでにないほど厄介だ。
ミニゴーレムを倒している間はボス本体が何もしてこないのが唯一の救いだろう。
「主、弱点はまだ分からぬのか?!」
「それが、あるにはあるんだが……」
動き出したことで弱点も現れたが、問題はその位置。
「……あのゴーレムの中央。人間でいう心臓の部分にな」
「あの硬い表面を破壊しなければ倒せぬと言うわけか」
厄介じゃなと睨みつけ、その後渋々俺の頭から離れた。
「今回妾は役に立ちそうにない。ので、サポートに徹しようかの」
――天舞・神楽
「これは……」
いつぞやに見たバフのスキル。
その輝きが舞踊り、身体がふわりと軽くなる。柔らかな温かみ。
「これなら……、マキナ。あの表面は貫けるか?」
「無理だ。我の攻撃では傷をつけるのが精一杯だろう」
「となると……、あの表面を破壊できる攻撃を持つのは」
――召喚
俺は再びルナを召喚する。
「悪いな行ったり来たり。周りの雑魚はこっちで何とかする。隙を見てゴーレムの中心を破壊してくれ。弱点まで破壊せずとも表面だけでいい。できるか?」
俺の言葉に静かに頷くルナ。
「あとは、ゴーレムの動きを止めたいんだが……」
「キュア!!」
「ホムラ、できるのか?」
「キュッ!!」
「よし、頼んだ」
肩のホムラが任せろと鳴き声をあげる。
軽く頭を撫でて了解し、ゴーレムへと向き直る。
「さて……と。マキナ、合わせろ」
「命令せずとも合わせてやる」
――風切
――
空間を切り裂く斬撃と、無数の弾丸がミニゴーレムたちを蹴散らす。砂となり消えたゴーレムたちが、復活するまでほんの数秒。
「ホムラ!」
「キュアァァァ!!」
――
ホムラから放たれた氷の息吹で世界が凍る。砂は舞うことなく、ボスも動きを止めたまま。
一面凍った砂漠の世界。
「……っ!!」
驚いている暇はない。
「ルナ!」
――影結び
姿はなく、音もせず、そして一瞬のうちに。
俺の叫びと同時にゴーレムの表面が破壊され、中に輝く白銀の
――飛翔加速
ホムラの魔法の効果も徐々に溶け始め、破壊された表面の修復が開始される。全員で作り出したその一瞬に、全力で飛び込んだ。
――急所突
剣先が宝石を貫く。
ゴーレムの修復が停止する。
『第十五層のボスの討伐が確認されました。
第十六層へ転送します――』
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