episode68 : 確保と進化と
――疾走&
洞窟の横穴から這い出てきた水晶ムカデが銃弾によって即座に爆散する。
――狐火・檻炎
道の奥から向かってくるパワーゴブリン数体が、炎の檻に囚われ焼かれて消える。
「…………」
俺の前を先行するハクとマキナ。
その後ろにブランとイーグル、俺の後ろをベクターとルナが守りながら洞窟を歩く。
たまごに触れさせないためとはいえ、あまり過保護すぎる布陣。
念には念をというが、先頭の二人が魔物を逃すはずもなく、洞窟探索は順調に進んでいた。
「ん?ボスっぽい名前。ハク、マキナ!その通路左だ」
「了解なのじゃ!」
俺の仕事と言えば、鑑定表示を駆使してボスを探す索敵係。だが、それも洞窟という範囲の狭さからあっさり完了した。
ボスの名前は【――地底モーグラLv127――】。
次の層辺りから従魔にしても問題なさそうなレベル帯。
「ボスと言うのはあれじゃな!!」
「……ふん、図体がでかいだけのモグラか」
左に曲がると直ぐに大きく開けた空間に出た。
半球の空洞と中央には5メートル近いモグラ。身体の半分は地面の中だと言うのにこの巨体。全長は10メートル以上あるだろう。
この洞窟は、奴が移動のために掘った通路なのかもな。
「行くぞ!!――化けの術・分身」
遠くから観察している間に、ハクが先行して戦闘が開始した。
飛び出したハクの姿が5体に増え、本体と同じように動く。
「――狐火・地獄炎」
もちろん攻撃の術も分身と同じだけ増える。
分身の攻撃に当たり判定があるのかだけ気になるところだが……
――アースピラー
ハクの攻撃に怯むことなく、大きな前足を思い切り地面へ叩きつけるモグラ。
ズウゥゥゥゥン
足がよろけるほどの地響きと揺れが洞窟を襲う。そしてそれを合図に地面から複数の土柱が攻撃最中のハクをも襲う。
「なんじゃ?!」
先制攻撃の確実性を求めジャンプしたのが仇となる。空中にいては分身諸共回避は不可能。
「――
本体に伸びる土柱がマキナの銃弾で砕け散る。
「あ、危なかった……」
「もう少し頭を使えキュウビ。貴様のそういうところは、昔と変わらん。早く直せ」
「なっ、わ、妾は小賢しい戦いは苦手なのじゃ!!」
戦闘中でも普段と変わらないやりとりを繰り広げるハクとマキナ。彼らから余裕を奪わない限り、この戦闘に緊張感は訪れないだろう。
……それが良いところでもあるんだけど。
「貴様は少し下がっていろ」
「なっ、妾だってまだやれ……
――疾走
ハクが言い終わる前に、マキナは敵に向かって駆け出した。
「ターゲット、ロック。――
地面から伸び続ける土柱をミサイルで迎撃しつつ、防御不可の赤い剣をモグラ本体に投げつける。
さらには、背中から展開された武装の重さを感じさせない素早い動きで投げた剣の後を追う。
「ギィギャァァァッッ!!」
――クラッグフォール
迫るマキナに危機感を覚えたモグラは、奇怪な叫びと共に土魔法で尖った岩を落とす。
が、マキナには通用せず。
――
空中で一回転したまま、左手に掴んだ小型の銃で岩を吹き飛ばした。小型の銃から出る威力じゃないが、それよりも驚愕なのはその早撃ち性能。
回転しながら銃を取り出し岩に的確に命中させ、元に戻る。その一連の動きを捉えるのが精一杯。
意識していなければ、魔法の岩が突如その場で爆散したようにしか見えないだろう。
少なくとも魔法を放ったモグラにはそう見えたに違いない。
「キィィィッッ?!」
魔法が通じないことへの恐怖か、モグラはいきなり地面へと潜り始めた。判断の早い敵前逃亡。
だが相手が悪い。
「敵に背を見せるか。悪手だな」
モグラが作った大きな穴。その縁に着地し叫んだ。
「キュウビ、出番だ!!」
「やはり妾の扱いが酷いのじゃ!!」
――狐火・地獄炎
荒々しい地面の影から飛び出したのはハク。
その大きな穴に向かって最大火力を叩き込む。
「逃げ場はないぞ。――反射板」
あら残酷無慈悲。
無慈悲なマキナは、穴に注ぎ込まれた炎を逃がさぬよう穴の入口を反射板で塞いでしまった。
威力を落とさずに穴の奥へ広がる炎。
その結果は数秒としないうちに現れたのだった。
『第十四層のボスの討伐が確認されました。
第十五層へ転送します――』
ーーーーーーーーーーーーーーーー
『無限迷宮第十五層。
出現レベル : 128〜140、残り時間は2.30.13……』
「………………よっと。あれ?見た事のある景色だ」
転移による浮遊が終わり、眼前に広がるは一面砂色の視界。
「前回は岩石砂漠だったから、ちょっと違う……か?」
一歩歩こうと足に力を入れると、柔らかな感触に足が沈む。動きにくいことこの上ない。
「お主の試練に似とるの」
「我の試練はこれ程甘くは無い」
「レベル帯は上がってきたけど、生息する魔物は……」
――広域鑑定
デザートイーグルLv138、デザートイーグルLv132、サンドワームLv130、夜の蠍Lv136……ect。
おぉ、ついに従魔の同種と再開した!!
出現魔物がほぼ同じ階層もあると。レベルは比べ物にならないが、名前が同じならば合成できることだろう。
進化の道もゼロじゃない。
これは、久々に期待が高まる。ワクワクする。
「では早速……」
空を悠々自適に飛びまわるデザートイーグルへ向けて、俺は遠慮ない一撃をお見舞する。
――風切
たまごに気をつけて、短剣を一振。
ただし、狙うは羽。
倒してしまっては意味が無い。
羽を失った鳥は、重力に抗えず砂の上に落ちる。
「うへへ、悪いな」
無慈悲?人の心がない?
知らん。誰になんと言われようと、この胸の高鳴りを抑えることは出来ない!!
『従魔の誓いが発動します』
「よっしゃぁぁぁぁぁ!!合成元ゲット!」
「お、お主、流石に少し引くのじゃ」
「ふむ、強くなるのに必要なことなのだろう?我も手伝ってやろう」
「…………お主は平常運転じゃな」
ハクが呆れる中、マキナは魔物を求めて消える。ハクは渋々といった様子でルナとベクターを引き連れて移動。
「ロックスライム、イーグル、ブラン。お前らはこの辺で待っててくれ」
ちなみに、メタは動きたがらない。
俺の腕に引っ付いてすやすやと寝ている。
「よし。一旦レベルがどれだけ上がるか確認しておくか。――従魔合成」
合成用のウィンドウが開き、元からいたイーグルにたった今確保したイーグルを合成する。
すると目の前にいたイーグルが光の泡となってウィンドウに吸い込まれ、その姿を変えて再び同じ場所に召喚された。
『合成完了。デザートイーグルLv168はキンググリフォンLv175へ進化しました』
大きさはデザートイーグルだった頃の数十倍。
鋭いくちばしと白く輝く毛並みが美しい。翼もその巨体を持ち上げるにふさわしい豪快かつ力強さを感じる。
そして何より、イーグルの時にはなかった四足の足。前足のごつい爪は岩など簡単に砕けそうな勢い。空の"王"の名に恥じぬ佇まい。
しかしその瞳には薄らと前の面影を残す。
……というか、これ俺が乗れば最強でね?
『伝説種への進化を確認。従魔の上位種には名付けが可能です』
「で、伝説級?上位種とはまた別ってことか?もう何でもありだな。しかも名付けって……そんな機能あったな」
マジの久しぶりすぎて忘れていた。
何度も言うが、俺、名付けのセンスが無いんだわ。
「んーー、名前……ねぇ。どうすっか……」
これは大変。悩み中。
「……どうした?」
俺が名付けに苦悩していると、グリフォンが俺の肩を優しくつつく。何か言いたいらしい。
「キェェ!」
俺を見つめ、一声鳴いた。
『個体名"キンググリフォン"からの申請。――承諾。名前を"クルー"で登録しました』
その声に反応した賢能が勝手に承諾し、グリフォンの名前がクルーへと書き変わった。
「お前……名前があったんだな。気づいてやれなくてすまん。これからもよろしくなクルー」
「キェア!」
大きな頭を俺に擦り付け、喜んでいるのが伝わる。
……が、
「分かった、分かったから!翼!!風がっ、砂埃がヤバいって」
今までと同じように喜んだせいか、危うくたまごごと吹き飛ばされるところだった。
こりゃ、色々今後も大変そうだ。
イーグルがグリフォン――クルーに進化したその後、マキナとハクたちが上手く調整し従魔の誓いを発動させて戻ってきた。
従魔の誓いって、俺の従魔が弱らせても俺のスキルが発動するらしい。てっきり弱らせて持ってくるのかと思っていた。
「えーー、ロックスライム5匹、デザートイーグル8匹、蠍が3匹か。よっしゃ、さっさとやるぞ!」
――従魔合成
わざわざ貯める必要もなし。
確保した従魔たちを一気に合成する。
『合成完了。キンググリフォンLv175→Lv189
ブランLv172→Lv181
ロックスライムLv167がロックスライム・ロワLv184へ進化しました』
既に進化済みの2体はそれなりにレベルが上がり、進化したスライムは……色が少し濃くなった?
見た目にほとんど変化がない。
名前とステータスは変わったけど。
『個体名"ロックスライム"からの申請――承諾。名前を"ライム"で登録しました』
おっと、こっちも名前が付いていたのか。
ライム……呼びやすくていい。
「ピュイ!!」
みんな強くなって嬉しそうだ。
俺も嬉しい。
しかし、喜ぶのはまだ早い。そう伝えるように賢能が新たな情報を伝える。
『"従魔合成"のスキルが"従魔配合"へ進化します』
は、配合?!
またびっくりニュースが。俺もうおなかいっぱいだが?
『従魔配合では、種類・種族の異なる魔物を合成することが出来ます。その際は経験値のみが加算されます。また、同種族や特定の魔物との合成時に稀に上位種への特殊進化を行えます』
…………要するに?
キメラが生まれるんじゃなくて、レベルを上げやすくなった?んで、普通の進化とはまた別の進化もできる?
…………あぁ、ちょっと頭痛い。俺の脳ミソの容量では追いつかない情報量だ。
「今は……考えるのやめよ。特殊進化やらができる時に、もう一回解説頼む」
とにかく、今は戦力が上がったことを喜ぶとしよう。それにまだ時間もある。レベル上げも兼ねて、まだまだ上の階層を目指そう。
今の俺たちならもっと上に行ける。
「んじゃ、また別れて探索を――」
――ピキっ
そういった直後、さらに俺の脳容量を破壊する音が鳴り響いた。
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