episode61 : 未来を越える
「……さて、どうしたもんか」
眼の前の最強に対して、有効打が思いつかない。
今のところ、避けられるか斬られるかの差はあるが、何かしら理由があっても結局未来視である以上、それが弱点になり得るとは思えない。
「――月弧斬照」
――飛翔加速
思考中の俺を隙とみなしたのか、今まで防衛的だった彼女が剣を地面に突き立て技を使う。
俺はその動作に危機を感じ、すぐさまその場から大きく移動した。
しかしその回避も虚しく、発動された技は追尾式。
空中に現れた三つの三日月。そう認識した時には三日月が刃となって俺の元へ放たれていた。
「回避が無理ならっ」
――ロックブラスト&水晶壁
迎撃するまで。
MPは大量に消費するが、今の俺ならそこまで問題ない。完璧に防ぎきれなくても、相殺かあるいは軌道を逸らす程度のことはできるはずだ。
その考えで迎え撃ったのだが……
「か、躱した?!」
その輝く斬撃は、まるで意志をもった生き物かのようにこちらの魔法を
「賢能!」
『――広域鑑定』
――急所突
魔法で撃ち落とせないならば、無理やりにでも破壊するまで。黒耀紅剣に魔力を最大まで通し、向かってくる三日月へ的確に刃をぶつける。
すると確かな切断の感触を残し、三日月の斬撃が霧散した。俺は残りの三日月も同じように破壊した。
本来は魔法無効のメタを使いたかったが、魔法とスキルが少々異なるためあの斬撃にメタをぶつけるのは怖かったのだ。
「……!!」
「メタ……、今のなら大丈夫って?お前が言うなら次は任せるよ」
しかし、その不安は杞憂であったらしい。
メタ本人が問題ないと言うならば無効化できるのだろう。
「――一閃」
「行けるかメタ?」
「ピィ!」
「よし。――武具変形"大盾"」
俺からの反撃が無い隙に一気に距離を縮めてくる。
が、直前で変形したメタがその一撃を防ぐ。
――急所突
「無駄です」
大盾の影から飛び出した俺の攻撃を、やはり軽々と防ぐ。
「――幻術・水落流」
「…………」
俺の動きに合わせたハクの魔法。
ただの魔力を使った幻術だが、その完成度故に本物だと誤認してしまうほど。しかし基本的に幻術そのものに攻撃性がない以上、視力のない彼女には無意味……
(躱した?)
水が発生する瞬間、彼女は俺への追撃を諦め後方に回避行動を行った。
幻術は本人が偽物だと気がついていれば攻撃性が無くなる。逆に、本物だと誤認すると幻術は実態へと成り代わる。
視覚と脳みそを利用した魔法であるため、見えない彼女に攻撃性はないと思っていたが……、避けたのか。
それはつまり、彼女があの幻術を攻撃性のある魔法と
……何故?
未来視ができるなら、そもそも避ける意味は無いはずなのに。
「ハク、確かめたいことがある。もう一度俺に合わせろ」
「了解したのじゃ!!」
――飛翔加速
「メタ、――武具変形"鎖鎌"」
俺は空中を加速しながら先にメタを投擲。
――キンっ
当然、弾かれることは想定済み。
そのまま鎖を追いかけるように俺が直接攻撃を仕掛ける。
「――幻術・雷落とし」
「……っ!――神剣龍水」
突然の大技。
彼女の持つ剣が青く輝き、こちらの身体を押し流すように吹き飛ばした。かろうじてメタと黒耀紅剣をクロスに押し当てダメージを抑える。
そのまま彼女の追撃を警戒したが、なんとあれだけの大技を彼女は回避のためだけに使ったらしい。
彼女との距離が大きく開き、誰もいない空間に雷の幻術が落ちた。
「やっぱり。彼女にはあれが
違うのか?
未来視
考えてみれば、そうだろう。
初めからあの幻術を本物だと誤認していれば、視える未来はあの幻術により倒される自分の未来。攻撃性のある魔法ならば当然避ける。
でも、ハクの未来も予測できるならあれが幻術だと分かるはず。
……待てよ。そもそもなんで、彼女は俺たちの
「確かめる必要がありそうだな」
未来視があれば、こちらの攻撃の予測ができる。
しかし、今の俺がどこにいるのかまでは分からない。
なのにこちらを的確に狙った攻撃ができている。その動きを可能としているもの。何かを見極めることが、この試合の勝利に繋がるはずだ。
――ロックブラスト
手始めに普通の魔法を放つ。
「万策尽きましたか?その手は先程も見ましたよ」
これまで通り、全ての岩が切り捨てられる。
「メタ、武具変形"槍"」
――投擲
次に槍へ変形させたメタを投擲してみた。
するとかなり早い段階から槍を弾く構えを見せる。そして剣先を槍の持ち手に合わせ、あっさりと軌道を逸らす。
――飛翔加速
その槍に続いて駆けた俺の追撃にも、滑らかな動きで対応する。剣と剣が交わり、お互いの力が拮抗する。
「――狐火・地獄炎」
そこへ、ハクの魔法が迫る。
――影渡り
巻き込まれぬよう一瞬のスキをついて陰へ潜ると、今度はかなり彼女も遅れて後方へ回避する。
「未来視が反応していない?……けど、魔法そのものは認識できていると」
俺の攻撃には全て反応した。それも、魔法・物理のどちらもかなり早い段階で。
しかし、続くハクの攻撃に反応したのは、かなり遅いタイミングだった。魔法が接近してから気がついたのか。
………………魔力か?
「未来視とは別に、何かしらの魔法かスキルで魔力を検知しているのか。"この世の全ての物体には微弱な魔力が含まれている"。通りで俺たちのことも見えているような動きをする」
となれば、あの未来視とやらも"完璧"では無い。
おそらくは、
今回の場合はずっと俺だろう。
ハクやハクの使う魔法に対しては、その魔力を視る能力を使い、己の身体能力で回避していた。それでも充分に凄いことだが、この予想が正しければ彼女も"無敵"ではない。
突然の、それも未来視の対象外からの回避不能攻撃。
今狙うべきはそれだ。
「まずは連携。とは言っても手数が足りないんだよな」
今のところ攻撃手段が俺とハクだけ。
そのハクも警戒されているから難しい。
「…………そういや、マキナたちはどうなった?」
ふと、隣で未だ戦闘中のマキナのことを思い出す。
マキナが双子相手に余裕そうな動きを見せている。ルナはそのマキナをやや遠目から見守っている。
あいつ、一人で相手したいとか言ったんだろうな。
まぁ、マキナと双子の周りに近づけば、大量に撒かれた宝石(遠隔魔法)の被害を受けかねないし、手伝ってもらうのは難しいか。
あぁ、また爆発してるし――
「…………爆発、か」
あの双子、起動するタイミングで魔力を送り込む能力だったよな。設置も宝石を飛ばすのに魔力を使うものの、魔法陣を刻んだ宝石そのものに魔力は対して含まれていない。
「試す価値ありってな」
――飛翔加速
「何か思いつきましたか。残念ですが、何度試そうとあなたの攻撃は当たりませんよ」
「それはどうかな」
俺は加速で彼女の横へ回り込み、全力で突撃する。
――クラッグフォール&急所突
頭上に大きな岩。
彼女の動きが一瞬止まる。
「――一閃断絶」
落ちる岩が、瞬きより早く粉々になって消えた。
しかし、それに驚く時間は無い。
俺は加速を止めずに一閃の構えをとる彼女の懐へ飛び込んだ。
――キンっ
武器と武器が交わる音。
一閃を受け止めたのは、俺の武器ではなく用意しておいた小型の盾――メタだ。
俺はそれで一閃の軌道をそらし、短剣での攻撃を諦めて弾かれて顕になった腹へ回し蹴りを入れる。
「――多重剣撃」
お腹に足が当たる直前、足とお腹の間に二本の光剣がその威力を抑えた。ステータスの暴力で衝撃まで相殺しきれず数メートル後方まで吹き飛ばしたが華麗に着地され、置き土産とばかりに数本の光剣が俺を襲った。
――影渡り
俺は彼女を追うため影に潜り、
「――光照け
「させぬぞ!!――狐火・地獄炎」
「…………」
俺が近づく時間をハクが稼いでくれる。
ハクの攻撃は、俺の攻撃を防ぐよりワンテンポ遅い。
ほんの一瞬の遅れ。されど一瞬。
「もう少し奥に行ってくれっ!」
彼女の足元の影から飛び出した俺は、防がれることを読んだ上で正面から短剣を一振りする。
「だから無駄だと……」
俺が攻撃のために踏み込んだ一歩を、彼女は防ぐために足を一歩下げる。
「――っ?!」
――その瞬間、俺は"
眼の前で今まさに、俺の攻撃を防ごうとした彼女の姿勢が斜めに崩れた。そう、体勢を崩したのだ。
その足下に視えるのは――赤い宝石の輝き。
「くっ、――神剣りゅう」
崩れた体勢からでも対応しようと、彼女は剣を握りしめる。さすが、最強と言われるだけはある。
……だが、――それも想定済み。
「よく察してくれたな」
俺は苦笑いと共に、賞賛の言葉を投げた。
「――なにっ」
彼女もその存在に気が付き……ついに驚きの声を漏らす。俺ではない、その存在に対して。
「……ふん、我を誰だと思っている」
余裕の表情でそこへ現れたのは、絶賛回避行動中のマキナだ。
ん?回避行動ってなんぞや、と?
頼んでおいた注文だよ。
「ようやく追い詰めた――起動術式・爆撃」「真衣!!そこは……っ」
不意に現れたマキナのすぐ近くには、もう一つオマケが着いている。今まさに輝きを放った、――赤色の宝石が。
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