変化と繋がり
episode54 : 無駄な争い
episode54 : 無駄な争い
「…………だぁぁぁーーーーー。疲れた」
「お疲れ様じゃ。また面倒な厄介事に巻き込まれたの」
「これだから目立ちたくは無かったんだ」
俺はダンジョンから脱出した時のことを思い出し、再び大きなため息を零した。
それは俺がダンジョン――青藍の試練をクリアした後のことだ。
「我はここらで失礼する。用があれば貴様のスキルで喚び出すが良い」
「なんだ、お前は別空間に入れるのか」
「むしろ、そこのキュウビが異常なのだ」
ゲート前でマキナと別れ、ダンジョンの崩壊を始めてもらったのが功を奏したと言える。
ハクも念の為に透明になり、俺は何事もなくゲートを潜って外へ出た。
「誰だ!!」
攻略を終え、疲労困憊の俺を出迎えたのは賞賛の声でも労いの言葉でも無く、明らかに警戒と敵意を持った何者かの叫びだった。
「……なんだよ」
まぁ、正直この時の俺の返しも印象は最悪だったと言える。この時もう少し愛想良く返事をしていれば、まだマシな結末になっていたかもしれない。
しかし、俺も疲れていたんだ。
強敵との連戦に、神との大規模戦闘。他人を気遣うだけの余裕はなかった。
「貴様は誰だと聞いている!」
「ちっ、それが高難易度ダンジョンを攻略してやった人間に対する態度かよ」
「何を言っている!貴様のような怪しいやつがダンジョンを攻略したなどと……。このダンジョンを単独攻略出来るやつが存在するわけ――」
相手が叫んでいる最中に、俺の言葉が真実である証拠が
紛れもなく、俺が攻略して戻ってきたことの裏返し。
「おい、セブンスゲートの情報では、あのダンジョンは高難易度ダンジョンなんだよな?消滅したってことは、本当にアイツが単独で……?」
「マジかよ。これは大スクープだぞ!!」
「失礼ですが、お名前を聞いても?」
覚醒者と思われる人の後ろで待機していた報道陣が、脅威ではないと認識したのかいっせいにカメラのシャッターとマイクをこちらに向けてくる。
もはや敵意を向けているのは覚醒者と思われる数人だけ。
「…………」
俺はと言うと、面倒なので無視を貫いてその場から逃げようとしていた。こういった面倒事は後で赤崎さんを通してからにして欲しい。
面倒事を押し付けている自覚はあるが、早く帰って寝たいから許して欲しい。
「あっ!ちょっと……、すみません!」
「質問はまた後日にっ」
「待てっっ!!」
報道陣に群がられている俺を前に、敵意のある強い語尾でこちらに話し掛ける者。
「やはり貴様は怪しい!どこ所属の誰だ。まずは名乗るのが礼儀だろう」
「……そういうお前は誰だよ」
「私はセブンスゲート所属、2級の
「信用もクソもないだろうが。たった今消滅したのをその目で見ただろうよ」
「それも何かの間違いだろう?もしくは、何かずるでもしたか……」
あーーー、出た。一番面倒なタイプのやつ。
自分の世界以外は認めないって言う、絶対関わりたくない人間だ。
「はいはい。もうずるでもなんでもいいよ。勝手に解釈してくれていいから、話はまた後に」
「逃げる気かこの卑怯者!!貴様なんて、この私にかかれば」
はぁ、イライラする。
――飛翔加速&威圧
「なぁ?誰が卑怯者だって?」
「ひっ?!」
俺は報道陣の隙間を加速し、取り出した黒曜紅剣をその首元に当てる。
全く目で追えない動きで目の前に迫られた男は、随分と間抜けな悲鳴を上げ尻もちをついた。ちょっと威圧を強くし過ぎたか?
「俺は疲れてるって言ってんだ。話をしないなんて言ってないだろ。また後日だ」
俺は剣をしまうと、威圧を収めて出口へ歩き出す。
すると、今度はかなり聞き馴染んだ声に足を止めた。
「九十九!!無事だったか!」
「九十九君、もう戻ってきてましたか。すみません、こちらはたった今対処が終わったばかりで……。既に面倒事に巻き込まれてしまったようですね」
赤崎さんと七瀬リーダーだ。
その安心した表情を見るに、かなり心配してくれていたようだ。
「俺は大丈夫です。お二人こそ、怪我は無いですか」
「あぁ。かなり厄介だったが、被害は最小限に抑えられた。遥輝さんが居なきゃもう少し大変だったけどな」
どうやら重傷者は居ないようで少し安心した。
「それにしても……、もう隠し通すのは難しい状況ですね」
七瀬リーダーは、俺の背後にいるたくさんの報道陣とセブンスゲートの仲間の顔を見て渋い表情をする。
「おいおい、あいつ、あの七瀬の息子と仲良さげに話してるぞ」
「あぁ、只者じゃないな」
報道陣の期待が高まっている。
このまま黙って逃げれば、あらぬ疑い、噂が飛び回ることだろう。それは……葵のためにも避けたいところ。
「九十九君。すみませんが、君との約束を破ってしまうことをお許しください」
そう告げ、七瀬リーダーが一歩前にでる。
「皆さん聞いてください!!こちらにいるのは、しばらく前に誕生した人類の希望……、新たな一級の九十九涼君です!!……九十九君、この前に渡した書類を持っていますか?」
「書類……、一級の証明書的な物なら」
「それです。少しお借りしますね」
俺が差し出した書類を受け取った七瀬リーダーは、それを全員に見えるように高くに掲げる。
「こちらがその証明書です。皆さんもご存知のように、この書類を偽造するのは極めて困難であり、またその実力詐欺も不可能。彼が一級であることは確かですし、この件も私から直接頼んだものです」
「異論はありませんね?」と、爽やかで怖い笑みを報道陣併せ同ギルドの仲間に向けた。
その表情に彼らは顔を引き攣らせて首を縦に振る。
「では九十九君。今日のところはお疲れでしょうし、帰宅していただいて構いませんよ。ですが、見ての通り納得の行っていない者もいるようですから、後日何かしらの処置を行う必要がありそうです」
「そうですね。その時はお願いします」
俺は軽く頭を下げ、その後二人と一緒にそのデパートを後にした。
「すみませんね九十九君。どうやら、報道陣だけでなく、こちらのギルド事情に巻き込んでしまったようで」
「ギルド事情?」
デパートを出て帰宅途中。俺は赤崎さん、七瀬リーダーと先程の出来事について話していた。
「えぇ。先程君に……色々と言っていた彼とその仲間です。彼らは現在、功績を上げる事で頭がいっぱいなのです」
「功績……ですか」
その言い方をするということは、セブンスゲート内部で何かいざこざでもあったのだろうか。
「功績です。父……ギルドマスターの七瀬重吾に認められるため躍起になっているのです。一刻も早く私を落としたいのでしょう」
七瀬リーダーの父、セブンスゲートのギルマス。
彼に認められる?それに七瀬リーダーを落とすって……
「まるでギルド内部で対立しているような表現ですね」
「表現……ではなく、事実ですから」
彼は俺の発言に苦笑いし、赤崎さんは微妙な表情で視線を外に向ける。
「……一体何が?」
「話すと長くなるので、端的に言えば父が私にギルドマスターの座を譲ると言い出したのです。対立しているのは、それの賛成派と反対派です」
うわぁ、要は権力的な事だよな。
現実にそんなこと有るのか……。漫画の世界だけの話だと思ってた。
「私としては、ギルドを仕切るにはまだまだ実力不足ですから、あまり乗り気では無いのですが」
「既に周囲のやつが勝手に話を進めてるんだ。もうリーダーの一存じゃ手をつけられない規模になってる」
そう付け加える赤崎さん。
その口調は怒りというよりむしろ呆れ。確かに、赤崎さんはこういった無駄な争いは好まないだろう。
「もちろん、ギルドマスターになるにしても、現状維持だとしても、君との交友関係を切るつもりはありませんよ。無論、こちらの事情に君を巻き込むつもりも無かったのですが……」
「まぁ、気にしていませんよ。それに、悪口を言われるのは慣れていますから」
自虐趣味はないが、事実なのだから仕方ない。今でも、過去の俺を知るやつはバカにしてくるだろう。
多少の敵意や嘲笑うやつは気にしない。
「すみません。対立相手とはいえ、私のギルド仲間が失礼な発言を」
七瀬リーダーの方も苦労しているらしい。
優しい人から不幸になっていくのは、どうにも許しがたい。
「そこで、だ。九十九、一級という地位とその名を正式に発表したいんだ。そろそろ隠し通すのも難しいだろ。手間はかかるが、さっきみたいな厄介事は減るはずだぜ」
確かに面倒だ。面倒だけど、これ以上二人に迷惑をかけるのは心が痛い。それに今後の面倒事を考えても、名を広めるのは悪い話じゃない。
「良いですよ。とは言っても、あまり話せることは無いですけど」
「そこは問題ない。……というか、九十九は発表の場にいなくても大丈夫だ。こっちの方で新しい一級の誕生とそれがお前であることを伝えるだけだからな」
「あ、それは楽でいいですね」
おっと、口が滑った。
「ははは。目立ちたく無いという気持ちは分かりますよ。では、正式な発表はこちらで行います。内容は先にお伝えできると思います」
「はい。ありがとうございます」
結局、二人に丸投げした形になってしまったので、本気の感謝を込めてお礼を言う。
「では、私たちはこちらに用があるのでこの辺で」
「了解です。ではまた……」
「またな九十九!今日は助かったぜ」
こうして、その日は無事に自宅に帰ってこれた。
帰ってきて時計を見ると、夕方5時を回っていて驚いた。葵も無事に帰ってきていたようで、リビングのソファで寝落ちしていた。
……そういえば、ルナを葵に任せていたっけ。なのにダンジョン内で喚び出せたってことは、従魔召喚に距離の概念は無いってことだよな。
なんて便利。
「…………はぁ、俺も一休みしよう」
葵の姿を見て安心したのか、俺は再び強い疲労感に襲われた。寝室に入るなり、ベットに倒れ込む。
――そして冒頭へと戻るのだった。
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