episode52 : 青藍の試練 真

――従魔強化


 反撃の合図は、俺の全体強化になる。神を相手に出し惜しみはなしだ。


――水晶壁クリスタルウォール


「助かるのじゃ!――狐火・地獄炎」

――ウィンドインパルス


 ハクの炎にベクターが風魔法を合わせる。


「――空間断絶」


 しかし、迫る大魔法は裂かれた空間に当たると霧散してしまった。

 あの機械人形でさえ直撃を耐えることは出来なかった攻撃を、神はたった一振りで相殺する。


――空間圧縮

――ウィンドエッジ


 ルナの防御不可魔法。そして逆サイドからイーグルの風魔法。


「…………」


 表情一つ動かさない神だが、それでも初めて回避行動を見せた。数メートルの左右移動。されど俺たちにとっては大きな一歩。


「空間魔法ではルナに分があるかも」


 空間断絶を行わなかったのは、空間圧縮を防げないからだろう。


「ルナ、もう一度だ」


――クラッグフォール

「合わせるのじゃな!――狐火・火柱」

――ウィンドエッジ

――ウィンドインパルス

――クラッグフォール

――ストーンブラスト


 俺の意図を汲み取った従魔達。


 ブランと俺で空中、ベクター、イーグル、ロックスライムが左右、ハクが地面への回避を妨害。


「――空間ダン


――空間圧縮


 防御のための魔法より早く、ルナの空間圧縮が始まった。直撃させるには魔力が不安定な状況だったものの、広範囲の圧縮に神が徐々に吸い込まれていく。

 動きが止まればこちらの魔法が届く。


「――自己転送」

「……っ」


 今のが、俺たちの今持てる最大の連携と言えるだろう。しかし、その攻撃も神には通じないらしい。


「……テレポートは反則だろ」


 気がつけばさらに上空に移動していた神は、まるで嘲笑うかのようにこちらを見下ろす。

 片手を大きく上げ、開幕同様の魔法……


「――グランドメテオ」


 広範囲かつ、高威力の隕石が頭上より迫る。既に別空間への回避は読まれているこの状況で。

 大変まずい。他の従魔はルナに任せても狙いは俺だろうから問題ない。が、当の本人が回避不能では――


「なんてな」


 笑みを浮かべる俺の手にはメタが変形した大盾。

「ハク!」


――疾走


 俺はできるだけ被弾を抑えるため、ハクを抱えて壁際まで駆けた。直後、隕石がひび割れた地面へと直撃する。


 ピキッ


 開幕のメテオでボロボロになった地面。

 そのヒビが2度目のメテオでさらに悪化する。


 ゴゴゴゴゴゴゴ…………


 して、忘れてはいないだろうか。

 ここが建物の中であることを。最上階の空間であることを。


「落ちるぞ!」

「え?落ちるとはいったい……」


――ズガッ


 どれだけ丈夫な建物であっても、あれだけ高威力のメテオが二度も放たれれば、その形を維持するのは難しい。


 大きな地響きの末、建物の床が崩壊を始めた。


「お主、何を……」

「口を開くな。舌噛んでも知らないぞ」


 俺はその崩壊にしたがって、床の残骸と共に下層へと落下して行った。


「お主はっ、何も反省しとらんのっ?!じゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 残骸と落ちること数秒。

 下に見えてきた光は二層のボス部屋、壊れた戦闘人形が佇む広い空間だ。


 このまま落下すれば間違いなく戦闘人形を潰し、俺も無事では済まないだろう。


「人形が潰れるのは困る。ちょっと無理するぞ」

「ま、まだなにか……」


――空中歩行&疾走


 俺は残骸より早く着地するため、空中で地面へ駆ける。


――目的は戦闘人形の回収だ。


「お主地面がっ!!ぶつかるっ」


 作戦通り残骸より早く地面に到達したが、このままでは速度が殺しきれずぺちゃんこだ。


――影渡り


 勢いを落せないならば、落とさず方向を変える手段をとるまで。


 影に瞬時に潜り、戦闘人形の背後から飛び出す。その際、動かない人形を掴み、残骸の下敷きならないよう移動させる。


「お主!上!残骸が落ちて」

「お前は少し黙ってろ!」


――疾走


 この程度、今の俺ならば避けられる。


 落ちてくる影を見て、的確かつ最低限の移動で落下物を回避。砂煙で人形が壊れないよう、回避する先は選んでいるが。


「……さて、あいつが来る前に終わらせるとしよう」


 残骸の落下が終わり、煙が空間を充満する中、俺は抱えていた人形を地面に仰向けに寝かせる。

 そして、先程受け取った青い宝石を取り出す。


「……それは、確かマキナの記憶だと言っておったな。それがお主の言う作戦なのか?」

「まぁな。確か、宝石をはめる場所がこの辺に……」


 俺が二つに割った宝石が埋め込まれていた場所に、再び青い宝石をはめ込む。大きさが違ったはずが、その宝石が近づくと自動的に吸収され元からそこに埋められていたかのように収まる。


 そして、淡い光を放ち戦闘人形の口が動き出す。


「――記憶こころノ継承ヲ確認。再起動モードへ移行。能力の更新ト傷ノ修復ヲ開始…………」


「おぉ、みるみるうちに傷が治っていく。この機能が戦闘時に搭載されてたら詰んでたな」

「お主!妾にも分かるよう説明を求むのじゃ!」

「見た通りだが?今からお前の仲間が復活だ」


 これが、あいつが言っていた使。わざわざこの場所で、倒しても残る人型の戦闘人形。


「というか、こいつと戦う前に言ってただろ。って」


 いったいどこまで想定してたんだろうか。

 神が自分の身体を乗っ取った後、使であろうところまでは、考えていただろう。


 でなければ、本人の最も高威力な攻撃手段が使いにくい城は造らないはずだし。


「さて、そろそろ戻って……


「――神雷光」

「なっ」


 完全に出遅れた!

 まだ辺りは土煙でよく見えない。煙が晴れるまでは大丈夫だろうと思っていたが――甘かった。


「――水晶へ 間に合わなっ」


 回避するには遅い。防御魔法も間に合わない。

 メタの変形が間に合うかどうか……


「――バックアップ再起動リロード完了」

――多重障壁


 ズドンッッ


 新たな土煙が立ち込め、一時的に俺の視界が悪化する。

 しかし、恐れていた奇襲によるダメージはない。


「ギリギリセーフ……だな」


 俺は攻撃を防いだ手段と人物へ、安堵し小さく笑みを作る。姿は見えないが、続いた声が全てを物語っていた。


「……ふむ、だいたい理解した。貴様が新たなプレイヤー……、いや、であるか」

「まぁ、そういうことだ。バックアップのはずだけど、なぜ知ってる?」

「我の記憶の一部に、知らぬデータが埋め込まれていた。神に侵されてから、主にこの記憶を託すまでの映像だ」


 片手を神の方向へ向け、その先から見覚えのある防御魔法を展開する戦闘人形。先程までの機械的な声質とは違う、既知の音声。


「お、お主は……まさか!」

「この場合、久しい……と答えるべきか」

「妾はさっきぶりじゃ!!よく戻ってきたの、マキナ!」


 壊れていたはずの戦闘人形は、その中身を新たな戦力に生まれ変わっていた。


『従魔の誓いが発動しました。

 オーディネンス・マキナとの契約が完了しました』


「復活早々悪いが、早速仕事がある」

「神の討伐か。我の元の身体を破壊するというのも、中々意外性があって面白い」


 見た目は美少女なマキナが、その姿に似つかわしくない悪い顔をする。戦闘狂というより、新しくなった己の戦闘能力を確かめたい、試したい、そんな表情。


 散々振り回された俺だったが、その表情には好感を持てる。


「――瞬光」


 そんなこちらの会話も、相手方は待ってはくれない。


 煙を貫いて、破壊の光が襲いかかる。


「合わせられるな」

「いいだろう」


――水晶壁

――反射版リフレクター


 地面から生える防御のクリスタル。

 攻撃を防ぐだけの壁が、迫る魔法を鏡となる。


「…………」


 神の表情は変わらない。

 しかし、微かに動きに動揺が見られた。回避するまでのラグは見逃さない。


「ハク!ぼーっとしてないで、そろそろ反撃の時間だ」

「……はっ?!了解じゃ!」

「お前らも、出遅れるなよ」


 厄介で今までで一番最強の相手。

 しかし、相対するためのピースは全て整った。


――神程度に、殺されてたまるか。

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