episode47 : 機械の城
階段を上がり、いくつもの部屋や通路を通り抜け、罠をかいくぐり、更に上を目指し階段を駆け上がる。
途中何度か迷ったものの、数十分で天井のない地上の空間まで辿り着いていた。
「ここは地下迷路って感じだったな」
「妾は地上に立てて嬉しいのじゃ」
「お前が立ってるのは俺の頭の上だ」
四方が壁に遮られ、中央にはたった今上がってきた螺旋階段が埋まっているだけの部屋。天井がないからここが外だと察せるが、密室だったら未だに上への階段を探していたことだろう。
夜の風は冷たいが、それが野外であることをよりいっそう信じさせてくれる。
「扉もないし、上から出るか」
「わ、罠はないか?妾、もうビリビリは嫌なのじゃ」
罠にかかりすぎて少しトラウマとなっているハク。震える毛が肌にあたってくすぐったい。
「跳ぶから捕まってろよ。――空中歩行」
ひとまずこの罠迷路から脱出だ。
空中の足場から壁を越え、外気の冷たい広い場所に跳び出した。調べたところ罠は無かったが、何事もなくあっさり出られてしまい拍子抜け。
着地した地面は柔らかな砂で、辺り一面広がるのは砂漠。俺らがいたのはそんな砂漠にぽつりと建てられた古びた小屋だった。
地下への隠し通路的な、そんな容貌にも見える。
「砂漠エリアか。また無駄に広々とした場所だ。……次の目的地はあそこだろうけどな」
あまりに広く何も無い砂漠。見渡す限り砂の山。
しかし、ただ一つ。
あまりに異質かつ存在感のありすぎる建物が、俺たちの視界に映っていた。
「機械の城だ」
「うむ、城じゃな」
砂漠には不釣り合いも甚だしい、どこかの機械文明の1部みたいな巨大な城がそびえ立つ。
その姿は金属製で、頂上付近にはうねうねと動く機械の触手が生えている。先端からは紅く光るビームを放ち、何かを守っているようにも見える。
また、中央の建物から左右に伸びるアーム、入口と思われる巨大な扉の上に設置されているこれまた巨大なモニター、どこか半分埋まっているような造りの城は立ち上がって動きだしそうな雰囲気を漂わせる。
「あれじゃな。城が変形して動き出すやつ――
「おいっ!口に出したらフラグ判定になっちまうだろうが!!」
慌ててハクの口を塞ぎ、ちらりと城を一瞥する。
……さすがにこの距離なら動かないか。
結局、動く動かないに関わらずあの城に向かう以外の選択肢は無さそうだ。近づいてみて、動き出したなら――壊すまでだ。
「そうと決まればさっさと行くぞ。あ、念の為に罠の確認はしておいて」
『――広域鑑定』
「うわっ」
確認してみてあらびっくり。
砂漠の至る所に赤い点が埋まっている。全て罠ということだろう。
「地雷……っぽいな」
地下で見た赤い罠の表示とは違い、現在見えているのは全て円形の同じ形をしたもの。それも地面の浅い所に埋まっている。
それがおよそ3メートル程度の間隔で均一に並ぶ。
「……踏んだらドカンってか。入口にあったものと同じやつだろ」
「ひっ、わ、妾はここから動かないからの!」
「いいよ。むしろ動くな」
ここは一つ、再びメタに活躍してもらう。
「メタ、悪いが先行してくれ」
抱いていたメタが腕から飛び出し、俺の前に着地すると軽く頷くような素振りを見せた後に城へ進み出した。
俺たちは少し離れて、後ろを静かについて行く。
――ズトォンッ
「…………」
――ズトォンッ
「…………」
――ズトォンッ
メタが進み、地雷が作動し、爆風で砂埃が舞い、俺が着いていく。シュールな絵面が何度か続き、徐々に遠かった城が大きく見えてくる。
無傷だと分かっていてもそろそろメタのことが心配になってきた頃、俺はその存在に足を止めた。
「メタ、止まれ。敵だ」
「な、なんじゃあの数は……」
城の入口を前にして、その前に立ちはだかる数え切れないほど大量の
敵の接近に伴って姿を見せたのだろう。
俺たちがここに来ると分かっていた上での先配置。ゲート下の罠に、発動を感知する別のセンサーでもあったか。
「どうしたのじゃ。お主はあの程度の奴らに苦戦などせぬだろう」
「適当に破壊したいのは山々だけど、この先にも結構な数地雷が埋まってる。下手に突っ込めば爆発で死だ」
「お主も空を飛べるじゃろう?」
「できるが、あれも魔力を消費するんだ。長時間の滞空には向かない。魔力が切れたらドカンだぞ?」
攻める策は、確実に逃げられる策があって初めて可能になる。魔力切れで死ぬんじゃ、それはただの無謀な特攻だ。
「……妾も死にたくは無い。向こうから攻めてくれたら楽なのじゃが」
「そりゃ無理だろ。お相手も馬鹿で無いことは既に理解したはずだ。アイツらの移動範囲に地雷は置いてない…………いや、そうか」
その手があった。
成功するかは怪しいが、失敗してもこちらに被害は無い。試しにやってみる価値がある。
「一つ、案がある」
「妾にも手伝えるものか?」
「あぁ。成功すれば、地雷はほとんど無くなるはずだからな。残りを倒すのは任せる」
「……了解した。妾に任せるが良い!!」
ハクが自信満々に了承し、俺は他の従魔達も喚びだす。
まだ下手に動かれては困るのでその場に留まるよう指示して、俺は思いついた作戦を実行に移す。
「っても、ただの自滅作戦だが」
――挑発
挑発の範囲は皆が考えているよりずっと広い。
まだ見上げずとも城の全貌が視界に入っているくらい距離が開いていようと、城前にいたマシンアッシュ共が全て反応する程度には。
「目が怖いのじゃっ!!」
ずらりと並ぶマシンアッシュの瞳が赤く染まり、一気にこちらに振り向く様子はさながらホラー。俺たちを捉えるとその場から一斉に動き出す。
「このまま地雷を踏んでくれれば楽だが……」
――このレベルの作戦は読まれていることだろう。
俺の予想通り、挑発によって引き寄せられた敵は、ある一定の場所まで接近してピタリと足を止めた。
罠の表示と見比べてみると、上手いこと罠の範囲に入らない位置。
「ど、どうしたのじゃ?なぜ突然止まりおる」
「同じ陣営のやつが仕掛けた罠に引っかかるわけないだろ」
「ではどうするのじゃ?!あぁ、引き返してしまうぞ」
「ま、見てろって」
ゲームでもよくあること。
先に進めないエリアへと無理やり侵入する、最もシンプルな
――挑発
挑発の効果が切れ、身体の向きを反転させ引き返そうとするマシンアッシュに、挑発効果を上書きする。
上書きされた敵は、俺の方向へと再び進もうと前進する。
しかし、自滅対策のための領域に入ることで挑発効果が失われ引き返そうとする。
「お主、これに意味はあるのか?同じことを繰り返しても、あやつらがこちらに来ることは無いぞ」
「それはどうかな。ほら、よく見てみろ」
俺は先頭に立つ一体の足元を指さす。
砂の上には無数の足跡が、徐々にこちらへと近づいている。
「…………まさか」
「そう。奴らが動きを止める領域は既に通り過ぎている。果たして、なぜ設定した領域を通り過ぎてしまっているのか」
なに、答えは簡単。
奴らが侵入を拒む領域に"入った"と検知するコンマ数秒の
そして、"入った"ことを検知するのは侵入不可の領域に触れた
「四足歩行の機械ってのは大変だ。向きを変えるのに侵入不可の領域に
侵入不可だと検知した個体は向きを変えるために若干前へ進む。そして、後方の個体は検知した個体との通信のラグで前へと進み続ける。
反転が完了する前に俺が挑発を上書きすると、――さぁどうなる?
「さてはお主、頭が良いのか?!」
「バカにしてんのかハク。これでも学生時代は……なんか前にもこんな話したな」
今は気にしないでおこう。
それよりも、既に先頭の個体は振り向くのをやめている。
「全ての領域を侵入不可に設定するのは難しい。だから判定を行う領域はそこまで広くない。そのエリアさえ突破してしまえば……」
――ズトォンッッッ
「あとは勝手に地雷を踏んでくれる」
俺はただ挑発を使っていただけ。なんて楽な作業。
どれだけ精巧で高性能な機械を作り上げたところで、外部から無理やり動かす
この手の仕事は任せて欲しい。
バグを見つけるのは昔から得意なんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます