episode48 : 青藍の試練 前編

 そして数分後。

――爆発音が収まってからは早かった。


「お前ら、残りを狩るぞ。まだ離れたところの地雷は残っているから、そこは気をつけろ」


 大量にいたマシンアッシュはその数を五分の一程度に減らし、その程度の数でこちらの戦力を崩すことは出来なかった。


 ベクター、ルナ、ブラン、メタ、イーグルとロックスライム、そしてハク。レベルもスキルも上がり、とても眷属相手に負けるとは思えない。


 眷属の相手は従魔に任せ、俺は一人砂漠を進み城を見上げる距離まで移動した。外壁は金属、繋ぎ目も見られない完璧な技術が使用されている。


 また、城の中からはいくつかの強い反応を感じる。鑑定が通らないよう対策しているのに、これでは雑がすぎるというもの。

 あえて強い魔力を放ちこちらを挑発しているつもりか?


 扉の前に立っても開く気配なし。

 トリガーは眷属の全滅……かもしれない。そんな安直な方法ではなく、何かしらのギミックを解く可能性も捨てきれないが……


――ピッ…………認証完了


「ん?開いた」

「お主、敵は全滅させておいたぞ。扉を見上げて何をしておるのじゃ」

「良くやった。これで先に進める」


 安直な方法だったわ。


 というか全滅させんの早いな。負けはしないだろうが、ここまで早いとは思わなかった。


「このまま侵入するが……、お前ら俺より前に行くなよ。罠に引っかかて死んでも知らないからな」


 俺は慎重に、開いた扉の先に広がる闇へと前進した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 暗闇には慣れっこだ。

 これまでにも地下、洞窟、吹雪と様々な視界不良のダンジョンを攻略してきた。


 先の見えない闇などに屈する俺では無い。


『――広域鑑定』


 しかし、罠を回避するため、頼みの鑑定が機能しないとなると、下手に動くのは躊躇われた。


 ギリギリ同部屋の罠は反応があるのが唯一の救い。


 いつ何が起きてもいいように、メタを腕に抱き抱える。


「ブラン、明かりをよろしく」

――ライト


 光によって顕になった城の内部は……


「城と言うよりどこかの研究所のようじゃな」

「それ、俺のセリフ」


 薄水色のタイルで埋め尽くされた、味気のない通路。

 天井に等間隔で空いた穴は、電球をはめる場所か。


 入口を真っ直ぐ進み、T字路の突き当たりまで進む。

 左右に伸びる通路へ顔を出すと、謎の小さなロボットが巡回している様子が確認出来た。


 さらに通路の両脇にいくつかの部屋とガラス張りの窓が見える。反射の関係で内側までは分からない。

 しかし扉の上にルームプレートがあり、そこには『第1実験室』『第2実験室』とご丁寧に書かれている。


「実験って……、本当に研究所みたいだな。内容までは知りたくもないが、試練の奴はどこにいる?」

「な、なぜ妾の方を見るのじゃ……?」

「やっぱり使えねー」

「ぐぬぬ……」


 適当な雑談を挟みつつ、通路先の様子を窺っていると、巡回するロボットの一体がこちらへと向かって進んで来るのを発見。


 一度見つかってみるのも悪くないが、それはあまりに危険。調べるなら動きを封じた後で。


「お主お主、あの飛んでいる機械の目の上を見るのじゃ!」

「ん?目の上……?」


 ハクの言う目とは、ロボットの正面に付けられたカメラのこと。ヒトツ目の部分がカメラになっているのだ。

 そしてその上部、発見されない距離で一瞬覗き見ると、見た事のある青い宝石がハマっていた。


「あれは、先程戦った奴らにも付いていたものじゃろう」

「あれも眷属……なのか?」


 壁越しには意味が無いため、もう一度見つからないよう鑑定を使用する。


【――マシンサーチLv???――】


 レベルが不明。

 レベル不明なのは、相手に戦闘力が無いからだろう。捜査・追跡することが目的の機械。


「あの宝石が動力源ってことだろ。あそこを壊せば機械が壊されたことと同義。ハク、狙えるか」

「……っ?!勿論なのじゃ!コッチに来る前に壊して見せよう!」


 ハクは嬉しそうな表情で飛び降りると、人型に変化してスキルを使う。


――化けの術・透過


 姿が見えなくなったハク。

 それで破壊しに行くつもりかと。


 そう尋ねる前に、こちらへ移動していた小さなロボットが弾け飛んだ。残骸が俺の前に転がってくる。


「どうじゃ!!妾も役に立つじゃろう!」

「……はいはい。よく出来ました」


 変化を解いて俺へと抱きつくハク。俺がため息混じりに頭を撫でてやると、これまた嬉しそうに尻尾を振った。

 褒めて欲しかったのか……。


 中身は何百歳の狐のはずなのに、見た目の影響も伴って今はより幼く見える。


「しかしだな。アイツらが異質物の姿で判断していたから良かったものの、もしも温度センサーとか魔力センサーだったら見つかってたんだからな。あんまり考え無しに突っ込むのはやめろよ」

「……うっ、そうじゃな。すまぬ」

「次から気をつけろよ」

「なんじゃか、お主に言われると微妙な気持ちじゃ」


 ……それは、俺が考え無しに突っ込んでいると言いたいのか?そんな目線をハクに向ける。


 当然、顔を俺の服に埋めたハクへは届かない。


「他のロボットが来る前に移動する。召喚しといて悪いが少し戻っててくれ」


 これだけ狭い通路で従魔たちを連れての移動は厳しい。

 ハクとメタを残し、一度別空間へ待機しててもらう。


 そして、たった今倒したロボットに従い右側の通路へと進む。T字路の先にT字路。そこを左に進むと右への曲がり道。

 その先にまたT字路と続く。


 途中、二回ほどマシンサーチと遭遇するも、倒し方が分かる相手に失敗するはずがない。


「また分かれ道。ここは右で」

「お主、さっきからあまり迷わずに移動しておるが、正しい道なのか?」

「まぁ、初めは適当だ。けど、外で感じた魔力の気配を感じたから、強くなる方に進んでる」

「……妾には感じぬが」


 鑑定には映らないし、実際勘と何も変わらない。何となく、『こっちに何かありそう』と感じるだけ。


 しかし、俺は割と自分の勘を信じている。

 今までもこれで助けられてきた。


「まぁ、近づいてることがイコール上への階段だとは限らないがな」


 そんな風にして、勘だけを頼りに迷路な城内を歩くこと数十分。変わらぬ景色に飽きてきた時、


「お、階段だ」


 前方に上下階へ進む階段を発見。

 地下もあるのか。面倒だ。


「さて……、どっちが正解か」

「お主の勘はどちらじゃ」

「魔力の気配は上なんだけども、それが罠の可能性も充分有り得るぞ」


 魔力遮断の壁のせいで、外から感じた複数の気配は分からない。感じられるのは一番近くの強い気配のみ。


「定番は最上階だな」

「妾もそう思うぞ」

「じゃあ上か」

「賛成なのじゃ」


 結局、大した理由もないまま、俺たちは上階への階段を駆け上がった。



「っ、――影渡り」


 階段を上がった直後、前方から放たれる毒矢を影に入って躱す。


――疾走


 恐らくはセンサーだろうと想定して影から思い切り空中に飛び出した。


「うげ、広っ」


 二階は巨大なホールになっていて、円形の空間の壁際には大量の発射装置が埋め込まれている。地面に着地すれば、どこにいても毒矢か飛んでくる仕組みだ。


「……んで、地面に着地することなく、あいつを倒せってか」

「そのようじゃな」


 その部屋に待ち構えていた魔力気配の正体は、宙に浮かぶ蛇型の機械だった。


【――ドラゴマシンスネークLv110――】

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