episode31 : まさかの三人目

「この武器屋は僕の実家だよ!父が鍛冶師なんだ。僕はこの通り、たまにここで手伝いをしてる」

「なんというか……、意外だ」

「そうかい?」


 俺は接客用の服装をした翔を何となく眺めやる。


「あぁ。その見た目とそのキャラで、案外武器屋の店員として様になってる」

「そこっ?!てっきり似合わないって言われるかと思った」


 似合う似合わないは分からないが、"接客"という分野においてはこれ程適した人材もそう居ない。


 外で手招きしているだけで人が入りそうだ。


「えっと……お兄さん、お知り合いですか?」

「あぁ。昨日、ダンジョン攻略で一緒だった、遠野目翔だ」


 思わぬ遭遇に、彼女のことを置いてけぼりにしてしまった。ひとまず、買い物ついでに紹介しておく。


「どうも、遠野目翔だ!!あ、お会計はこちらです。九十九君の友達ってことなら、少し安くしておくよ!」

「えぇ?!いいんですか……」


 なんとまぁイケメンな対応。

 翔の周りだけ、やけにキラキラと輝いているようだ。


「いいよ!見ての通り大繁盛…………では無いんだけど、むしろ滅多に来ないお客様だから。少しはサービスさせて!」


 そう店内を寂しそうに一瞥する。

 店は綺麗に整頓されているし、並んでいる武器は高品質でどれも高性能。値段もちょうどいいし、何より店員がこれなら繁盛しててもいいはずだ。


 しかし、確かに現実として表にあれだけ人通りがありながら、この店にはあまり客が入っていない。


 覚醒者の母数が少ないからという理由では無さそうだ。


「何かあったのか?」

「あ、悪い人に追い立てられたとか、そういうのじゃないよ。ただ、最近噂の有名な鍛冶師が近くに店を構えたんだ。おかげでめっきり客足が減っちゃって」


 自営業ならではの困り事って訳だ。

 広告に賭けるだけのお金もない、量販店のように店を複数構えることも出来ない。経営って難しい。


「そうか……。そうだ、ちょっと今、俺も武器を探してるんだ。短剣なんだけど、おすすめはあるか」

「それならたくさん……あ、でも、新調するんだったら、オーダーメイドもできるよ。少し値段はするけど」


「お金は気にしなくていい。それより、オーダーメイドってのは?」

 グレーターデーモンの魔石があるから、お金には困らない。それよりも、自分に合った武器が手に入るのなら、そっち方が断然素晴らしい。


「オーダーメイドは、お金と素材を受け取ってその人の要望する形や武器種、魔力の属性に合わせるやり方だ。時間は物によるけど、3日から5日以内には完成するよ!」


 魔力の属性まで変えられるのか。

 俺は物理攻撃主体だから関係ないが、杖なんかは使用者との相性がかなりある(らしい)。


 充分すぎる対応だろうに、繁盛しないのは寂しいな。


「そうか。なら頼んでもいいか?素材ってのは、魔石の事だよな?これでいいか」

「うん、魔石で大丈夫……デカっ?!えっ、これどうしたの?!に、2級?!」


 あ、そういや翔は知らないのか。

 何となく赤崎さんと同じ対応をしてしまった。


「あーー、あんまり聞かないでくれると嬉しい」


 5級の俺が2級の魔石を持っていれば、そりゃ疑問に思うのが普通だ。なんなら怪しすぎる。


「何か事情があるんだね?大丈夫!僕は口が堅いんだ!」


 俺の申し出をあっさりと受け入れた翔は、腰に手を当ててドヤ顔で答える。


「ありがとう。じゃあこれで短剣をお願いするよ」

「おっけー!5日後には完成すると思うけど、どうする?僕が連絡しようか」

「お願いするよ」


 そう言ってスマホを取り出す。

 俺は翔との連絡先を交換し、完成次第連絡することを承諾した。彼の性格なら、変な時間に連絡はしてこないだろう。


 しかし約5日か……。

 紅の試練は武器が完成してからだな。


「んじゃ、俺たちはこの辺りで失礼するよ。店番、頑張って」

「二人ともありがとうございましたー!」



 武器屋を後にした俺は、そのまま魔道具専門店へ移動する。


「それにしても、面白い人でしたね」

「ん?翔のことか。俺も昨日知り合ったばかりだけど、確かに面白い……良い奴だと思うな」


 あんなにイケメンな善人は中々いない。


「ところで、今はどこに向かっているんですか?」

「魔道具を売ってる店。魔道具の中には、所持してるだけで機能する優秀な物があるんだよ。初めてのダンジョンなら用心するに越したことはないからね」


 魔道具とは、別名アーティファクトとも呼ばれ、その種類は様々ある。自動防御系、攻撃バフ効果、敵へのデバフ効果、大きな結界を張るもの、中には戦闘人形まで、数え始めたらキリがない。


 今回買いたい魔道具は、比較的小さな装飾品。御守りのような物で、身につけているだけで敵の攻撃のダメージを抑えてくれたりする。


 回避になれていない後衛にはもってこいの装飾品で、ダンジョン初心者が初めに揃えるべき装備品TOP5に入る。

 

「魔道具…………初めて聞きました」

「覚醒者以外には馴染みがないかもね。これがあるかないかで難易度に大きく影響するから、覚えておくといいよ」


 かく言う俺は、今まで魔道具を使った事が……ないか?

 高価すぎて買ったことは無いけど、使わせてもらったことが何回かあった気がする。


 それこそ、たまに平原とかのダンジョンで使われる煙幕も魔道具の一種だし。


「着いたよ。ここが魔道具専門店。置いてあるのは全部魔道具だ」


 お金が無いときは、この前を通り過ぎる時に中を覗いて羨むことしか出来なかった店。

 今でも買えない値段の高価なやつもあるけれど、ほとんど手の届く範囲になった。こんな場所で成長を感じるのは俺だけかもしれないな。


「こればっかりは見た目より性能重視で選ばないとだけど……、良さそうな効果のやつがあれば」

「わー!これ、葵に似合いそうですよ!!こっちはこの間葵が持ってたアクセサリーに似てます!」


 ……ダメだこりゃ。


 仕方ない。ここは俺が選んで買っておこう。


 先に行ってしまった彼女の後に続き、俺は並んでいる魔道具をゆっくり見て回る。それなりに賑わっている店内だけど、高価な物を売る店だからか隅々まで綺麗に整頓されている。


 保温魔法瓶、発火粉、……閃光玉?

 火のいらないフライパンなんてのもあるのか。待て待て、絶対曲がらないスプーンってなんだ。


「雑貨コーナーって、さすがに内容雑すぎるだろ」

 便利グッズをこんな場所に売るな。


 雑貨コーナーを抜けると、次は装飾品がずらりと並ぶ。

 これこれ。これを求めてたの。


 攻撃に火属性を付与する腕輪、魔法を強化する指輪、闇属性耐性の上がるネックレスに、……あった。魔法攻撃の被ダメージ(受けるダメージ)を減少させる御守り。


 目的の物を見つけ手を伸ばす。

 すると、隣から同じく伸びた手とぶつかる。


「あ、すみません」

「いえいえ、こちらこそすみま……あら?」


 先に気がついたのは相手側。


「九十九くんですよねー!私です、夜見ですぅ」

「覚えてる、夜見さん。昨日ぶりだ」

「そうでしたねー。気がついたらダンジョンの外にいたので……、起きた時には既に九十九くんはいませんでしたし。案外のですね」


 5級が先に起きていればそりゃ疑問に思うか。

 でも、ランクが低くても状態異常に高い耐性をもつ覚醒者はそれなりにいる。誤魔化しはいくらでも利くか。


「それより、今日はどうしたのですかー?」

「あぁ、ちょっと攻略の準備を」

「そうなのですかー。色々お忙しそうですね」


 何とも不思議な雰囲気の女性だ。

 天然……とも言える。ふわふわした喋り方は、こちらまでその雰囲気に呑まれそうになる。


「夜見さんこそどうしたんだ?なにか探してるのか」

「はいー。隠密効果の高い煙玉を」

「煙玉……?あぁ、煙幕のことか。それならあっちにあったぞ」

「本当ですか?ありがとうございます」


 俺は来た通路の方向を指さした。

 煙幕を雑貨コーナーに置くのもどうかと思うけど。


「それではまた」

 まったりとした動きで頭を下げ、そのまま通路奥へといなくなった。


 ……そういえば、年上だって言ってたよな?

 なんで俺は敬語じゃないんだろうか。本人が気にしていないようだから良いけども。

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