episode28 : 滅紫の試練 後編

 まず攻撃を先制したのはサタン側。


 サタン本人を守るように展開したグレーターデーモンらが、いっせいに重力波を使用する。

 眷属だからサタン本人の技も使えるらしいな。


 しかし、魔法はメタがメタである……ってな。


「――武具変形"大盾"」


 ルナ

――トリックルーム


 空間に亀裂を作ったルナ。

 その中へ、ベクターが一緒に入っていく。


 ルナ

――影結び


 ベクター

――ナイトメア


 突然、複数のデーモンが苦しみながら倒れ伏す。縦に分断されるデーモンも現れた。

 あいつら……、別空間から好き放題やってんな。


 イーグルは、飛べないブランを掴んで空を縦横無尽に飛び回っている。掴まれているブランはと言うと、不慣れなはずの空中で的確に光魔法を放っていた。


 ……仲良いのかあの二匹。

 それともあの戦法にハマったのか。


 効率いいし、文句は無いけどさ。


「俺らも頑張らないと……なっ!!」

 従魔の活躍ぶりに賞賛しつつ、左右から挟襲するデーモン共の首を刎ねる。


――疾走


 どうやら、あいつが召喚する眷属を倒すと経験値が入る。この戦闘だけで俺のレベルもかなり上がっていた。


 急所突なしでデーモンを一撃。

 ……首を刎ねてるんだから当たり前か。


「俺も敵を一掃できるスキルが欲しい」

 今の俺はAIGとSTRを最大限活かしたゴリ押ししかできることがない。こんな風に複数相手はやや苦手だ。


「うわっ?!なんだロックスライムか」

 魔法で無双する従魔を羨んでいたら、ロックスライムが俺の頭の上に乗っかってきた。全く重くないのは、ロックスライムも重量制御のスライム心を持っているからだ。


「どうした?…………あぁ、こうすれば魔法攻撃できるって?はは、慰めてるのか。ありがとな」

「ピュイ」


 しかしまぁ、なるほど。

 確かに、そこからなら俺の指示にもサポートも素早く対応できる。……振り落とされなければ。


「落ちたら助けられないぞ?」

「ピュイ!」


 謎の自信に溢れた返事が返ってくる。

 本人がいいってならいいけど。


「んじゃ、俺らが狙うはボス一択だ」


――疾走


 数が多いが故に動きの鈍いデーモン合間を縫って、俺はサタンまで急接近する。通れない道は、


――クラッグフォール


 ロックスライムの魔法でこじ開ける。


 一撃では倒せないものの、生成された岩に押し出されるから移動に支障はない。


 むしろ、俺が通りすがりに攻撃して倒して行く。


「見つけた」

 グレーターデーモンが減って、喚び出したサタンの野郎の姿を捉えた。


 視線が合う。


 腹の立つその顔からは、余裕の文字が消えている。怒りと焦りに囚われた奴は、もはやボスの威厳など微塵も感じない。


 哀れもここに極まれり。


「……同じ作戦が通用するかどうかは分からんが」


 鎖鎌で動きを封じ、魔法を当てればいい。

 もちろん相手はそれを警戒しているだろうから、一回で決められるとは思ってない。何度もやれば、そのうち。


『成功確率は60パーセントです』

「はいはい、報告ありがとさん。これ以外に方法がないんだから、60くらい当ててやるって」

『成功確率95パーセントの方法があります』

「そんなのあるなら早く教えてくれよ!!」


 賢能の圧倒的遅いアドバイス。

 そういうのは聞く前に教えて欲しい。


『いえ、わざと使用しなかったのかと』

「はぁ?わざと……って、俺の持てるスキルは全部使っただろ!」

『はい。ですから、で戦闘をしているものだと』

「スキルのみって、他に何が………………」


 …………あるわ。


 都合のいいぶっ壊れのが。


 なんで忘れてたんだ。

 前回もお世話になった、アホくさだろうに。


「いやーー、もっと早く伝えてくれてもよかったんじゃないですかね」

『ですから、スキルを……』

「あーーーー!!分かったよ!俺が忘れてただけだよ!悪かったなっ!」


 俺は開き直って叫ぶ。


 短剣をインベントリに収納して、代わりに杖を一本取り出した。


 『クリスタルの杖』


 序盤も序盤、レベルも30程度の魔物からドロップした杖が、まさかここまで来て未だ使えるとは。


 杖を天に構え、いつものように魔力とイメージを注ぎ込む。先端が紅く光り始めたところで、狙いを定めて……。


「グレーターデーモンが邪魔だ。ブラン、頼む!」


 サタンへの攻撃を察知されたのか、数匹のデーモンが奴と俺の射線の間に割り込む。


 ちょうど近くを旋回していたブラン達にお願いして、光魔法で蹴散らしてもらう。


「さて、試練とやら。これでチェックメイトだ!――火炎球×10!!」


 紅い光から光線が伸びる。

 その先に火の球が10個、サタンを取り囲むように生成される。


「何だこれは?こんなものに引っかかるバカなどおら…………待て。火炎球だとっ?!」


 あれ?いつものボス見たく、「こんなもので我を倒せると思ったか――!」的な反応を期待してたんだけど。


 何やら俺の言葉に過剰に反応するじゃないか。

 さてはこの火炎球を知ってるのか?


「ま、どうせもう避けらんないけど」


 大慌てで火の球から距離を取ろうとするサタンを眺め、俺は最後に一言、終幕の言葉を告げた。


「――爆ぜろ」


 瞬間、玉座の間を飲み込むような火炎と爆風が、全てを燃やし尽くした。


『ボス――【試練】デモンズサタンを倒しました。

 滅紫の試練の終了を確認。

 "紫の資格"を獲得

 滅紫のルーンを獲得

 称号:"悪魔殺し"を獲得』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…………全員、無事か?」


 瓦礫の山からひょっこり顔を出す。


 崩れ落ちた天井が敷き詰められ、危うく影の世界に取り残されるところだった。


 従魔やら攻略隊のメンバーやら、色々巻き込みかけたけど、そこはルナが察して匿ってくれていた。なんて良い奴。ルナティック狂気じみたなデーモンだとは思えない心の持ち主だ。


 かく言う俺も、メタがいなければ自分の放った地獄の業火(自滅)に巻き込まれて死ぬとこだった。


「サンキューなメタ」

 今回の戦いで一番のMVPだろう。


 なんてったってこいつが居なきゃ俺は何度死んでいたか分からない。魔法無効刺さりすぎ。


「×10はやりすぎたな。ゲートは無事か?」


 俺はボロボロで悲惨な部屋を見渡して、呆れと焦りを露わにする。ゲートが消滅したなんて話は聞かないし、無事だろうけど。


 ボスを倒したからダンジョンの崩壊もそろそろ始まるだろうし、早く探し出さないと生き埋めだぞ。


「イーグル、千里眼を頼む」


 ゲートの魔力に反応してくれればいいんだが……。


 城の奥に魔物の気配はある。

 近くに反応は…………あった。玉座の下?


 試しに横から押してみる。

 ……が、ビクともしない。


 同じように後ろや前から押してみるも、玉座が動く様子はない。


 この下に反応があったのは間違いないんだ。


――壊すか。


「――武具変形"ハンマー"」


 あーよいしょっ!!

 バットを振るみたいにハンマーを適当に横振りした。


 ゴシャァッッッと音を立てて破壊され、その下に空間が現れる。よく見る玉座の下に新たな通路が――ではなく、玉座そのものがこの空間を塞いでいた。


 ご丁寧にゲートが上手く収納され、地面には大きな魔法陣が描かれている。あれが奴が言ってた転移魔法か。


 術者が居なくなって効力を失っているが、こんな場所に自然なゲートができた?

 明らかに意図的に作られた位置にあるぞ。


「あいつ、主がどうのって言ってたしな。聞きそびれたけど……ま、後で考えればいいや」


 さすがに疲れた。

 攻略隊のメンバーが目を覚ます前にダンジョンから出ておこう。その後のことは…………赤崎さんに頼んでみよ。


「ルナ、もう少しだけその人たち任せる」


 異空間便利だなぁ。

 俺はインベントリがあるからあんまり需要ないけど。


 とりあえず、帰ったら寝よう。

 そんで、それから戦利品とかステータスの確認をしよう。


 集中力を使い果たした俺は、余計なことを後回しにしてゲートを潜りダンジョンを後にした。


 この後に訪れる、全ての面倒事から目を背けて……。

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