episode27 : 滅紫の試練 前編
従来、ゲームでは後衛職と前衛職は対の関係にある。
防御と攻撃が高い前衛。攻撃は前衛より強いが防御面が不安な後衛。味方が複数いる場合には、上手く編成して前後バランスの良い形に。
単VS単ならば、遠距離は後衛に分があり、近距離に持ち込めれば前衛の方が有利と言える。
つまり、作戦というのはその都度状況に応じて変えていくのが一般的だろう。
ところで、俺は前衛か?それとも後衛?
魔物使いと言う職業に就いている以上、戦闘は従魔に任せるのが俺の勝手なイメージだ。ならば後衛?
しかし、元々一人で戦ってきたが故にスキルや得意武器は前衛に寄っている。
果たして、俺の戦い方はこれで正しいのだろうか。
「――ブラックアウト」
――影渡り
盲目へと誘う闇を、同じ闇に潜り躱す。
空という三次元を相手に、影という同じく三次元的空間で対抗する。
「――魔力波」
「――武具変形"盾"」
奴の魔法攻撃は通用しない。
が、もし一撃でも喰らえば致命傷になりかねない。
――空中歩行&疾走
「イーグル!!ルナ!」
――ウィンドエッジ
――空間圧縮
空中へと移動する俺の隙を、従魔達が補う。
空間圧縮は当たれば倒せるんだろうけど、当たらねぇんだこれが。魔力の動きを読まれているのか、案外あっさり避けられる。
だからそっちは囮に使う。
「――武具変形"ハンマー"」
それをさらに重量制御で一撃を重くし振り下ろす。
「――守護の大盾」
「ちっ」
しかし、現状物理最大火力は巨大な魔力のシールドで弾かれるのみ。どこでも自由に展開できる圧倒的物理遮断性能は、俺が苦戦を強いられている最も大きな原因だった。
反撃される前に急いで地面へ着地する。
あれだけ大きな隙を晒しても追撃が来ないのは、あの大盾は展開時に他の行動が取れないという弱点が存在するからだ。
覚醒した奴はスキルまでも進化を遂げ、ただの盾が大盾になり防御範囲が格段に上がった反面、取り回しは悪くなった。
それにより俺は安全に地面へと着地できる。
弱点に助けられ、強みに邪魔される。結局、今の攻防で失ったのは俺の少量のMPだけ。
「無駄だとなぜ分からん。同じ手では我には届かぬぞ!」
「お前の攻撃も効果ないけどなっ!!」
――空中歩行&疾走
最大火力がダメならば、細かい連撃を加え続けてみる。
疾走で加速したまま、敵を切っては反転し、また飛び出しては切る。一度疾走の効果が切れるまで、これをひたすら繰り返す。
「……ぐっ、小賢しい…………邪魔だ!!――魔力波動弾」
「ルナ!!」
やはりこれもかなり厄介。
他の魔法と比べてあまりに威力、範囲が違う。俺は速攻メタを大盾に変えて防御し、他の従魔はルナのトリックルームで別空間に回避させる。
発生までにやや時間がかかることを除けば、回避不能の一撃必殺と言える。
ルナの気が利く点として、未だ夢の中に囚われている攻略隊のメンバーもこっそり回避させてくれるとこ。
……彼らの存在忘れてた?
分かる。俺も。
空中に生成した足場で踏ん張り、一撃を乗り切った後は、間髪入れずに攻撃。俺の連撃にイーグルが合わせてくれる。
いつの間にかイーグルが覚えていたスキル――
魔力で爪を覆い、さらに先へ伸ばすことで攻撃範囲も少しだけ広がった。空中からの疾走と組み合わせるとかなり凶悪な、鳥型魔物にピッタリの攻撃手段だ。
俺の攻撃と交互に、魔法を使う暇を与えない。が、速度の違いからか全然当たっていない。
サタンはデフォルトで飛んでるからな。せっかくの空中有利もこれじゃ意味が無い。
大盾は使われないけど、俺の攻撃も決定打にはならない。よく見ると傷が付いているものの、直ぐに修復されていく。自動回復持ち……ってわけか。
無限回復に、有効打なし。
こっちも大した痛手は受けないものの、さすがに疲労が溜まってきてる。いつ致命的なミスを侵すかもと冷や冷やする。
くっそ、俺の攻撃は回復されるし、イーグルの攻撃は当たらないし…………
「
はいストップ。
あいつ、俺の攻撃はどうして避けないんだ?
もっと言えば、なんでイーグルの攻撃は避ける?
……さては、
「全員攻撃しろ!」
一度俺は下がってあいつの分析をしてみる。
どこかに、理由があるはずだ。
「ナンダ?もう疲れたのか。従魔をけしかけたところで、結末は変わらんぞ!!」
「うるせぇ、黙ってそいつらの相手をしていやがれ」
イーグルが背後から双爪撃の奇襲。
――回避。
ベクターの遠距離からのウィンドインパルス。
――回避。
ロックスライムの土魔法で近づいたブランの尻尾毒攻撃。
――回避せず。
ルナの最大火力(今のところ)空間圧縮。
――回避。
落ちるブランを旋回して捕まえたイーグルが、ブランの光魔法をサポート。浄化効果付きのサンバーストを放つ。
――回避。
「……へぇ」
俺はそこまで見てひとつの仮説を立てた。
――疾走
「サポートしろ!」
その指示に、ロックスライムが見事な足場を作り上げる。ルナとベクターが魔法で牽制する。
――影渡り&急所突
イーグルが俺の攻撃に合わせて連撃に参加。
……やっぱり。
「お前」
俺の攻撃は受け、イーグルの
「魔法だけ避けてるな?」
「…………だとしたらなんだ」
すれ違う瞬間、睨み合った俺らは互いに悟った。
――この戦い、終幕は近い。
「――武具変形"鎖鎌"」
岩の上に着地し、変形させたメタを全力で投げる。
左手で鎖の先を持って。
「避けるなよ」
魔法に負けない速度でサタンへと達した鎖鎌は、肩を切り裂きながらその腕に
「鬱陶しいヤツめ!!なんだコレはっ」
――ストーンブラスト×5
動きを封じれば、それがどれだけ一瞬であろうと見逃さない。これだけ撃てば一撃は入るだろう。
「死ね」
「くっ……そぉぉぉぉぉぉ!!!――眷属召喚んんんんっっっ!!」
最後の最後、ギリギリのところで奴は再び眷属召喚を使った。そして俺の放った攻撃は、空中の陣からはい出てきたグレーターデーモンに当たって消滅する。
「しぶといやつだ」
メタを短剣の形に変化させ、俺は地面に着地。
今の攻撃でダメージを入れられなかったのは少々痛い。
とはいえ突破口は見えた。
うじゃうじゃと湧いてでるグレーターデーモンは従魔に任せて、俺はサタンを相手に……
「調子に乗るなプレイヤー!!まだ終わらんぞ、――眷属強化ぁぁぁっ」
あいつから常に感じていた濃く嫌な魔力の波長。
それが召喚されたグレーターデーモンにも伝わっていく。
『――広域鑑定』
『【眷属】グレーターデーモンLv115+10×30』
全員二つ名持ち……、しかもレベルにプラス値が付いている。
妙な強化スキルだな。
「賢能、あれ、俺にもできるか?」
『回答不能な質問です』
「そりゃそうか」
レベルを上げれば同じようなスキルが手に入る……とすれば、是非とも欲しい。
現状でボスも相手にできる俺の従魔を、さらに強く出来れば俺自身の強化に繋がる。
「ちょっと強いが……やれるよなお前ら」
俺が視線で確認すれば、何となく余裕な感情が読み取れた。表情も言葉も分からないのに、何故か意思疎通が取れる謎。
今更疑問に思っても仕方ない。
仲間に頼るということにも慣れてきた。……指示は俺が出してるし、従魔だから仲間とは違うのか。
どっちでもいいが、一応、魔物使いらしい戦い方にはなってきたと思う。
た、たぶん。
「行け」
俺の合図とともに、全員が駆け出した。
――最終決戦と行こうじゃないか!!
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