episode26 : 第一形態は前座

――魔力波動弾


 高濃度の魔力を圧縮に圧縮を重ね、それを瞬時に解放することで周囲にとてつもない魔力波を放つ、広範囲への攻撃的スキル。


 自身が召喚した眷属や、影渡りのために生成した岩、その他諸々全てを吹き飛ばす。


 直撃すれば身体が粉砕していたかもしれない。


 かと言って回避出来る場所はなく、回避できたとしても、その結末は攻略隊の全滅を意味する。


 あの一瞬の判断で盾を作り出した俺を褒めてやりたい。


『さすがです、マスター』

「………………はぁ、はぁ、俺……煽られてる?」


 というか、賢能っていつから俺の事マスターとか呼んでたんだ。


 飛んできた瓦礫の山から起き上がった俺に、賢能が煽るような発言をする。


 こっちは命懸けで戦ってんだぞ。

 というか絶賛死にかけたんだがっ?!


「全員無事…………」


『個体名デザートイーグルが倒れました』


 安否確認より早く、そんな表示が真実を告げる。

 防ぎきれなかったか……。


『再召喚致しますか?』

「…………少しでも悲しくなった俺の時間を返せ。もちろん"はい"だ」


――召喚


 消えたはずのデザートイーグルが再びその姿を現す。

 その変わり俺の魔力が減った。


 従魔は魔力を消費すれば何度でも蘇る?


『新たな称号の獲得。

――"再召喚の恩恵" 再召喚を行った従魔の能力値上昇(永続)』


 うわっ、ぶっ壊れ称号だ。


「魔力さえあれば無限湧きに、倒されればそれだけ強くなる……。もう無敵では?」


 他の従魔は自身でしっかり防いでいる。


 倒されたデザートイーグルには悪いけど、かなり優秀なスキルを手に入れられた。


「まぁ、だからって死ねってのはちょっと良心が痛むから……。強い魔物と戦闘になった時のご褒美にでもしておこう」


 俺は守ってくれたメタに感謝し、もう一度短剣に変形させる。


「あれを防ぐか……。やはりプレイヤーは生かしてはおけぬ」

「お前ごときには殺されねぇよ。それに、お前のレベルが高いおかげで俺はまだまだやれる」

「ふん、その強がりがどこまで通用するか……見ものだな」


 ようやくその場から動き出したサタン。

 自身が傷ついていないからか、未だに余裕そうな様子を見せる。


 その余裕がお前を殺すんだ。


「全員俺に合わせろ」


 ただそれだけを指示して、俺は正面から奴とぶつかる。


――疾走


 身体が巨大なせいで振り向く速度が遅い。

 股の隙間を抜けて背後からの一突き。


「効かぬ。――守護の盾」

「お前こそ、同じスキルが通用すると思うなよ」


――急所突


 俺は防がれた右手の短剣を放置し、その下のへと突き刺した。


 ルナ

――影結び


 この瞬間、影とサタンの実体が繋がる。


「ごは……っ、き、貴様っ」

「よそ見していいのかよ」


――影渡り


 ロックスライム

――ストーンフォール


 サタンの頭上に大きな岩が現れ、周囲が影で覆われる。岩に少しでも意識を持っていかれれば、それが隙を生む。


「邪魔な攻撃だ――重力波」

「安直だな、お前」


 "影"そのものを警戒させたことで、足元が疎かになる。


――ストーンブラスト


 すぐ足元から魔法を放つ。

 狙いは足。


「ナンダ?!」


 サタンのふくらはぎに尖った岩が突き刺さる。

 足に力が入らなくなったことに驚いているが、痛覚が鈍いのか?相当な痛みを感じているはずだけど。


「チッ、――眷属召喚」

「お前は逃げるしか脳がないんだな」


 翼を広げ、頭上に飛び上がり、先程自ら消滅させた眷属なるモノをもう一度呼び出す。

 偉そうな口を叩いていた割に、対して強くない。一撃は確かに重たいものの、結局当たらなければどうということはない。


「……本当にレベル120なのか。だとしたらお前」


 上を見上げて盛大に煽る。

 召喚された眷属は従魔に任せているから問題はない。


「き、貴様ぁっ!!!」

「煽りに過剰反応するのも悪い。さっきまでの威勢はどうした」


 なお、俺も煽ってはいるが、このまま持久戦をされると勝ち目が薄かったりする。


 ステータスが二倍になって圧倒しているものの、MPの総量はあっちの方が上なんだ。


 あのまま空中で待機されると厄介。


――疾走

――空中歩行


 早期決着に限る。


「貴様の影は使えぬぞ!!これをどう避ける?――黒炎」


 禍々しく黒い炎が舞い上がる。

 その炎に一瞬触れた天井の一部が焦げる間もなく消滅するのが見えた。


 あれに触れるのはまずい。


「――武具変形"大盾"!」

「灰すら残さん!!」


 空中で回避も不可能。

 ま、もちろん無策で突っ込むようなアホでは無い。


「そんな盾、溶かしてくれる」


 黒い炎が俺を正面に捉え、焼き尽くさんと迫る。

 濃い魔力と嫌な熱さを感じた瞬間には、俺の四方は炎に包まれてしまった。


 しかし……


「プレイヤーを殺した!これで我はあのお方に……」


「――誰だあのお方って?」

「なっ」


 悪いけど、メタル系は魔法無効なんだわ。

 レベル差あるなら、魔法系のボスにはメタルでみがわりは定番だろうが。


「よくやったメタ」

 この盾はメタルスライム製やぞ。


――疾走


「なぁ?俺の質問に答えろよ」

――急所突


 サタンの脳天に向けてナイフのを叩きつける。

 殺すのは話を聞いたあとだ。


 地面へ頭から落ち、あちこちボロボロな状態のサタン。これが悪魔の王?


「…………」

「そうだな。お前の方がよっぽど王様らしい」


 地面へ埋まったサタンを、全ての眷属悪魔を倒して戻ってきた我が軍の一番手ルナが、無慈悲な瞳で見下ろす。


 同じ悪魔だと思われたくないのだろう。


 仮面で見えない表情から、何故か冷ややかな視線を感じた。


「さて……、プレイヤーとはなんだ?いい加減答えてもらおうか」


 俺は刃を突きつけて、顔面を片手で持ち上げる。

 ボロボロな体に反して、その表情はニヤリとおぞましく笑っている。


「ふ、ふはは。ふははははは!!まさかこれっきりで終わりだと思っているのではあるまいな」

「なんだと?」


 今の状況が見えていないのか?それとも痛みでおかしくなったか。

 どう見ても主導権はこちらにある。それなのになんだその余裕は。


――ふざけているのか。


「ふっ、そうだ。いいぞもっとだ。もっと我に怒りを向けろ!!そして抑えるな。その怒気を、その殺意を!!」


 突然そう叫んだサタンは、次の瞬間俺の手元から抜け出し空中へと移動していた。


 瞬間移動した奴は、その羽が淡く光り輝いている。

 赤黒い肌からは血管のような何かが浮き出て、その血がさらに光を帯びている。


「そうです、分かっていますとも創造主マスター!!我はダンジョンの王!!プレイヤーを阻む最初の試練ボス!」


 天を仰ぎ、なにか呟いている。徐々に形が変化し、先程とは比べ物にならない魔力を放つ。

 俺は目の前で起きている不可思議な現象を前にして、何故か冷静な思考を保っていた。


 冷静……とは言わないか。


 これは――そう、殺意。

 あの敵を、絶対に殺さなければならないと言う使命感。その思考が俺の脳を静かに動かしていた。


 今よりもっと強くなるために、力が必要だ。

 葵を、家族を守るために……必要なんだ。


 葵の日常を壊すモノは、誰であろうと――


「――さぁ!第二回戦と行こうじゃないかプレイヤー!!今度こそ、真の我がお前をコロス」

「ぶっ殺してやる」


【――【試練】デモンズサタンLv120――】

『HP/4000 MP/3500

 STR +170(+50)

 VIT +168(+50)

 DEF +60(+50)

 RES +134(+50)

 INT +180(+50)

 AGI +98(+50)


 所持スキル 不明

 称号    不明』

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