episode25 : 優勢

 ギギギギ………………


 リーダーが押した扉が、重苦しい音を立てて動く。


 悪魔の城、ついこの間まで悪魔たちがいたと言うのに、随分と錆びれている。

 知能のある魔物ではあっても手入れは雑なのか。


 俺がそんな無駄な分析に脳のリソースを割いている間に扉が完全に開き、中の主とご対面。


「ようこそ我が城へ。歓迎しよう


 玉座に鎮座するは、入ってきた俺を見てニヤリと笑った。



「な、魔物が喋った?!」

「こ、言葉が分かるの……?」


 こちら側のメンバーがまず抱いた感想がこれだ。

 俺には表示ボードの翻訳によって話しかけてくる魔物との会話ができていたため、すっかり忘れていた。


 魔物は話せるが、俺たち人間には分からない言語で話す。


 こうして直接人間の言葉にほんごで会話出来る魔物は初めてなんだ。


「皆さん惑わされないでください!奴は魔物です。構えて!」


 開幕話しかけられたせいで、メンバーの半分が気を抜いていた。リーダーが注意しなければ、そのままやつの会話に耳を傾け続けていただろう。


「ふむ……、が混じっておるな。どれ……」


――威圧


 そんな彼らの行動も虚しく、奴の放つ魔力的圧力で俺を除く全員の体が硬直する。


――魂源催眠


 そしてそのまま意識を失った。

 全員が目を閉じ、動かない。


「雑魚に用はない。貴様らもあんな単純な転移魔法に引っかからなければ、今頃脱出できていただろうに」


 ……転移魔法?

 さてはゲートから出てきた瞬間のあの浮遊感は、こいつの仕業だったのか。

 雪で足が取られただけかと思い込んでいた。


「…………カハッ……はぁ、はぁ」


 既に俺だけだと身構えていたら、唯一、あの催眠から復活した者がいた。


「……プレイヤー以外に興味はなかったが、思っていたより優秀な者がおるようだ」


「くっ……貴様、何をした!!」

 リーダーが叫ぶ。


 普段丁寧な人が怒鳴ると、なんだか違った迫力がある。


「――重力波」

「ごは……っ」


 指先から放たれた紫色の魔力が、いとも容易く1級の身体を吹き飛ばす。


 発動までが早いっ。


「な、何が…………ぐっ」


 壁に激突したリーダーは、剣を支えにかろうじて立ち上がった。しかしそれ以上は動けない。


 対面する彼らの間には、圧倒的な力の差が存在していた。


「貴様はそこで見ているがいい」


 ゆっくりと立ち上がった黒い影。


 窓から差し込む僅かな光に照らされて、その赤黒い皮膚が存在感を増す。

 頭から生えた二本の角、真っ赤な瞳、俺の2倍はある身体、そして真っ黒に光る特徴的な翼。


『――鑑定』


【――デモンズサタンLv120――】

『HP/3400 MP/2800

 STR +170

 VIT +168

 DEF +60

 RES +134

 INT +180

 AGI +98


 所持スキル 不明

 称号    不明』


――強い。

 明らかにここまでの魔物とは別格。


 鑑定スキルでも見抜けない部分がある。今までこんなことは無かった。


 魔法やスキルを妨害する何かを持っているな?


「さて、改めて。歓迎しようプレイヤー!!我はデモンズサタン、貴様の成長をだ」


 明確に、俺だけを見てそう言った。


 狙いは初めから俺か。


「……さっきから言っているプレイヤーとはなんだ」

「…………貴様、それは本当に言っているのか」

「?質問しているのはこっちだ」


 俺の返答が気に食わなかったのか、サタンの表情が一瞬歪む。その後、何か思いついたような表情に変わる。


「それはそれで好都合……か。どうせ我が殺す」


「こっちの質問に……応えろっ!」

――疾走


 このよく分からない会話に苛立ちを抑えきれなくなった。


 短剣片手にサタンへと突っ込む。


「――守護の盾」

「ちっ」


 心臓を狙った一突きだったが、空中に出現した透明な魔力の盾に阻まれてしまう。


 後方に飛び退いて距離をとる。


――クラッグフォール


 敵に攻撃する隙は与えない。


「小賢しい真似を。――重力波」


 生成した岩が、重力波とぶつかり弾ける。

 破片が少しだけサタンへと飛んだものの、かすり傷1つ着いてはいない。


「直ぐに殺してはつまらぬ。ゆっくり遊ぼうでは無いか!――眷属召喚」


 それは俺のスキル"従魔召喚"によく似たスキル。

 奴が叫ぶと、床に現れた闇色の魔法陣から、何体もの悪魔がのそのそと這い上がってくる。


『グレーターデーモンLv115』

 その全てが高レベルかつ上位個体。

 それが計50体ほど。


「お前がその気なら俺だってやらせてもらう」

――召喚


『ロックスライムLv110

 デザートイーグルLv112

 メタLv105

 ブランLv105

 ベクターLv110

 ルナLv145』


 合成回数の少ない初期の従魔たちですら100レベルは超えている。

 上位個体はレベルが上がりにくいがそれでもだ。


 ルナは元々高レベルの悪魔を合成しているおかげか、既にあのサタンよりレベルが高い。

 全体的に見ても、あのウサギ共のおかげでかなりレベルが上がったのだ。


「……貴様も、眷属使いだったか」

「こいつらはてめえの量産品よりよっぽど強いぞ」


 そして俺、九十九涼は――


【――九十九涼Lv95(魔物使い)――】

『HP/1930 MP/520

 STR +167(+10)

 VIT +80

 DEF +86

 RES +68

 INT +71

 AGI +150(+20)


 所持スキル

疾走Lv5 土魔法Lv4 賢能Lv6 威圧Lv5

空中歩行Lv2 自然回復 不屈の精神Lv2

料理上手 影渡りLv3 急所突Lv3

領域保存 自動保存

従魔の誓い 従魔召喚


 称号

強者への報いLv2 強者への挑戦

初めての回帰 聖樹の加護 低層の覇者

魔物ハンター


 耐性

状態異常耐性Lv3

恐怖耐性Lv2』


 とまぁ、長々と表示されているが、スキルもステータスも中々に高くなった。


 合成ができる従魔と比べるとレベルは低いが、その分ステータスポイントやスキル、称号効果によるバフもある。


 サタンがどれだけ強かろうと、俺だって成長してるんだ。――こんな場所で死んでたまるかよ。


「全て殺せ。手加減はなしだ」


 数は圧倒的に相手の方が上。

 レベルも上。


 だが負ける気がしない。


「メタ、――武具変形"短剣"」

 俺が短剣を片手に一本しか持っていない理由。それはメタのスキルを最大限利用するためだ。


「ロックスライム、頼む!」

――疾走

――影渡り

――急所突


 ロックスライムの土魔法で悪魔たちの死角に影を作り出し、後はその影で移動、メタのスキル"硬化"によって強化された短剣を振るうだけ。


 スライムだとバカにしてると痛い目にあうぞ。


 さらにこの影はベクターも同じく利用できるから、その価値はかなり高い。


 俺も土魔法使えるけど、正直MPがそこまで高くないから、任せられるならロックスライムに全て任せたい。


「……危ねっ」

――ストーンブラスト


 が、こんな風に背後から数体の敵に襲われた時は、やはり遠距離の魔法に頼らざるを得ない。


 回避と攻撃を同時に行えたら最高なんだけど……、今の技術じゃ試す気にもなれない。


――ウィンドインパルス


 俺が近接で一体ずつ処理している間、ベクターが上級広域風魔法で5体をまとめて吹き飛ばす。


 壁にめり込み魔石となって霧散していく悪魔。

 蚊を潰すような、そんなイメージ。


 例え小さくて弱くても、一切の手加減なく叩く。


「さすが二番手。火力が化け物級」


 イーグルは空を素早く飛べるという特性を活かして、悪魔たちのヘイトを上手く買っている。背後からの奇襲が少ないのはそのためだ。


 そして、俺の従魔一番手であり今のところ最強。

 ルナティックデーモンのルナは……


――トリックルーム


 影渡りでもワープでもない。

 あれは魔法の一種か。


 空間を切り裂き、その中へと姿を消す。

 するとルナの一切の魔力を感じなくなる。気配も姿もない、完璧な消失。


――影結び


 再び同じ場所に現れた時、近くにいた悪魔の身体が突如として縦に分断された。


 別空間から。対象者の影は、"影結び"によって対象者の実体と繋がっている。


 影を切断すれば身体も真っ二つ。

 防御のしようがない、必殺必中。


 さらに残った悪魔に向けて、指を鳴らす。


 パチンッ

――空間圧縮


 瞬間、悪魔達がいた空間がいっせいに歪む。

 ぐにゃぐにゃと、おおよそ肉体とは思えない形に変形し、最後には破裂する。


 ……正直かなりグロい。

 子どもは閲覧注意だぞ。


 どちらがボスかも分からない、そんな戦い(?)が数分の間続いた。



 数は負けていたが、押しているのは終始こちらの方だった。

 ギリギリ、では無い。

 それはもはや圧倒的。歴然とした力の差に、数など関係ないと言わんばかりの蹂躙。


――空中歩行


 空を飛ぶアドバンテージも、今の俺には関係ない。


 魔法にはそこそこの耐性があったようだけど、それを超える破壊力に耐える力はなかったようだ。


 とはいえ俺一人では苦戦を強いられていたかもしれない。そう考えれば、従魔という存在はありがたかった。


 あらかた片付き、残りは従魔に任せて俺はサタンへと向き直る。


「従魔の方は俺の勝ちだな悪魔さんよ。お前もさっさと出てこいよ」


「……やはり、眷属如きでは相手にならんか」


「眷属が戦ってるってのに、王たるお前は傍観か?」

「あの程度で死ぬようでは、我の相手には相応しくない。ただそれだけのことだ」


 ……いちいち上から目線で、癪に障る魔物だ。

 その見下した態度に腹が立つ。


「だが……、乗り越えた貴様は我が殺すに値する」


 右手に練り上げられた凄まじい魔力。

 立ち上がると同時にその魔力が弾け飛ぶ。


「――武具変形"大盾"っっ!!」


「耐えて見せろプレイヤー」


 咄嗟にそう叫んで盾を作り出した俺を、強烈な衝撃波が襲った。

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