episode22 : 俺だけ5級なダンジョン攻略
自宅の目の前でアウトブレイクが発生した翌日。
現在俺は赤崎さんと通話中。
「やっぱり、異空間魔装置(ダンジョンの発生を事前に察知できる魔道具)には何も反応が無かったんですね」
「"ギルド長秘書本人に問い合せたから間違いない。今回のアウトブレイクは完全にイレギュラーなものだ"」
「ダンジョン攻略はセブンスゲートが担当するんですよね。ダンジョン等級はどのくらいだったんですか?」
「"2級だとさ。それも限りなく1級に近い魔力で、今はギルド内で攻略メンバーを選定中"」
1級に近いダンジョンとなれば、攻略できるメンバーは限られてくる。いくらナンバーズ直下のギルドと言っても、この短期間での招集は難しいだろう。
ま、今回は俺の出る幕はないかな。
「"お、そうだ。実はここだけの話、まだ荷物持ち担当の枠が埋まっていないんだ。その枠はいつも通り外部から低ランクの覚醒者を募集するだろうから、どうだ?今なら俺が推薦もできるぜ"」
……出る幕アリ。
いやいや、別に行きたくないわけじゃない。
2級や1級の覚醒者たちと攻略に行ける機会なんてほとんどないし、それこそ2級のダンジョンに入れる機会は全くない。
5級の俺がそんな機会を得られるなんて、今後あるかも分からない。あまりに貴重すぎる。
けど一方で、ランクの高い覚醒者はそれなりの権力と財力を持っている可能性が高く、一度目をつけられると厄介なことに巻き込まれかねない。
……万が一、何か想定外の出来事が起きて俺のスキルが公になっては困る。
「"というか、正直九十九にはお願いしたかった。今回は特に危険な攻略だと思われる。
「……そう言われちゃ断れませんよ」
赤崎さん、俺の扱いをよく分かっている。
彼の頼みとあっては引き受けたくなってしまう。
「"ま、報酬はもちろん弾む。それに、ダンジョン攻略でお前が前線に出ることはまず有り得ない。その力を使うところはないぜ"」
「だと嬉しいですね。最悪、一人でも逃げてきます」
「"ははは、そうしてくれ"」
1級や2級の最上位覚醒者が来るのだから、そんな杞憂も無駄に終わりそうだ。
さすがに、今の俺でも彼らよりは弱い。
そこまで自分の力に驕ってはいない。
「"時間と集合場所は後で連絡しよう。……つっても目の前だよな"」
「ほんと、勘弁して欲しいですよ。葵の通学路なんですから」
もし葵に何かあったら、俺は単騎でもダンジョンに殴り込みに行っていた。
「"ん?…………おう、今行く。悪い九十九、ちょいと仕事でな。また連絡するわ"」
「はい。情報ありがとうございます」
――ピッ
通話が切れる。
大手ギルドの3級は忙しそうだ。
「お兄ちゃん、また仕事?」
「葵、おはよう。まぁそんなとこだ。それより学校はどうした?」
平日の9時過ぎ。
家にいた葵に少し驚く。
「お兄ちゃん寝ぼけてる?今日は祝日だよ」
「えっ?!…………あ、そっか。学校は祝日休みなんだよな。学生最高かよ」
「何それ。妹に社会の闇なんて見せないでよね」
「それ、頑張って働いてる全社会人に失礼だからな」
覚醒者も実質仕事みたいなもんである。
案外自由な仕事ではあるが、一方で命を落とす危険が高く時間や場所の制限は無い。
楽そうな仕事が実はブラックだった――なんてよくある話。
「ちょっとは準備しておくかー」
眠そうにテレビをつける葵の背中を見て、俺も何かしようと攻略に向けた準備をそれとなく進める。
――その2日後。
赤崎さんからの連絡でこの日に攻略することを聞いた俺は、できる限りの準備をしてダンジョンゲートの前に赴いていた。
準備……と言っても、アウトブレイク時に従魔にした悪魔たちを合成しただけだが。
「なんだお前?……あぁ、赤崎が言ってた荷物持ちの奴か。運ぶ荷物はあっちに置いてあるから確かめておけ」
ゲートの前にはかなりの人数の覚醒者が既に集まっている。みんな強そうな雰囲気を纏う猛者ばかりだ。
中でもあの1級、セブンスゲートギルド長の息子、七瀬
さすがナンバーズ。
化け物じみた能力は遺伝ってわけだ。
「えーっと、荷物はこの辺にあるって……」
「あ、君も荷物持ち?」
指定された場所まで来てみると、大量の荷物と一人の男性が座っていた。
彼は俺の顔を見るなり駆け寄ってくる。
「あぁ、九十九涼だ」
「僕は
すらっと細い腕を上げて、力こぶしを作ってみせる。どう見ても重いものを持てる腕では無い。
「あ、今細い腕だって思ったね。僕は身体強化っていう能力を持っているんだ!だからこの程度は簡単に持てるんだよ」
その見た目で前衛なのか……。
「周囲からは魔法使いみたいだと言われるんだ……。僕は気に入っているんだけどね」
かなり見た目と偏見によって意外性が生まれているが、それも個性の一つ。否定することでは無い。
「別にいいだろ。それは紛れもない翔の力で、どう扱うかも自分次第だ。気に入ってるなら堂々と使えばいい」
「――っ!!涼君!!君はいい人だね!」
「な、なんだよ!くっつくな!」
突然手を握られて焦る。
そのまま上下に振られて喜ばれるが、どこにそんな喜べる要素があったんだ?
茶髪のイケメンに迫られる身にもなって欲しい。
「ところで、涼君はランクはいくつ?僕は4級さ!」
「俺は5級だ。困った時は頼らせてもらうよ」
「もちろんだとも!!僕に任せておくれよ!」
変なやつだ。
変なやつだが、どうやら良い奴ではあるらしい。
ここまで純粋な好意を向けられると、こちらも悪い気はしない。
「……荷物持ちは翔だけか?」
「そうみたいだね。この程度であれば、問題ないよ!」
「リュックは3つあるのに二人なのか」
まるでもう1人来るかのような準備だと言うのに、よく分からない荷物だな。
さすがにもう一人来ると思うんだけど……
「お、遅れましたぁーーー!!すみませんっ!荷物持ちに呼ばれた
「よ、よろしく……」
「大丈夫だよ!まだ集合時間前だからね!」
また不思議なメンツが集まったものだ。
……不安しかねぇ。
「あ、私は4級です。サポート系の魔法を使えますぅ。筋力にもそこそこ自信があるので、任せてくださいー!」
ってことはあれか。5級は俺だけってことだ。
なんだろう。このアウェイな感じ。
このダンジョンであれば、4級も5級も変わらないってことなのか?赤崎さん、さては仕組んだな?
「おーい、荷物持ち集まれ!攻略始めるぞ」
一通り自己紹介が終わったところで、遠くから呼ぶ声がする。
ついに攻略が始まる。
「全員集まったか?」
ゲート前まで移動すると、今回のリーダーである七瀬遥輝が待機していた。
その横で鋭い目つきを巡らせる男が、全員が集合したことを確認して七瀬遥輝に合図を送る。
「皆さん、セブンスゲートの招集に応じていただきありがとうございます。今回のダンジョンはイレギュラーな出現の上にかなり高ランクのダンジョンです。
皆さんの実力が確かな高ランク覚醒者である事は重々承知しておりますが、くれぐれも無理はせず、いのちだいじにで、進んで行きましょう!」
丁寧な演説を挟み、覚醒者たちの指揮をあげる。
前に見た七瀬重吾とは全然違う印象を受けるな。こっちの方が好感を持てる。
「ずいぶん丁寧なリーダーだね」
「ですね。前に御一緒したお父様はもっと荒々しかったです」
ほかの二人もこう言うのだから、俺の感想は間違っていないだろう。
どこか赤崎さんに似ているのは、赤崎さん側が彼のことをリスペクトしているからに違いない。今度聞いてみようかな。
「では行きます!」
前衛から順に、攻略隊のメンバーがゲートへと侵入していく。荷物持ちは一番最後だ。
こうしてゲートを目の前にすると、やはりこのダンジョンはレベルが高いことが魔力として伝わってくる。
俺も警戒して進むべきだな。
「僕達も行こう」
「あぁ」
「行きましょう!」
こうして初の高ランクダンジョンへと踏み入れた。
――これが長い一日の始まりになることは、まだ知らない。
――この日が、俺の人生の大きな転換点になることも
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