episode20 : 迷宮の扉と鍵
「にしても雰囲気ありすぎだろ。この人魂(?)は何のためにあるんだ?」
青い火の玉が、墓地の中をゆったりと飛び回っている。
試しに触れてみたものの、何も感じないし何も起こらない。
触れているのかすらよく分からない感覚。
別にホラーは苦手じゃないが、好きでもない。
理由もなく飛んでいるとは思えないが、敵対していない以上は気にかける必要性は感じられない。
「まずは周囲の鑑定確認からだ」
『――広域鑑定』
えーっと、どれどれ。
レイスLv60、レイスLv62、ゴブリンゾンビLv65、etc……。
案の定、アンデット系の魔物ばっかり。
ゾンビはいいとして、レイスとかの霊体系の魔物は物理攻撃が効かないだろうな。魔法……あ、ブランが光魔法覚えてたっけか。
魔物のレベルが高くなってきたし、レベル上げをするならここがいい。
適正の光魔法(だろう)を覚えた従魔がいるが、俺も物理攻撃が効かない相手の戦闘対策を考えなくてはならん。
良かったなブラン。早速大活躍の未来が…………
「……なんだ?あれ」
残り2時間ちょい。
ここからレベル上げをしようと意気込んで顔を上げ、俺は早くもその違和感に気がついた。
ここは墓地だ。
通路脇にはどこまでもお墓が並んでいて、暗い雰囲気を漂わせている。
だと言うのに、明らかに墓地には不似合いな物が、通路のど真ん中に佇んでいた。
「扉……だな」
決して大きくも立派でもない。
ごくごく普通の、一般的な木製の扉。ハイレバーが付いていて、鍵はなく、どこの家にもありそうな扉。
ここが家の中ならば、1ミリたりともおかしいとは思わなかっただろう。
だが、ここは屋外。それも巨大な墓地である。
そんな通路にぽつんと佇む扉を見つければ、誰だって違和感を覚えるに違いない。
いや、感じてくれ。
でなければそいつの感性を疑う。
「開けられる……のか?」
恐る恐る近づき、そのハンドルに手をかける。
少し力を入れただけですんなりと開く扉。
ただ扉だけのはずが、その先は謎の空間へと繋がっている。どこか既視感のある空間……
――青いモヤモヤとしたゲート
俺はハッとした。
既視感を感じて当然だろ。
それは、俺たち覚醒者が嫌という程通る、あの
「無限迷宮にダンジョンがあるのか?!……待て、そもそもこの
今更になってそんな疑問を持つ。
ダンジョンと似て非なるもの。
ならばこの扉の先は?
もう一度戻ってこられる保証もない。
……いいのか?入っても。
不安に駆られて怖気付いた心が揺れる。
「ここまで謎だらけの現象に振り回されてきたんだ。一つや二つ、一緒だろ!」
俺は不安を払い除け、見えない空間の先へと踏み入れた。
ゲートを潜り抜けた先。俺を待っていたのは真っ白の空間だった。
白い天井に白い床。
もうどこが壁なのかも分からない。
夢の中に迷い混んでしまったのかと勘違いしてしまうほどに。
けれど、武器を持つ手には確かな感触がある。
何より、中央にでかでかと構えた巨大な扉が俺の意識を現実に引き止めていた。
「扉の先にまた扉……。賢能、何か分かる?」
『使用可能のアイテムが存在します。取り出しますか』
「ここで使えるアイテムってことか。出してくれ」
俺が前に手を出すと、光の泡の中から一本の鍵が出現した。
――紅の鍵
《アイテム名"紅の鍵"が試練の扉と共鳴します》
「……誰?賢能の声じゃないよな」
無機質で淡白。
そして聞き慣れない声質。
《紅の間へ繋がりました》
《――紅の試練 Lv70》
いつの間にか手の上にあった紅の鍵は消えていた。
その代わり、目の前の扉が紅く発光する。
「紅の試練……。レベル70か、高いな」
何故こんなものが無限迷宮内にあるのかは分からない。
構わず、先に進むことだっておそらくできる。
怪しいから逃げる?
――有り得ない。
「挑戦するには中に入ればいいんだな。……ここってもう一回戻ってこれるのか?」
『はい。この扉が消滅することはありません』
なら、一度レベルを上げて戻ってこよう。
『この場所にセーブポイントを設定できます』
「あ?あぁ、そんなスキルもあったっけ。自由に頼む」
セーブポイントまで作れるなんて、よく分からないスキルだよ本当に。
この状況ですら、想定されていたかのよう。賢能とは違う
……賢能、お前はどこまで知っているんだ。
『回答できません』
未だこのスキルについても謎が多いまま。
この先に行けば、何か分かるのかもな。
「一度戻る。挑戦は次の時間に」
『了解しました』
俺は紅く染った扉を一瞥して、元の扉を通り抜けた。
『残り時間は1.31.30……』
あと残り一時間半。
――召喚
「全力でレベル上げする。全員敵を見つけ次第殺せ。あ、イーグルは俺のサポートしてくれ」
魔法、使えないし。
俺の命令で散っていく従魔たちを見届け、俺もレベル上げのために移動する。
既に俺のレベルは61。
――威圧
レベル以下の魔物は従魔にしてさらに強化を行う。
『――従魔の誓いが発動します』
今ので従魔になったのはレイスLv60が8体。
ゾンビ系はレベルが高いのか、一体も反応しない。
「はい合成」
レイス8体が4体になりLv71に。
さらにその4体が2体でLv76。
『合成完了。レイスLv76がスペクターゴーレムLv80に進化しました。
スペクターゴーレムLv80
HP/1680 MP/2400
STR +74
VIT + 50
DEF +21
RES +58
INT +107
AGI +128
所持スキル
闇魔法Lv5 風魔法Lv5 影渡りLv3
浮遊Lv3 怨霊Lv5
称号効果
霊体の心Lv1 物理攻撃を無効化
亡者の守護Lv2 味方の全魔法耐性アップ』
おっふ……。つ、強すぎる。
――召喚
試しに喚んでみた。
身体は青白く、デフォルトで中に浮かんでいる。ゴーレムの名前通りガタイがよく、レイスの細身な身体と比べて実に5倍以上の体積がある。
俺と比べても縦横共に2倍以上ある。
とにかくでかい。
……迷宮に入ってからデカいしか言ってないかも。
「防御力が低いけど……、そもそも物理攻撃効かないもんな。RES値は初めて見た。魔法抵抗力だっけか?他のステータスと比べると低いが、称号で全部カバーできる。弱点らしき弱点がない、最強か」
俺がそう呟くと、目の前のゴーレムが小さく首を振った……ように見えた。
褒められたことを理解したのだろうか。
『上位種への進化を確認。従魔の上位種には名付けが可能です』
「じゃあ、ベクターで」
名前にこだわりはないし、パッと出てきた名前を付ける。
ペクターだと可愛すぎるしな。
……もしオスメスの区別があったらあれか。メスだったら可哀想なことをしたかもしれん。
「?」
「気にしてないか」
言葉は発しないが、特段気にしている様子は無い。
「ベクター、お前も適当にレベル上げして来い」
簡単な指示を出して、他の従魔と同じようにさせる。
あちこちで魔物を倒しているからか、気がつけば俺のレベルも上がっている。
きっと全従魔のレベルもかなり上がっている。
制限時間が終わったあとが楽しみだ。
――ストーンブラスト
「おら、レベルが高いからって調子乗んなよ。今から俺が相手だ」
威圧が効かなかった魔物が、ベクターを生み出していた間に集まってきていた。
魔物がそれぞれ恨みや妬みを持って、こちらに殺気を剥き出しにしてくる。
……舐められてるな、俺。
――ストーンブラスト
――疾走
「全員殺してやる」
ゾンビには短剣で、レイスには魔法で、殺意を向けた魔物共を一掃する。レベルアップの速度も凄い。
気がつけば口元には笑みを浮かべ、俺は軽い動きで暴れ回った。
『――九十九涼のレベルが61→73へ上昇』
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