episode19 : ボスラッシュ
さて、意気揚々と敵に挑んだのはよかったが……
こいつダメージ受けてるのか?
従魔たちの魔法や物理攻撃だけでなく、俺の急所突ですらダメージを与えられているのか分からない。
それほどまでに硬い。鋼鉄の名の通り、ナイフで鉄を殴っているようで手応えがない。
魔法攻撃は……まぁメタも効かないし、分かってはいた。
「おっと、全員しっぽの攻撃には気をつけろ。毒があるぞ……たぶん」
左右の立派な触肢に気を取られていると、サソリの身体に隠れたしっぽから強烈な一撃が飛んでくる。
地面を抉る勢いの攻撃。
当たればひとたまりもない。全力で回避に徹する。
なお、この注意はサソリに対する偏見から来るものだったり。
何故か毒の攻撃があると思っているだけ。
『――鑑定』
弱点を調べると、しっぽの付け根と腹にマークが着いている。
無論、戦闘を開始した初手に鑑定を行って調べてはいた。
その上でこちらの攻撃が通用していないのだ。
「効いてないよな!これ」
『弱点を攻撃できていません』
「はぁ?しっかり命中させているぞ」
しっぽの付け根をよく注視して確認。
間違いなくマークされた位置に攻撃は当てたはず……。
「もしかして、あのマークは表皮の下?」
分厚い殻に似た表皮。
あれの下に弱点があるとすれば、今までの攻撃は無駄だったのか。
しかも、あの硬すぎる金属性の殻を破壊しないと弱点が出てこないときた。
レベル差では圧倒的にこちらが有利なはずなのに、随分と厄介な相手だ。
「メタ!――武具変形"ハンマー"」
メタが手に入れた新しいスキル。
――武具変形
特定の装備に身体を変形させられる、メタルなスライムにピッタリのスキルだ。
俺はメタを近くに呼び寄せてハンマーに変形。
俺の身体と同じ大きさのハンマーが、ドスンと音を立てて出来上がる。
はいそこ。
質量増えてね?とか言わない。
きっと、魔物特有の不思議な何かがあるんだ。
気にしたら負け。
「あとは、持てる重さに変更してくれ」
そして、メタの称号効果も進化している。
――スライム心Lv3
自身の重さを自由に変更可能。
巨大な金属ハンマーも、これを使えば打撃の瞬間だけ重量を重くできる。
機動力を落とすことなく効果的な攻撃ができる優れものだ。
これであの硬すぎる殻を破壊してやる。
「よっ。まずはこの触肢の攻撃を何とかしないと……なっ!」
攻撃のために近づくと、両側から太い触肢の一撃が襲いかかる。
無理に近づいてもこちらが怪我をするだけ。
上手く後方へ回避しつつ、俺は従魔へ指示を出す。
「イーグルは敵のヘイトを稼げ。ブラン、スライム、敵の動きの妨害だ」
土魔法、めちゃ便利。
デフォルトで空を飛ぶイーグルと組み合わせると、敵の行動阻害力が格段に増す。
何より……
――疾走 ――影渡り
生成された土魔法による影の出現によって、影渡りの移動先が増えるのが大きい。
敵の意識外から影に潜り、確実に当てられる位置へ移動する。
影から勢いよく飛び出せば、俺のすぐ横にしっぽの付け根が通り過ぎていく。
俺は勢いに乗ってやや空中に取り残されるが、その間にハンマーを大きく振りかぶって狙いを定める。
「ここだ――っ」
重力に従って地面へ落下する。
その力を利用してハンマーを振り下ろす。そこにメタの
キエェェェェェェェェェェェェ!!!!!
弱点もろとも殻を踏み潰す。
痛ましい悲鳴が荒野に響いた。
空き缶を平たく潰したように、ハンマーの下には潰されて無残な姿になったしっぽの付け根が。
本体が動けばしっぽは取れてしまうだろう。
「ブラン、イーグル、潰れたしっぽを攻撃しろ。俺は……まぁ、厄介だった触肢でも破壊してくるか」
もはや動けなくなったボスに苦戦することはなく、ただ敵のHPが無くなるのを待つだけ。
襲ってきた相手に慈悲を与えるつもりは毛頭ない。
『鋼鉄のスコーピオンLv38を倒しました。
第六層のボスの討伐を確認しました。
第七層へ転送します――』
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
第六層で予想以上に時間を浪費してしまった俺は、かなり駆け足で第七層を駆け抜けた。
合成でレベルの上がったデザートイーグルの千里眼Lv5と、俺の土魔法――ストーンブラストの相性が抜群。
七層は荒野ではなく砂漠で、大変見晴らしもいい。
広域鑑定とストーンブラストで確実に命中させ、魔物の存在は千里眼で丸わかりだ。
隠密やら潜伏のスキル持ちサソリがいたが、魔力が透けて見える千里眼の前には無力。
この戦法はMPが気になるところだが、このストーンブラストは威力の割にMPが低い。
雑魚狩りには最適の魔法だ。
「ボスは……まだ感知出来ないな。一応地面の下もしっかり見てはいるが」
何処を調べてもボスらしき痕跡は見つからない。
サソリの他は、相変わらずデザートイーグルが空を飛んでいたり、全長1.5メートルくらいのムカデがいたり……。
緑がほとんどない景色に、いい加減飽き始めている。
またどこかに隠れている系ボスか?
そううんざりしかけたその時、イーグルの千里眼にやや濃い魔力が映った。
ようやくボスのお出ましか!
俺は水を得た魚のように、ウッキウキでその魔力の方向へと駆け出した。
砂漠に水なんて無いだろ……と、走りながら例えの悪い俺へ自らツッコミを入れてみる。
――その余裕がフラグだったとでも言うのか。
近づくにつれて正面に見え始めたのは、荒野にもほとんどなかった緑色。そしてないだろとツッコミを入れたばかりの
いわゆるオアシスだ。
そして、その中央の浮島に聳え立つ一本の巨大すぎるヤシの木。
……一本じゃないな。一匹?一体?
「……なんでも巨大化させればいいって訳じゃないぞ」
そのヤシの木には名前があった。
【――バイオレントパームLv45――】
つまるところ、トレントヤシの木バージョン。
しかしこれまでに出会ったトレントとは、規模感もレベルも見た目も遥かに違う。
過酷な環境を生き抜いたという貫禄すら感じる。
「ボスはムカデか何かだと思ってたけど、植物相手なら得意分野だ」
この一撃で終わらせてやる。
武器をクリスタルの杖に持ち変え、水平に構える。
――火炎球×5
5本の紅い光線がヤシの木目掛けて発射。
その先に火の球が5つ、静かに生成された。何だかんだで見慣れた光景。
「爆ぜろ」
杖の先が淡く明滅し、次の瞬間にはヤシの木が見えなくなるほどの大爆発を起こす。
いつ使ってもぶっ壊れの魔法だよ。
動きの鈍い魔物には、とてもじゃないが避けられない。
『第七層のボスの討伐を確認。
第八層へ転送します』
良かった。今回はしっかりボスだったようだ。
こうして七層を駆け抜けた俺は、そのままの勢いで八層、九層も難なく突破した。
――第八層ボス、【――ミルメコロンLv52――】
荒野、砂漠ときてサバンナがテーマの層。
ボスのミルメコロンはライオンを縦に潰したような、気持ちの悪い姿の魔物だった。平たい体でコソコソと動く姿はまるでG……。
気持ちが悪かったので、疾走と影渡りでサクッと倒した。
――第九層ボス、【――ジャイアントアンツLv60――】
その名の通り、アリの群れのボス、女王アリ。
常に何百匹ものフィラーアンツを従えて、質より量タイプの魔物だった。
この層自体、アリ系の魔物ばかりだったため、対処はかなり楽だった。土魔法、超便利。
密封された土の竈で大量の蒸しアリを誕生させた。
……さすがに食べれないからな?
二層をたった一時間で駆け抜けた俺は、ついに第十層まで辿り着いた。
「うっ、いつになってもこの転送には慣れない……。ここが十層?またガラッと雰囲気が変わってんな」
転送の光から落とされた俺は、目を擦って地面に足が着いたことを確認。
そして、顔を上げる。
第十層。
テーマはホラーかな。
転送された場所は夜の墓場。
おどろおどろしい雰囲気に、辺りを漂う人魂のような青い光。
不気味な静寂に包まれた第十層に、俺は思わず息を飲んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます