episode18 : 合成と進化

「先に移動してたイーグルのレベルも上がってるんだ。魔物を誰が倒したかは関係なく、従魔も俺と同じ経験値量が入ってるらしい」


 俺がレベルを上げれば、従魔全体も強くなる。

 俺という個人の強さだけじゃない、という団体の強さで戦力が測れる。


 俺は今、どのレベルにいるんだろうか。

 もう2級くらいの実力はあるかな。


『戦闘中です。集中してください』

「って言ってもな……」


 現在、俺は第六層のボスであろう『ポイズンコブラLv38』と戦闘を繰り広げていた。


 いや、俺は戦闘に参加してないし、繰り広げるという表現も不適切だ。――している。

 大袈裟だと笑うかもしれないが、これを蹂躙と呼ばずしてなんと呼べばいいだろう。


「いいぞー。今のうちだ」


 俺の視界には今、従魔となったイーグル三羽とサソリ二匹、スライム六匹が十メートル以上ある巨大な蛇を囲み、容赦なく攻撃している様子が映し出されていた。


 イーグルは持ち前の飛行能力と高い素早さ、そしてレベルアップで覚えたスキル"挑発"を使ってボスを翻弄。

 ロックスライムの土魔法で移動を制限しつつ着実にダメージを与え、その上サソリがトドメとばかりに猛毒攻撃する。

 たった同層の従魔達だけでこの連携の高さだ。


 もはやボスが見ていて可哀想になってきた。


「でも、やや火力不足が否めないか」

 毒に土魔法、時にイーグルが爪で攻撃してはいるが、どれも決定打にはなっていない。

 HPに上限がある以上いつかは倒せるだろうが、効率には劣る。


 仕方ない。全体的な把握はできたし……

――疾走 ――急所突


 新しく買った短剣をフルに活かした一撃で、俺は巨大な蛇を絶命させた。


 ふむ。高かっただけはあって使いやすい。

 前は長剣で戦闘したけど、やっぱり短剣の方が扱いやすくていいや。


『ポイズンコブラLv38を倒しました。九十九涼のレベルが50→51に上昇。

 新たなスキルを獲得

――従魔合成』


 お?久々にレベルアップの表示が出た。

 しかもスキル付きだ。


「従魔合成?同種の魔物を合成すればより強力な個体が……的な?ソシャゲにありがちなやつね」


 では――従魔合成


『合成する従魔を選択してください』

 スキルを発動させると、それ専用の表示が出てきた。

 左右に選択できる枠があって、真ん中にプラスマーク。んで、下に結果表示の枠。


「そうだな……、んじゃちょうど二体いるサソリで」

『夜の蠍Lv41と夜の蠍Lv41を合成します。よろしいですか?』

「はい」


 するとどうだ。

 さっきまでそこにいたサソリが光の泡となって、この表示の枠へと吸い込まれていった。


 テレレレー

『合成完了。夜の蠍Lv41は月光の蠍Lv53へ進化しました。

【――月光の蠍Lv53――】

HP/850 MP/460

STR――72

VIT――45

DEF――68

INT――35

AGI――41


◇所持スキル

土魔法Lv3 光魔法Lv3 隠密Lv5 猛毒Lv7


◇称号効果

月光の恩恵Lv1 : 夜(18時〜6時)の間、全ステータスが1.5倍

荒野の王Lv1 : 土属性無効化


 ゲーム音っぽいSEが聴こえ、同時に合成結果が表示。俺の視界いっぱいに広がる強すぎるステータスに俺は驚きを隠せない。

「おかしいだろ……。俺より強くね?」


 進化って何?

 強くなりすぎだって。俺よりレベル高くなっちゃったし……、何よりスキルレベルが高ぇ。


 大丈夫?レベルが上がりすぎると言う事聞かなくなるって状態にはならない?嫌だよ。せっかく従魔にした魔物に襲われるの。


『スキル従魔の誓いは永続効果です。こちらから破棄しない限り問題ありません』

「そ、そうか……。良かった、のか?」


 あまり安心できない賢能の言葉に引きつった笑みしか出てこない。


『上位種への進化を確認。従魔の上位種には名付けが可能です』


 立て続けにボードからメッセージが表示される。

 上位種には名前が付けられる。……ってことは名前がつけられないやつは皆下位種?

 違う。ダンジョンの魔物には変異種やら特異種と呼ばれてたやつもいた。全ての魔物を同じだと一括りには出来ない。


「そうだな……。サソリ、荒野、月光……」

 実は俺、名付けとかあんまり得意じゃない。

 ゲームとかの主人公はカタカナでリョウだし、仲間に関してはいつもおまかせを選ぶタイプ。


「んじゃ、今日からお前はブランだ。文句は勘弁しろよ」


 確か、どっかの言語で月はブランと言う。詳しい場所は忘れたけど、安直かつ無難な名前だろ?


「とりあえず、他の合成も試してみよう」


 俺は手当り次第、合成できる従魔達を合成枠へぶち込んでいく。

 スライムはスライムと、イーグルはイーグルとしか選択出来ないとこを見るに、やはり合成は同じ魔物同士でしか行えないらしい。


 ボードを選択するだけで合成が完了。

 あっという間に一通りの合成を終えた。


 残った従魔はこんな感じ。

『ブランLv53

 デザートイーグルLv56

 ロックスライムLv51

 メタ(メタルスライム)Lv53』


 おっと、一匹著作権ギリギリの奴がいる。

 倒せば大量の経験値が入りそうな名前だ。


「進化したのは結局二匹だけ……。しかも同じスライムだったのに進化した個体とそうでない個体がいる。進化の条件が謎だ」


 まさか運ゲー?

 合成時に確率で進化するってことなら、理解はできるが納得はいかない。

 ゲームなら明らかなマゾ仕様。


「ま、ステータスは大幅に上がったし、文句はこの辺りで終了」


 ………………?


 そういや、全然階層の転送が行われない。

 結構な時間合成してたと思うんだけど。

 ――まさか


「賢能さん、転送ってまだですか?」

 俺はその事実を嘘だと信じて賢能に問う。


『――ボスの討伐が確認されていません』

「やっぱりかぁぁぁ!!」


 言われてみれば、蛇を倒した時にとは言われなかった。

 つまり、あれはボスではなかった。ただそれだけ。


 いいや。まだ萎えるには早い。

 ここに巨大な魔物がいたということは、この辺りに何かがあるって事。

「賢能!」

『――広域鑑定』


 慌てて周囲を見渡す。

 ロックスライムやイーグルなど、見慣れた名前ばかり。特別怪しい魔物の名前は……


「ダメか。ん?メタ、どうかしたか。地面になにか――」


 召喚したままのメタルスライムが、何やら俺の足元でプルプルと震えていた。

 広域鑑定効果が残った状態で、下へ視線を移す。


「なっ」

 それを俺の目が捉えたのと、地面が揺れ始めたのはほぼ同時。

 鑑定が向いた方向にしか表示されないのを失念していた。鑑定に頼りきっていた罰とも言える。


「下だとっ?!」


 地面のさらに奥深くに、小さく表示されたがこちらへ移動してくる。


【――鋼鉄のスコーピオンLv38――】

 現れたのは全身が硬い金属性の殻で覆われたサソリ。ボス個体は通常の魔物の進化とは別なんだろう。


 蠍にスコーピオン、鋼鉄とメタル……

 カタカナか日本語か、どっちかに統一しろよ。ややこしいわ。


 キエェェェェェェェェッッッ!!!


 そんなツッコミも虚しく、耳を劈く嫌な咆哮が戦闘の合図となった。


「お前ら、進化した力の差を見せつけるぞ」

 俺は従魔達と同時に前へ踏み出した。

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