episode17 : 従魔の可能性

「迷宮よ!!私は帰って来たぁぁぁ!!!」


 澄んだ空。照りつける日差し。一面に広がる黄土色の岩石。遠くに見えるのは蠍か?でかいな。


 そんなことより、俺は待ちに待った無限迷宮に再び戻ってきていた。階層は6階。前回の続きからとは良心的設定だ。


『無限迷宮第六層。

出現レベル : 32〜38、残り時間は5.59.42……』


 つっても、数日前の裏ダンジョンでレベルは50に到達。転職もしてるしステータスも大幅に上がっている。


 この階層じゃ相手にはならなそう。

 ……待てよ?


「俺、前回五層の魔物片っ端から倒したのに、ルーンの石なんて一度も見なかったよな?もしかして、無限迷宮の魔物はドロップしないのか……。だとすればレベル上げ以外やること無くね」


 最高潮だったモチベが2割ほど減る。

『ルーンの石はダンジョンのボスからのみドロップします』


 賢能の追加情報がさらに1割モチベを下げる。

『ですから、魔物の従魔契約を推奨します』

「それだっっっぁ!!!!」


 俺のモチベが天井ぶち破って際限なく上がる。


「そうと決まればまずは一体、さっきの蠍でも仲間に……」

 せっかくの第一仲間はなるべく強い方がいい。

 そう思い1歩踏み出して――


「ピュイっ」

「あ?」


 何かを蹴飛ばした。

『ロックスライムとの契約が完了しました』

 そして勝手に従魔の誓いが発動して、スライムが仲間になった。


 ステータスが上がりすぎたせいで、足に軽く当たっただけでダメージを与えてしまったらしい。


 ナルホドナー。己の力を示すってのは、相手のHPをギリギリで残すことを指すのかー。

 初めに試せて良かったナー。


「ってなるかぁぁ!!!!俺の初めての従魔契約が……」


 違うぞ?スライムが嫌なわけじゃないんだ。

 けどさ、ほら。もっとこう……死闘の激戦を繰り広げて、ようやく仲間に――みたいなさ。そういう激アツ展開があっても良かったじゃん。


 足元の不注意でスライムを蹴飛ばして従魔って……、せめてちゃんと戦おうよぉ。


「はぁ、とりあえずステータスの確認を」

【――ロックスライムLv32――】

◇所持スキル

変身Lv2 硬化Lv3 土魔法Lv2


◇称号効果

不動の極意 : 魔法攻撃無効

スライム心 : 自身の軽量化


 ……思ってたより強いぞ。

 特にこの不動の極意。魔法攻撃の無効化って、上手く使えばかなり汎用性高いよな。


 しかも土魔法も使えるときた。

 火の魔法とかと違って、直接足場にできる岩を生成できたりするから、俺の戦闘スタイルとかなり相性がいい。


「問題は意思疎通が取れるかだけど」


 俺の足元から動こうとしないスライムへ視線を移す。

「ピュウ……」

「お前、俺の言葉わかるか?」

「ピュイ」


 身体をプルプル震わせている。

 これは通じていると考えていいのだろうか。


「んー、じゃあ、その場で跳ねて」

「ピュイっ!」


 俺が命じてみるとその場でぴょんぴょんとはね始めた。スライムだからかなりぎこちないが、懸命に跳ねているのがわかる。


「な、なんか……可愛い、かも」


 スライムの言葉は通じないけれど、俺の命令に一生懸命答えようとするその姿勢に愛おしさを感じてしまった。


「けど、お前あんまり素早く動けないよな。……重くなければここに入れるけど」


 一旦手で持ち上げてみた。

 すごく軽い。

 石のスライムとは思えないほど軽い。なんなら片手でも余裕で持てる。サッカーボールより軽い。

 俺はそのスライムを服のフードに入れてみた。


「おぉっ、ぴったり」

 たまたまフード付きの服で来たけど、予想外に役に立った。これなら移動には困らない。


「よっしゃ、行くか!」

「プィっ」


 しかしあれだな。従魔にするやつは選ばないと、移動が不便になるな。

 むやみやたらに仲間にはできない。


『問題ありません。従魔は従魔管理機能によって保管が可能です。保管している従魔は召喚でいつでも呼び出せます』


 はい最強と。

 保管場所は無限。つまり戦力も実質無限。

 汎用性抜群、俺へのリスクは低い。


「召喚時に多少のMPが消費されるとは言っても、そこはレベルアップでどうとでもなる。いったい俺はどこまで強くなれるんだ……?」


 歩を進めながら、俺は際限の無い強さに期待をふくらませていた。



 六層を回って分かったことがある。

『――広域鑑定』

――疾走

――威圧


『九十九涼より低いレベルの魔物へ、従魔の誓いが発動します。ロックスライム×5、デザートイーグル×3、夜の蠍×2との契約が完了』

「保管してくれ」

『了解しました』


 威圧が強い。

 基本的に、誓いを発動させるにはHPを減らすしかない。が、威圧はその条件を無視して契約させられる。

 なんとまぁ、魔物に己の力を示すって条件は随分緩いらしい。


 そしてもうひとつ。

 魔物はレベルによらず個体差があり、更には同じ等級クラスの魔物であっても種類によってかなり強さに違いがあること。


 例えば一番初めに仲間になったロックスライム。

 契約完了時にも経験値が手に入るから、既にLv37。

 そして新たに加わったこっちのロックスライムのレベルは33。圧倒的にレベルの高いスライムの方が強い。


 しかも、レベルの低いロックスライムは土魔法を覚えていない。だが代わりに、レベルの高いスライムと同等のSTR値を有している。


 種類の方も不思議で、この層に出てくるデザートイーグルと夜の蠍は、この間本屋で買った魔物図鑑にいた。

 その中で今の二体は同じ4級ダンジョンの魔物だという。


 だと言うのに、明らかステータスに違いがある。

【――デザートイーグルLv35――】

HP/240 MP/68

STR――20

VIT――12

DEF――10

AGI――34


◇所持スキル

疾走Lv1 千里眼Lv3



【――夜の蠍Lv35――】

HP/342 MP/110

STR――42

DEF――25

INT――12

AGI――30


◇所持スキル

土魔法Lv1 隠密Lv3 猛毒Lv3


 ってな感じだ。

 ここが無限迷宮という特殊な場所であることを抜きにしても、同じ等級の覚醒者が相手にしていい魔物では無いだろう。


 たしかに3級覚醒者であればどちらも苦戦しないかもしれない。

 けれど、ダンジョンや魔物、覚醒者の等級分けが雑であることは、いつか大きな危険を引き起こす。


「変な話だよな。等級を分けてるのは、貴重な覚醒者を無謀な戦闘や探索で死なせないためのものだ。でも、これじゃあ逆に油断の原因に繋がる」


 俺はレベルを重視しているから問題ないが、一般の覚醒者たちは違うんだ。


 5級の俺が声を上げたところで無意味だ。けれど、せめて知り合いにはこの危険性を知ってもらう必要があるな。

 戻ったら赤崎さんには伝えておこう。


「……それにしても、この階層広いな。もう結構な距離歩いてきた気がするんだが、鑑定では未だにボスの反応がない」

 限られた時間しかないし、これを逃せばまた三日後だぞ。何とか探し出さなければ。


「賢能さんや、何かいい方法はないすか」

『――回答。デザートイーグルの所持スキル、千里眼が使用可能。半径数キロに渡り魔力の気配を感知するスキルです。また、このスキルは共有ができます』

「おぉナイスイーグル。早速――召喚」


 何となく前に手をかざして喚びかけると、淡い光を放って俺の目の前にイーグルが召喚される。


「ボス探し、頼めるか」

「キィ!」


 元気の良い返事をして、イーグルは空高く飛び立った。そして千里眼を使ったのか、俺の視界に何やら不思議な感覚が共有される。


 見ている視界そのものは変わらないが、その中の所々に紫色のモヤが映る。

 それは遠くになるほど揺らぎが小さく、近いほど大きい。魔力が濃いほど濃い紫、薄いほどピンクに近い色だ。


「これが千里眼の共有か。イーグルの視点がそのまま共有されるわけではないんだな」


 さて。

 どこを見てもややピンクに近い色の魔力ばかりだが……

――いた。


 明らかに1箇所だけ色が違う。

 遠いはずなのに、揺らぎがよく見える。

 それだけ大きい相手なんだろう。


「イーグル!あっちだ」

「キィィッ!」


 俺が指し示した方向へと、イーグルはかなりの速さで飛んで行った。疾走か。


 俺も従魔には負けてられない。

――疾走


 空の移動に張り合い、俺は一気に駆け出した。


「あ、鑑定よろしく」

『――広域鑑定』

「いるいる。――ストーンブラスト」


 ついでにレベルも上げるため、地面を走りながら見つけた魔物を片手間に倒していく。


 ボスは千里眼で見えた以上に距離があった。

 結局、ボスの元へたどり着くまでに疾走の効果は切れ、従魔のレベルは40まで上昇していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る